ミサイルと異なり目標を自動追尾できない砲弾は、命中精度を弾数でカバーする戦い方もあります。それを1両で行おうとしたのが、アメリカが開発したM50「オントス」対戦車自走砲です。

当たらないのなら撃ちまくればいいじゃない

 2020年現在、戦車の主砲口径はおおむね105mmから120mm程度が主流で、これを1門、旋回砲塔に備えるのがスタンダードなスタイルです。かつて、この現代戦車の砲に匹敵する106mm砲を6門も搭載した車両がありました。アメリカが制式化したM50「オントス」です。

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ベトナム戦争に投入されたM50「オントス」(画像:アメリカ海兵隊)。

 M50「オントス」は、1950年代初頭にアメリカ陸軍および海兵隊が共同開発した、対戦車自走砲です。アメリカ陸軍が試作した履帯(いわゆるキャタピラー)駆動の小型汎用装甲車に、前述のとおり106mm無反動砲を6門も搭載したもので、1955(昭和30)年に完成します。しかしアメリカ陸軍は制式化したものの採用せず、導入したのはアメリカ海兵隊だけでした。

 全長3.83m、全幅2.6mという車体サイズは、幅はともあれ全長だけならトヨタの「ヤリス」やホンダの「フィット」よりも短いものです。操縦手、車長、砲手の3名が搭乗し、砲弾18発を収容していました。

 これほど無反動砲を積んだ理由は、複数火砲の同時射撃で、敵に反撃させる隙を与える前に撃破するというコンセプトのもとに開発されたからです。装甲はライフル弾に耐えられる程度だったため、基本的に待ち伏せ戦闘や歩兵の火力支援用で、積極的に戦車を撃破しに攻めていくような使い方は無理でした。

 なお砲6門は、一見すると車体に直付けのように見えますが、実際には車体上部に旋回式の架台があり、そこから伸びるアームに搭載されているため、左右それぞれ40度ずつ回すことが可能でした。

「オントス」が導入からわずか10年ほどで退役した理由

 M50「オントス」は1955(昭和30)年から1957(昭和32)年までの約2年間で297両が生産され、1960年代半ばからは、アメリカが本格介入をするようになったベトナム戦争で、実戦へ投入されます。

驚異の6連装106mm砲! 「数撃ちゃ当たる」をカタチにした米自走砲「オントス」の顛末

ベトナム戦争で兵士を乗せて走るM50「オントス」。車体サイズに比して長い無反動砲を外付けしている(画像:アメリカ海兵隊)。

 しかし、当初おもな用途のひとつとされた対戦車任務は、1960年代に急速な発達を遂げた対戦車ミサイルなどに代替されるようになったため、M50「オントス」の用途は歩兵の火力支援がメインになりました。

 またベトナム戦争では、敵として対峙した南ベトナム民族解放戦線、通称「ベトコン」が戦車を装備していなかったことなどから、基地警備や輸送トラック(コンボイ)の警護などにも用いられるようになります。

 ただし履帯駆動のため、トラックのようにスピードが出ず、整備性も悪かったため、徐々に前線から引き揚げられ、ベトナム戦争中の1969(昭和44)年にすべて退役しています。

 なお6門の106mm砲は、射撃は車内から行えますが、そのあとの薬莢排出と再装填は車外でしか行えないため、戦車のように走りながら装填射撃を繰り返すことはできません。よって6門すべての装填はかなり時間がかかるため、その点でも使い勝手は優れていたとはいえなかったようです。

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