日本が導入検討との報道もあった電子戦機EA-18G「グラウラー」の、自律無人飛行実験が成功しました。そもそも電子戦機とはなにか、なぜ無人機化するのか、そして日本が必要とする理由と導入にあたっての課題について見ていきます。

実験は成功 EA-18G「グラウラー」は無人機化するの?

 ボーイングは2020年2月4日、同社の開発したEA-18G「グラウラー」が、パイロットの操縦によらず、機械が定められたプログラムに基づいて飛行する、「自律無人飛行」実験に成功していたことを明らかにしました。

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自律無人飛行実験に成功したEA-18G「グラウラー」(画像:ボーイング)。

 EA-18Gは、アメリカ海軍 空母航空団の主力戦闘機であるF/A-18E/F「スーパーホーネット」の複座型、F/A-18Fをベースに開発された電子戦機です。今回行なわれた実証実験では、乗員が搭乗した1機のEA-18Gが自律飛行する2機のEA-18Gを制御し、内容は明らかにされていませんが、21のミッションの実証試験に成功したとボーイングは発表しています。

 電波を用いて敵の接近を探知するレーダーと、敵機が反撃できない距離から攻撃できる地対空ミサイルが実用化されて以降、それ以前に比べて航空機は自由に地上を攻撃することが難しくなりました。EA-18Gは、敵のレーダー波や無線通信を受信して、それらと同じ周波数でより強力な電波を送信し、敵のレーダーや航空管制施設と航空機との通信を妨害することで、敵の攻撃を困難にさせ、味方の航空機の生存性を高めることを主任務とする航空機です。

「電子戦機」というくくりには、レーダーサイトや無線通信施設など敵の防空網を「対レーダーミサイル」などによって物理的に制圧(破壊)する「SEAD機」も分類されていますが、EA-18Gは電波による妨害だけでなく、対レーダーミサイルによるSEAD機としての任務もこなすことができます。

電子戦機を無人機化したいもっともなワケ

 電子戦機には、味方の航空機の後方から強力な電波を発信して、敵のレーダーや通信を妨害するタイプもありますが、EA-18Gは味方の戦闘機部隊などと行動を共にすることから「エスコートジャマー」と呼ばれています。

EA-18G「グラウラー」が成功 「電子戦機」は有人・無人のハイブリッドになる?

敵のレーダーサイトや無線通信施設を攻撃できる「AARGM」対レーダーミサイル(竹内 修撮影)。

 エスコートジャマーは敵からすれば目の上のたんこぶのような存在であり、最優先で排除する必要があります。EA-18Gは戦闘機のF/A-18Fと飛行性能がほとんど変わるところはなく、自衛用にAIM-120「AMRAAM」空対空ミサイルも搭載できるため、過去に実用化された電子戦機に比べて撃墜されにくくなっていますが、万が一撃墜された場合には、パイロットと電子妨害装置を操作する電子妨害士官の身に危険が及ぶことには変わりありません。

 アメリカ海軍はEA-18Gの自律無人飛行実験の目的について、「EA-18Gとその原型機であるF/A-18E/F『スーパーホーネット』が、無人航空システムとして戦闘任務が行なえることを実証するため」との抽象的な説明しかしていない一方、ボーイングで有人航空機と無人航空機を協働させるプロジェクトのリーダーを務めるトム・ブラント氏は「生存性向上を実現する可能性があります」と述べています。

 このことから、今回の実験は電子戦機の運用効率の向上と共に、電子戦にともなう味方人員の危険を低減する可能性を探ることを目的にしたものなのではないかと、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

日本が導入したい理由とそれにあたっての課題とは?

 EA-18Gはこれまでオーストラリアにしか輸出されていませんでしたが、近年ではフィンランド空軍の新戦闘機導入計画「HX」に、F/A-18E/Fと共に提案されているほか、ドイツに対しても、同国空軍が運用している電子戦機「トーネードECR」の後継機としての提案が見込まれています。

EA-18G「グラウラー」が成功 「電子戦機」は有人・無人のハイブリッドになる?

EA-18Gの左右翼端と機体中央下に3つ吊られた、先端に風車のついたポッドが、電子戦機特有といえる戦術電波妨害装置(画像:アメリカ空軍)。

 日本でも北朝鮮による弾道ミサイルの脅威などが高まり、「ほかに有効な対抗手段が無い場合は、敵の攻撃の拠点となる『策源地』を攻撃することの是非」という、長年我が国で続く議論が改めて大きく取沙汰されて以降、複数のメディアにおいて、航空自衛隊がエスコートジャマーの導入を検討していると報じられています。

 2019年12月に策定された現在の「中期防衛力整備計画」には、結局エスコートジャマーの導入は盛り込まれませんでしたが、現在も政府内には電子戦機の導入を望む声は少なからず存在しており、もし導入するのであれば、EA-18Gが最も有力な候補となると考えられます。

 ただ、仮に策源地攻撃が国民から容認され、エスコートジャマーの導入が決定した場合、日本もエスコートジャマーの乗員の生存性をどのように高めていくかという課題に直面することになります。

 アメリカ海軍は、防衛装備品メーカーのレイセオンが開発した、航空機から発射されるデコイ(囮)の「MALD」に電子妨害機能を加えた「MALD-J」の配備を進めていますが、これには、貴重なEA-18Gを失うリスクを少しでも低くしたいという狙いもあるものと考えられています。

 EA-18Gの無人運用が実際に行なわれるのかは不透明ですが、今回のEA-18Gの実証実験は、有人機と無人機を組み合わせることで、乗員の生存性をより高めていくことが電子戦のトレンドとなることを決定付けたのではないかと筆者は思いますし、日本も今後、電子戦能力を高めていく上で、大いに参考にすべきなのではないかとも思います。