列車が平均して移動する速さに「表定速度」があります。山手線に接続する路線のうち、「表定速度」が速いのはどの路線でしょうか。
自宅の最寄り駅から都心までどれだけ早く移動できるかというのは、生活するうえで気になる点のひとつかもしれません。
駅の停車時間も含めて、列車が平均して移動する速さを求めたものに「表定速度」があります。これをもとに、首都圏南西部の10km圏から50km圏にかけて、朝ラッシュ時の表定速度を調べてみました。具体的な範囲は、JR中央線から東急田園都市線のあいだの路線が対象です。
JR中央線のE233系電車(画像:写真AC)。
●調査方法、基準
・JR山手線を中心に放射状に伸びる路線のうち、ラッシュの最混雑時間帯である平日朝7時50分から8時30分に山手線接続駅へ一番速く到達する、乗り換えなしの直通列車が対象。
・発駅は10km圏から50km圏のうち、快速や急行といった優等列車が停車する主要駅を優先的に選択。
・別途料金が発生する特急やライナーなどは除外。
・キロ数は時刻表などに記載されている「営業キロ」に基づいており、実際の距離とは異なる場合がある。
朝のラッシュ時に限定しているため、お昼の時間帯には速い列車でもそのパフォーマンスを活かしきれていなかったり、速達列車がなかったりする場合があります。また、「営業キロ」数と実際の距離は異なる場合があります。
なお、算出された数値はあくまで計算上のもので、運転状況により体感的なスピードと乖離する場合があります。
ラッシュ時、遠距離輸送に強くなる「通勤特快」では10km圏から見ていきましょう。1位は小田急線で46.4km/h、2位はJR中央線と地下鉄千代田線(小田急線直通)が41.2km/hと同率で並んでいます。一方、東急田園都市線は31.3km/hで6位、京王線は29.7km/hで7位と、4位の東西線や5位のJR中央・総武緩行線よりも表定速度が遅い結果になっています。これは、種別が準急や急行であっても、10km圏だと停車駅が多いためと考えられます。

首都圏南西部方面10km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
20km圏ではどうでしょうか。1位は中央線で、48.7km/hと一気に伸びています。これは、区間が延びたことで「通勤特快」が入ったためです。この通勤快速は、国分寺駅を発車すると、新宿駅までの21.1kmをノンストップで走る列車です。

首都圏南西部方面20km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
2位の小田急線も46.1km/hで、大きな差は開いていません。
30km圏では、1位は小田急線が50.0km/hで、トップに返り咲いています。2位は中央線の49.5km/hでした。3位は、新百合ヶ丘駅で分岐する小田急多摩線で45.9km/h、4位は京王線が37.1km/hで続いています。京王線は距離が延びるたびに、表定速度が上がる傾向にあります。一方、田園都市線は35.7km/hで7位と最下位になっています。

首都圏南西部方面30km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
続いて40km圏を見ていきましょう。1位は中央線が51.8km/hで再び首位に戻っています。2位は小田急線で50.0km/h、3位は、相模大野駅で分岐する小田急江ノ島線が46.0km/hと、小田急の路線が並んでいます。

首都圏南西部方面40km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
最後の50km圏も、1位は中央線53.2km/h、2位は小田急線で49.7km/h、3位は小田急江ノ島線で47.3km/h、4位は京王高尾線で40.6km/hと同じ並びになっています。

首都圏南西部方面50km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。
全体で見ると、10km圏では小田急線、20km圏では中央線、30km圏では再び小田急線と、競った形になったのも特徴です。しかし、この2路線は運行するエリアが離れており、直接のライバルとはならないでしょう。むしろこの2路線にそれぞれ競合する、京王線や田園都市線が低迷する結果になりました。
表定速度でも12km/h速くなった複々線の効果京王線と田園都市線は、日中こそ特急や急行といった速達列車が設定されていますが、ラッシュ時はその設定がなかったり、列車本数の多さから、本来のスピードを出せない面もあったりするかもしれません。一方の小田急線は、2018年3月に登戸~代々木上原間の複々線化を完了し、たとえば30km圏の町田~新宿間で最大12分の高速化を実現しています。これは表定速度にすると、約12km/hのスピードアップです。

複々線区間を走る小田急線の車両(画像:小田急電鉄)。
こうして見ると、杉並区など首都圏西部では中央線が、世田谷区など首都圏南西部では小田急線の速さが際立つ結果となりました。特に小田急線は、京王線や田園都市線沿線とも一部エリアが重複するため、早く都心に出るための選択肢に、小田急線を入れられるかもしれません。
今回調査した路線は、ベッドタウンとしての要素が強いエリアを通ります。本数や遅延混雑率のほか、表定速度も住む場所を選ぶひとつの指標になればと考えます。