目には目を、の言葉どおり、魚雷に対し魚雷で対抗するという世界初の新兵器が展示会に出展されました。アメリカ軍も断念したというその新兵器を開発したドイツ企業、前身はUボートを建造していた会社だそうです。
2019年11月18日から20日にかけて、千葉県の幕張メッセで開催された日本初の総合的な防衛装備品展示会「DSEI Japan」に、世界初となる「魚雷を迎え撃つための魚雷」が出展されました。水上艦艇と潜水艦との戦い方が、また少し変わるかもしれません。
ドイツ海軍の多目的支援艦「ヘルムザント」に搭載された魚雷を迎撃する魚雷「シースパイダー」試作システムの装備一式(画像:アトラスエレクトロニーク)。
ほんの150年ほど前まで、戦争で海上における水上艦艇の敵といえば、同じく水上艦艇のみでした。やがて近代的な潜水艦が登場し、そして第1次世界大戦でドイツ軍が投入した潜水艦「Uボート」が、そうした常識を大きく塗り替えます。こっそり接近して海中から攻撃を仕掛けてくる、あるいは浮上して砲撃してくるこのUボートは、各国の軍艦や商船などに対して甚大な被害を与えました。
それから100年以上が経過した2019年現在、潜水艦は技術革新によって静粛性を向上させ、さらに連続して潜航できる期間を大幅に長期化させることに成功し、水上艦艇にとってはさらに危険な存在となっています。
潜水艦が誇る最強兵器「魚雷」 どうやって敵を攻撃する?潜水艦にとって最強の武器は、一撃で艦艇を戦闘不能にしてしまうほどの威力を持つ魚雷です。特に、現代の魚雷は敵艦艇を正確に攻撃できるよう、各種の誘導システムを搭載しています。たとえば、相手の艦艇が航行中に発する音をソナーで探知してその方向に進む「パッシブ方式」や、逆に自ら音波を発出して、その反響音をソナーでとらえ目標を捜索する「アクティブ方式」、さらに潜水艦からケーブルを経由して目標情報を受け取り、その方向に誘導される有線方式などがあり、これらの方式を組み合わせることで敵艦艇の位置を把握します。
そうして敵艦艇に接近した魚雷は、金属の塊である艦艇が帯びている磁気を探知し、爆発の威力を最大限に発揮するために艦艇の真下に到達したところで起爆します。魚雷といえば、目標となる艦艇の真横に直撃させるイメージがあるかもしれません。

アトラスエレクトロニークが2019年の「DSEI JAPAN」に出店した、「シースパイダー」のスケルトンモデル(稲葉義泰撮影)。
このように大きなダメージを与えることができる魚雷に対して、水上艦艇はどのように対抗することが望ましいのでしょうか。その答えのひとつとなる装備が、冒頭に記した「魚雷を迎え撃つ魚雷」かもしれません。「DSEI Japan」の会場に展示されていた、ドイツに本拠地を置くアトラス エレクトロニーク(ATLAS ELEKTRONIK)社が開発を進めるATT(対魚雷用魚雷)、「シースパイダー」です。
魚雷への対抗手段としての「魚雷」「シースパイダー」は、潜水艦が発射した魚雷の接近を探知すると、水上艦艇では甲板上に設置された箱状の発射器から、潜水艦では魚雷発射管から射出され、搭載するソナーによってパッシブ/アクティブに魚雷の位置を補足、最終的にこれを迎撃します。この際、距離が近ければ魚雷に対し直接接触して爆発する直撃破壊(ヒットトゥキル)方式をとることもできますが、ブースで説明にあたっていた担当者によれば「直撃破壊でなくとも、魚雷の近隣で爆発するだけでも効果は十分です。なぜなら、これによって魚雷の機能に損傷を与えたり、あるいは爆発で生じる雑音によって魚雷が目標を見失ったり、という効果が期待できるためです」とのことです。
また「シースパイダー」の特徴について、担当者はアメリカ海軍が開発を進めていた対魚雷用システムの「CAT(魚雷用対抗手段。魚雷を直撃破壊によって迎撃する装備)」と比較しながら次のように語りました。
「アメリカ海軍のCATは、もともとATT専用の装備として一から開発をスタートしたわけではなく、そのため性能面に問題が発生して、現在では開発を中止しています。しかし、『シースパイダー』は最初からATTとして開発をスタートしたため、誘導システムや推進システム、さらに形状など、そのすべてが魚雷を迎撃するという目的のために最適化されています。

海上自衛隊の護衛艦「あきづき」(画像:海上自衛隊)。
海上自衛隊では、現在「あきづき」型護衛艦をはじめとする艦艇に、魚雷を妨害するためのデコイ(おとり)などが装備されていますが、魚雷の誘導性能向上が進めば、こうした装備も効果が薄くなってしまう可能性は捨てきれません。魚雷を直接迎撃するシステムを搭載する必要性は日々、高まっているといえそうです。