アメリカ陸軍は従来の偵察軽攻撃ヘリコプターに代わる新しい攻撃偵察航空機の計画を開始していますが、同様の任務を担う陸上自衛隊のヘリコプターも退役が迫っており、他人事ではありません。その現状と今後の見通しを解説します。
ボーイングは2020年3月3日(火)、アメリカ陸軍が導入を計画している回転翼機「FARA(Future Attack Reconaissance Aircraft、将来攻撃偵察航空機)」に、同社が提案する回転翼機のコンセプトを発表しました。
ボーイングが発表した「FARA」のコンセプトCG(画像:ボーイング)。
アメリカ陸軍は2017年9月まで、偵察と軽武装の敵に対する攻撃を行なうヘリコプター、OH-58D「カイオワ・ウォーリア」を運用していました。その後継機計画をアメリカ陸軍はこれまで2回、立案しましたが、同陸軍の要求を充たせる回転翼機が存在していなかったことなどから立ち消えとなっています。このため現在はAH-64E「ガーディアン」戦闘ヘリコプターが暫定的にOH-58Dの任務を引きついでおり、FARAは現在その任務にあたっているAH-64Eの後継機と位置づけられています。
ボーイングが提案する回転翼機は、AH-64シリーズや陸上自衛隊の運用するAH-1S対戦車ヘリコプターなどと同じタンデム複座(前後にふたりが搭乗すること)の単発機で、機体後部には高速で飛行するための推進用プロペラを備えています。
FARAにはボーイングのほかにも、各航空メーカーが手を挙げています。ベルが「360インビクタス」、シコルスキーが「レイダーX」、カレム・エアクラフトが「AR40」、L3ハリスとAVXエアクラフトが共同開発する新型機の提案をそれぞれ計画しており、アメリカ陸軍は2020年中に2社とプロトタイプの開発および製造契約を締結し、2023年に初飛行させる方針で作業を進めています。
他人事ではない陸自 観測ヘリの現状は…?アメリカ陸軍にてOH-58Dが担ってきたような任務は、陸上自衛隊においては、偵察(観測)任務をOH-6DとOH-1、軽武装の敵に対する攻撃任務はAH-1S対戦車ヘリコプターとAH-64D戦闘ヘリコプターがそれぞれ担当しています。
193機が導入されたOH-6Dは、2020年3月いっぱいで全機の退役が予定されています。その後継機であるOH-1は、当初250機の導入が計画されていましたが、OH-6に比べて価格が高く、38機で調達が打ち切られてしまいました。またOH-1は2015(平成27)年12月にエンジンなどの不具合が判明したため、2019年3月まで約3年3か月に渡って飛行停止措置が取られていました。

陸上自衛隊の新多用途ヘリコプターUH-X試作機(画像:陸上自衛隊)。
現時点でOH-6Dの後継機を導入する計画はなく、陸上自衛隊は復帰するOH-1に加えて、UH-1J多用途ヘリコプターを後継する「UH-X」への画像伝送装置の搭載と、UAV(無人航空機)の導入などによって航空偵察能力を維持していくようです。
OH-6Dは偵察のほか、駐屯地間の人員や軽貨物の輸送といった用途にも使用されていました。UH-XはUH-1J(130機)より多い150機程度の調達が見込まれていますが、193機が調達されたOH-6Dの担ってきた駐屯地間の人員や軽貨物の輸送を、完全に引き継ぐのは難しいのではないかと考えられます。
対戦車ヘリ、戦闘ヘリもタイムリミット迫る陸上自衛隊は2019年3月末の時点で、AH-1Sを55機、AH-64Dを12機保有しています。67機という対戦車(戦闘)ヘリコプターの保有数は、イギリス陸軍(AH-64D 50機)などを数の上では上回っており、一見すると磐石にも見えます。
しかしAH-1Sは生産終了から20年以上が経過し、予備部品のストックが減少しており、別の機体から使える部品を取り外して修理を行なう、いわゆる「共食い整備」を余儀なくされているため、55機すべてが稼動できる状況にはありません。

陸上自衛隊のAH-1S「コブラ」対戦車ヘリコプター(画像:陸上自衛隊)。
AH-64Dは2020年現在でも一線級の戦闘ヘリコプターですが、アメリカ陸軍の運用するAH-64Dを、より能力の高いAH-64Eに改修するアメリカ国防総省は、AH-64Dのサポートを、2025年をもって打ち切る方針を明らかにしています。
AH-64Dは複雑な回転翼機であるが故に稼働率は高くなく、サポート打ち切りにともなう予備部品の不足で、さらなる稼動率の低下が懸念されています。このためイギリス陸軍をはじめとするAH-64Dの導入国は、保有するAH-64DをAH-64E仕様にアップデートする改修作業を進めていますが、現時点で陸上自衛隊にその計画は無いようです。
防衛省内には、観測ヘリコプターや対戦車(戦闘)ヘリコプターが担当している任務をUAVでまかなうという考えもあるようですが、アメリカ陸軍のFARAをはじめ、世界各国の陸軍では依然として偵察ヘリコプターや戦闘ヘリコプターを導入する計画が存在しているという現実を踏まえて、陸上自衛隊の航空戦力の将来像を考えるべきなのではないかと筆者は思います。