鉄道車両の「顔」を形作るヘッドライト。その形状や位置はいまでこそ、車両によって様々です。

特に形状には、時代によって流行がありました。光源にLEDが用いられるなど技術的にも進歩していますが、どんなものがあるでしょうか。

自車の存在を示すため 頭上についていたヘッドライト

 鉄道車両のヘッドライトは、前方を照らすよりも「遠くから列車の存在を認識させるための灯り」としての役割がメインです。

 鉄道車両はクルマと異なり、前方に障害物があっても避けられないので、早くから存在を認識してもらう必要があります。そのためには、できるだけ高いところに掲げたほうが良いので、当時の運輸省令でも「夜間の前部標識として前灯を上部に1個掲出する」と定められていました。

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戦前戦中までの電車は、頭上にヘッドライトがあるタイプが標準だった(2004年12月、児山 計撮影)。

 ライトを車体上部、人間にたとえると「おでこ」の位置につけていたのはこのような理由からで、戦後しばらくまで路面電車や一部のローカル私鉄を除く鉄道車両は、原則として「ヘッドライトは頭上」という時代が続きました。

 この“常識”を覆したのが1954(昭和29)年に登場した営団地下鉄(現・東京メトロ)300形です。赤いボディに銀色のサインカーブが入ったモダンな外見もさることながら、ヘッドライトが頭上から窓の下に降りふたつ灯され、正面の「表情」もこれまでにないものでした。

運転台が上になった代わりにヘッドライトが窓下へ

 長いトンネルを走る地下鉄において、ヘッドライトは重要な機器です。万が一電球が切れたら運行を中止し、速やかに電球を交換しなくてはなりません。このとき電球がふたつあれば、片方が切れても、もう片方を灯せばトンネル内で救援を待たずに最寄り駅まで運転を継続できます。

さらに、頭上ではなく窓下にライトがあれば、駅での電球交換も容易です。

 このように営団300形の表情は、地下鉄という環境に適したデザインとしての結果でしたが、そうした実用面での効能とは関係なく、ヘッドライトを窓下に装備するスタイルは、これをきっかけに大流行します。

列車のヘッドライト 形が変われば表情も変わる 時代ごとの流行も 今後はどんな顔に?

営団地下鉄300形は、ライトを窓下に降ろしたデザインで新しい表情を作った(2004年12月、児山 計撮影)。

 国鉄(当時)では、長距離を運転する場合、運転台は高いところにあったほうが運転士の疲労が少ないという研究結果から、また私鉄では、踏切事故の際に乗務員を守るため運転台の位置が高くなり、入れ替わりに、ヘッドライトが頭上から窓下に降りました。「横長の窓と腰部のライト」という表情が、以降の流行となります。

 一方で、関西私鉄を中心に頭上ライトを支持する事業者も少なくありません。市街地で高速運転を行う路線では、遠方からの視認性に勝る頭上ライトが、保安面からも有利だからといわれています。

1980年代の流行、角型ライトケースとは

 1980年代に入るとヘッドライトの形に変化が現れます。

 これまでヘッドライトのケースは丸型が当たり前でしたが、京急電鉄の800形808編成が角型ヘッドライトで登場したのをきっかけに、角型ライトが流行り始めます。

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小田急8000形。ブラックフェイスと角型ライトは1980年代から1990年代にかけての流行(2012年9月、児山 計撮影)。

 1982(昭和57)年には、小田急電鉄8000形や京急電鉄2000形などがこぞって角型ライトを採用。

スクエアな車体に角型ライトは全体的にカチッとした表情を生み出し、同時期に流行した、正面から見た際の運転台とその周囲を黒く彩る「ブラックフェイス」と合わせて、当時普及していたデジタル時計のような印象になりました。

 この「ブラックフェイス+角型ライト」というスタイルは私鉄を中心に大流行し、国鉄も1985(昭和60)年登場の211系で、角型ライトを採用しています。ブームは1990年代まで続き、この時期にデビューした車両の大きな特徴となりました。

 1990年代後半になると、小型で明るいHID(高輝度放電)ランプが鉄道車両に採用され、新たな表情が生まれます。ライトが小型化し配置の自由度が増したことで、小田急60000形のように、床面よりも低い位置にヘッドライトを配置するデザインも生まれました。

小さく明るいLEDが普及 車両の表情が豊かに

 しかしほどなく主流はLED(発光ダイオード)にとって代わります。LEDはHIDに比べて寿命が長く、小さな発光素子を複数組み合わせて大きなライトを作る構造から、光量や形状の自由度が飛躍的に高まるメリットがあり、急速に普及しました。

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JR九州のYC1系(右)と821系(左)。LEDライトで形状の自由度が上がった(2018年10月、草町義和撮影)。

 LEDであれば、ヘッドライトの形状は丸や四角にこだわる必要はありません。そのため、JR東日本のE353系やJR九州のYC1系、東武500系などのように、これまでのライトでは考えられなかった形状の車両も登場。鉄道車両のスタイルにさらなる多様性をもたらしました。

 2010年代以降、規格をそろえた標準形の車両が増えるなか、正面形状で企業イメージをアピールする鉄道会社が増えています。LEDの高い配置の自由度は、自社をアピールするには格好の素材です。今後、独自形状のヘッドライトを装備した車両が流行する可能性は十分にあります。

 鉄道車両のヘッドライトは、左右対称であることという決まりはありますが、それ以外の配置については鉄道会社の裁量に任されています。これからもライトの位置や形で、様々な表情の車両が登場することでしょう。

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