大きなふたり乗りベビーカーも、バスのなかでは「折りたたまずに使用できる」という見解を国土交通省が発表しました。乗車を拒否されるという事例もあったふたり乗りベビーカーのバス利用には、周囲の協力も不可欠だといいます。
乗合バス車内では、ふたり乗りベビーカーを折りたたまずに使用できるよう取り扱うことを基本とする――国土交通省が2020年3月31日(火)、このような見解を発表しました。
双子などを想定したふたり乗りベビーカーは、ひとり用に比べてサイズが大きく、通路をふさぐなどの理由で、折りたたまないと乗車できないとしているバス事業者が見られます。一方、ふたり乗りベビーカー使用者からは「複数の乳幼児を抱えてベビーカーを折りたたむのは困難」との意見もあり、そうした声を受け、国としての方針を出したといいます。
ふたり乗りベビーカー。写真のように「横型」のものと、直線状に2席が並んだ「縦型」のものとがある(画像:Oleksandr Panchenko/123RF)。
国土交通省は2014(平成26)年に、公共交通機関などにおける「ベビーカーマーク」を策定するなど、交通バリアフリー法に基づき、子連れの人が移動しやすい環境整備を進めています。ベビーカーについては、「ひとり乗りであってもふたり乗りであっても折りたたまなくてよい、という考えは当初から変わっていない」(国土交通省 安心生活政策課)とのこと。
ただ、ふたり乗りは前出の通り通路をふさいでしまうほか、車両の構造や混雑具合の状況が路線により異なることなどから、バス事業者がそれぞれの判断で対応しており、なかには、乗車を拒否された親が延々と歩いて目的地へ向かわざるを得なかったケースもあるそうです。
「ふたり乗りでも折りたたまず乗せられることは、事業者も認識していたと思いますが、実際にどう安全を確保すべきなのか、といった観点から、対応が分かれていました」(国土交通省 安心生活政策課)
ベビーカーのメーカー側も、ふたり乗りベビーカーについてはバスの中で使用しないよう、取扱説明書で注意を促しているケースがあるとのこと。また、ひとり乗りよりも折りたたみに時間を要するため、国土交通省 安心生活政策課は「親御さんとしても、周りに迷惑をかけているというジレンマがあるでしょう」と話します。
そこで同省は今回、安全性を検証したうえで、「『こうすればふたり乗りベビーカーを折りたたまずにバスを利用できますよ』という方法を、バス事業者やベビーカー利用者にお示ししました」といいます。
運転者の負担は確実に増 周囲の協力が不可欠国土交通省が発表した、バスにおけるふたり乗りベビーカーの取り扱い方法は、次のような内容です。
●バス事業者に求める対応
・バスへの乗降は、求めに応じ運転者が補助。
・横型のふたり乗りベビーカーの場合は、車内中ほどの車いすスペースに案内し、設置された座席の跳ね上げを運転者が補助。
・跳ね上げ座席に座っている人がいれば、移動を運転者が要請。
●ベビーカー使用者に求める対応
・ベビーカーのシートベルト着用。
・ベビーカーの正面をバスの進行方向後ろ向きにし、座席付属のベルトでベビーカーの2か所を固定。
・ベビーカーの車輪をロックし、走行時は片手でハンドルを支える。

座席付属のベルトによるベビーカーの固定位置。横型ふたり乗りの場合(画像:国土交通省)。
なお、この扱いは小型バスなど構造上難しい車両や、山道を走るような路線では必ずしも当てはまらないとのこと。また、すでに車いす使用者などが車いすなどを固定して乗車している場合は、次のバスに乗車してもらうよう案内する必要がある、ともしています。
こうした対応は、当然ながら運転者にさらなる負担を求めることになります。国土交通省安心生活政策課は、「周りの方の協力が不可欠です。
「そもそも、ベビーカーマークを策定したのも、『車内ではベビーカーを折りたたむのが常識』だったのを、『折りたたまないのを常識にしよう』という意図がありました。しかし、子育ての経験がない方や感心のない方にとっては、そのマークも単なる風景の一部になってしまいます。ゆずり合いの心で、子どもをみんなで育てようという意識を広めるうえでも、引き続きキャンペーンなどを通じ、ベビーカー利用への理解・配慮を求めていきます」(国土交通省安心生活政策課)
ちなみに、双子などの「多胎児」は毎年およそ100人に1人が出産しており、50年前と比べて約2倍、不妊治療や体外受精などの増加が背景にあるといわれます。この場合、出産後も医療設備の整った病院に通う必要があり、実際、親が複数人の乳幼児を連れて公共交通機関を利用する姿も以前に比べ多く見られるようになったそうです。