大分県が、2009(平成21)年に廃止されたホーバークラフトによる定期航路の復活に向け動き出します。廃止時点でも国内唯一、いまや世界でもひとつだけというホーバークラフト航路、復活に向けた課題を県に聞きました。
大分県が、2009(平成21)年に廃止された大分市~大分空港間のホーバークラフト航路を復活させる事業に乗り出します。大分県の広瀬勝貞知事は2020年3月4日(水)の会見で、2020年度から運航事業者を公募し、2023年度以降に運航を開始する意向を示しました。
国東半島の東部に位置する大分空港と大分市のあいだは、別府湾を回り込むようなルートになるため、高速バスだと約60分を要します。県の交通政策課は、「他県と比べてもよくない空港アクセスの改善が非常に重要」といい、別府湾を横断する海上ルートの復活を2018年度から検討してきました。そして、大分市と空港を25分で結ぶホーバークラフトの導入が、費用やスピードの面でも妥当、という結論に至ったそうです。
かつて大分ホーバーフェリーで運行されていたホーバークラフト(2009年10月、恵 知仁撮影)。
ホーバークラフトは、かんたんに言うと高圧の空気で水面から浮上して高速航行する船で、一般的な船に必要な、港や航路の水深を確保する必要がありません。1970年代には各地の航路でホーバークラフトが見られましたが、その後は数を減らし、別府湾のものは国内で最後まで残ったホーバークラフトによる旅客輸送でした。
運航していた大分ホーバーフェリーはすでに解散、国内で旅客船としてのホーバークラフトの製造も終了しています。2020年現在では世界的に見ても、定期のホーバークラフト航路としてはイギリスにひとつを残すのみです。
ホーバークラフト再導入、何がメリットかホーバークラフトを再導入することについて、大分県の交通政策課に話を聞きました。
――ホーバークラフト導入には、どのようなメリットがあるのでしょうか?
かつてのホーバークラフト航路の遊休施設を活用でき、導入に際して港湾整備などの土木工事が少ないことが大きな理由です。
高速艇を導入した場合、整備にかかる県の負担額は約115億円から200億円、期間は11年から12年かかりますが、ホーバークラフトは、船自体は高価であるものの、県負担額は約75億円から85億円、3年から4年で導入できる見込みです。

廃止直前の大分ホーバーフェリー船内に貼られていた告知(2009年10月、恵 知仁撮影)。
――1度廃止された航路に、ニーズはあるのでしょうか?
大分ホーバーフェリーが廃止された2009(平成21)年当時は、いわゆる「リーマンショック」直後で航空機の利用も落ち込んでいましたが、そこから回復し、2018年度には空港の年間利用者が14年ぶりに200万人を突破しています。2020年3月現在は、「新型コロナウイルス」の影響で一時的に減ってはいるものの、今後もLCCのシェア拡大、訪日外国人需要の高まりなどで、利用者は伸びると予想しています。
そこへ「東アジア唯一のホーバークラフト航路」ができれば、それに乗ることを目的に大分へ訪れる人も増えるでしょう。
「経験者募集は現実的でない」体制どう整える?――船はどう手に入れるのでしょうか? また、それを操作できる人はどれほどいるのでしょうか?
海外ではホーバークラフトの製造が続けられており、輸入することになります。また、大分ホーバーフェリーも解散していますので、国内から運航や整備の経験者を集めるのは現実的でないでしょう。メーカー自身が、操船や整備の指導を含めたメニューを提供していますので、それを利用して人材を育成していきます。
――運航事業者を公募されますが、応募者の目途は立っているのでしょうか?
定期航路を開設している海運会社に話をすると、無理だと言われることもあれば、前向きに聞いてくれることもあります。決定した事業者には、県としてもスタッフの斡旋機関を紹介するなどしてバックアップに努めます。

かつて大分ホーバーフェリーで運行されていたホーバークラフトの船内(2009年10月、恵 知仁撮影)。
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ちなみに、大分ホーバーフェリーは片道2980円(廃止時点)という、高速バスと比べて2倍ほどの高額な運賃も廃止につながった要因であったことから、県交通政策課は「高速バスと同程度ではないものの、共存可能な運賃」を想定しているとのこと。バスとホーバークラフトの双方があることが、災害時などを考えても重要だといいます。