東海道新幹線から700系電車が引退しましたが、その整備に関わってきた助役は「これからもよろしく」と話します。N700系、N700Sに続く「進化の基礎」を、700系が作ったからで、今後も700系の経験が「700」の名とともに生き続けます。

引退する700系新幹線になぜ「これからもよろしく」?

 JR東海の700系電車は、1999(平成11)年3月1日に営業運転を開始し、2020(令和2)年3月8日(日)、東海道新幹線から引退する予定でした、が、新型コロナウイルス対策で、その日に実施予定のラストランを中止。3月1日(日)に運行された700系による団体専用列車が、事実上の最終運行になりました。

 ただ長年、車両整備などで700系に関わってきたJR東海 新幹線鉄道事業本部 東京仕業検査車両所 車両データ分析センター助役の小暮鉄也さんは、その引退にあたり「まずは『お疲れさまでした』と言葉をかけたいですが、『これからもよろしくお願いします』みたいなところもあります」と話します。

700系が残したもの 東海道新幹線から引退も受け継がれる「7...の画像はこちら >>

「さよなら」装飾が施されたJR東海の700系(2020年2月、恵 知仁撮影)。

 700系をベースに開発され、基本構造が同じな923形新幹線電気軌道総合試験車「ドクターイエロー」が今後も東海道新幹線を走りますが、そのことではありません。現在の東海道新幹線における主力車両「N700系(N700A)」、そして今年2020年7月にデビュー予定の最新型車両「N700S」まで、「700系で形づくられたもの」が大きく受け継がれていることが理由です。

 車両の床下に搭載されている機器類は、N700Sに至るまで、基本的な構成は700系を元にしているそうです(N700Sは床下機器の小型化により、それまで置けなかった物を置くなど見直しているものの、“基本”は同様とのこと)。

 乗客に直接関係するところでも、700系以降の車体は防音性などに優れる「ダブルスキン構造」を採用しているほか(かんたんにいうと、車体の外板が2重になった構造。300系は「シングルスキン構造」)、トイレも700系から、飛行機のような吸引する「真空式」。車体の動揺を抑える「セミアクティブサスペンション」の導入も700系以降です。

700系新幹線で磨かれてきた「予兆を見つける目」

 またJR東海は、車両に不具合が発生してから対処するのではなく、その予兆をとらえて事前に対応し、さらなる安全安定運行を実現させる、という取り組みを進めており、たとえば最新のN700Sでは、「台車振動検知システム」「空気バネ圧力検知システム」といった車両監視機能を搭載。得られたデータは無線で分析センターに伝送され、そこに「不具合の予兆」がないか、専門スタッフが24時間体制で監視します。

700系が残したもの 東海道新幹線から引退も受け継がれる「700」と「進化の基礎」とは

JR東海 車両データ分析センターの小暮鉄也助役(2020年2月、恵 知仁撮影)。

 この仕組みの原点も、700系にあるそうです。かつて、そうしたデータを得て車両整備に活用するプロジェクトが、700系を中心に使ってスタート。当初はデータが出てきても、どれが「不具合の予兆」なのか、よく分からないところもあったなか、700系でノウハウを蓄積してきたそうで、「現在の車両修繕における基礎を作った車両」と、JR東海の小暮助役は言います。

 N700Sに至るまで、車両の健全性と安全安定運行の背景には、700系がこれまでつちかってきた「経験」が息づいているわけです。

その前の300系も大きな転換点 でも700系が「進化の基礎」な理由

 700系の前、1992(平成4)年にデビューし、50km/hもスピードアップ(270km/h運転を実現)した初代「のぞみ」の300系も、それ以前の0系や100系からメカ的に大きく変わっており、その意味では、いまに続く大きな転換点です。ただ、そこで特に大きかった車両開発の目標は「軽量化」と「高速化」でした。

 対し700系の開発コンセプトは「快適な車内空間の提供」「環境への適合」「車両性能の向上」「メンテナンスを含めたトータルコスト」といった、その後のN700系とN700Sに通じるものです。

 客室の照明も、300系は落ち着いた間接照明だったものの、700系以降は直接照明の「明るい車内」に変わっています。

700系が残したもの 東海道新幹線から引退も受け継がれる「700」と「進化の基礎」とは

700系新幹線の車内(2020年2月、恵 知仁撮影)。

 また、車両床下に搭載した機器を整備するにあたって、300系までは床下に潜る形だったのが、700系からは横のふさぎ板を開けて行う“楽な形”に変更。機器のテストも300系では外から試験器を使っていたのが、700系からは運転台から試験モードで実施可能になりました。

「N700Sまでいろいろ進化していますが、その『進化の基礎』は700系で完成したと思います」(JR東海 小暮鉄也助役)

 東海道新幹線の車両は300系でブレークスルーし、700系でそれが、利用者にとっても運用する側にとっても“ひとつの完成形”になって、最新のN700Sまでそれを元に進化が続いている、というところでしょうか。

 東海道新幹線から、ちょっと寂しい形での引退になってしまった700系ですが、2020年7月のN700Sデビューは、いわば「新しい700系のデビュー」でもあるのです。その「700」が表すとおり――。

※700系は「東海道新幹線からの引退」で、今後も8両の「ひかりレールスター」編成などが山陽新幹線を走行。

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