宇宙へと活動領域を拡大する予定の航空自衛隊は、1954年の発足以来、初めてその呼称が見直される見込みです。その名も「航空宇宙自衛隊」。
日本政府が、航空自衛隊を「航空宇宙自衛隊」に改称する方向で調整に入ったことを、2020年1月5日(日)、国内複数のメディアが報じました。
従来より、各国の軍では宇宙空間が作戦エリアになることは認識されており、航空自衛隊も宇宙を担当する専門部隊として「宇宙作戦隊」の新設を2020年度に計画しています。航空自衛隊の管轄分野が宇宙に広がり、人工衛星の監視などが任務に加わるため、今回の「航空宇宙自衛隊」への改称は、それを踏まえたものと見られます。
航空自衛隊が2020年1月現在、運用する戦闘機4種(画像:航空自衛隊)。
海外では、すでに「航空宇宙軍」や「宇宙軍」という名称を用いる組織は実在し、世界的には珍しくなくなりつつあります。いくつか事例はありますが、「航空宇宙軍」や「宇宙軍」といっても、国によってスタンスは違い、大きく分けて2種類あります。
ひとつは、従来の陸軍や海軍などと同じ立ち位置で、独立した軍種として存在する場合、これにはロシアやイスラエル、アメリカなどが当てはまります。ただし前2か国は、空軍能力もあり、地球表面、すなわち陸地や海洋以外の空以上のエリアを受け持つ軍隊として「航空宇宙軍」として組織化されているのに対し、アメリカは空軍とは別に「宇宙軍」を新設した形をとっています。
とはいえ、アメリカ宇宙軍も2019年12月20日に発足したばかりで、それまではフランスと同じような統合軍型(後述)の「宇宙軍」で、人員は空軍軍人主体でした。そのようなわけで2020年1月現在、司令官は空軍大将であり、制服も独自のものを制定するといったことはしていません。
ロシアやイスラエルも「航空宇宙軍」と名乗っているものの、一般的には「ロシア空軍」、「イスラエル空軍」という呼称で、「航空宇宙軍」と正式名称で呼ばれるのはまれです。
そしてもうひとつが、統合軍として設けられている場合、これはフランスなどが当てはまります。この統合軍型は、既存の陸海空軍の軍人が集められ編成されているもので、独立した軍種ではなく、あくまでも宇宙分野を担当する組織といえます。

東京都新宿区市ヶ谷にある防衛省(柘植優介撮影)。
フランスの場合は空軍の指揮下にあり、司令官は空軍准将が務めます。フランスは将来的に空軍の名称を「空・宇宙軍」に変える意向のようで、それを踏まえたものと考えられます。
また上述したような「航空宇宙軍」や「宇宙軍」といった名称ではないものの、宇宙エリアを担う組織としては中華人民共和国(中国)の「ロケット軍」があります。この部隊は、地上発射型の弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルなどを専門に扱う組織で、陸海空軍に肩を並べる独立した軍種として設けられており、宇宙ロケットの打ち上げや人工衛星の管理など、宇宙分野の任務も担当しています。
このように国ごとに、役割や思惑の違いから宇宙を担当する組織は様々ありますが、どの国の組織も、現状では弾道ミサイル防衛やロケット発射、人工衛星の運用管理を見据えて宇宙の名を用いており、SFの世界に出てくるような地球の外、いわゆる宇宙空間での積極戦闘を想定したものではありません。
太陽系の外に出撃するような「宇宙軍」が設立されるのは、まだまだ先のようです。