国鉄時代、車両は走行距離に応じて「近郊形」「通勤形」と区別され、車内の設備にも違いがありましたが、首都圏のラッシュ輸送に対応するなかで、その区別があいまいになっていきました。路線の事情に応じどう変化したか見ていきます。
JR東日本の主力電車E231系とE233系。このなかで東海道線、高崎・宇都宮線などで使われる車両には、ボックスシートのある車両が連結されています。これらふたつの形式は、完全に「通勤形」とは呼べなさそうです。
これはE231系が登場する前、東海道線や高崎・宇都宮線、横須賀線、総武本線、そして常磐線の取手以遠へ直通する列車などに、「近郊形」という車両が使われていた名残です。近郊形の起源は国鉄時代までさかのぼります。
京浜東北線のE233系と東海道本線のE231系。
国鉄では「近郊輸送に適した車両」として、おおむね50~200kmの中距離を運行する列車を近郊形」車両としました。1両当たりドアは片側に3か所、座席は長時間の乗車に配慮してボックスタイプのクロスシートをメインとする一方、通勤輸送にも対応するため、ドア周りは乗客の流れを阻害しないロングシートとしていました。
一方でおおむね50km未満の利用が中心となる首都圏の通勤輸送では、座席をすべてロングシートとして通路幅を可能な限り広くし、乗降時間を短縮するため片側に1両当たり4か所のドアを設置した通勤形車両を導入します。
このほか、性能面でも近郊形は高速性能重視、通勤形は加速性能重視といった違いもあり、運用は厳然と区別されていました。
近郊形だが増えるロングシート 通勤形との区別があいまいにしかし1980年代後半になると、東海道線や高崎線、常磐線などの混雑は都市規模の拡大とともに激しくなり、近郊形の車両では積み残しが発生するほどの混雑となります。
近郊形車両の座席配置は、ドアのあいだにボックスシート、ドアの周囲はロングシートで、ドアは片側3か所だった(2006年4月、児山 計撮影)。
211系の場合、東海道線では15両中5両、高崎線では15両中10両をロングシートとしましたが、それでも間に合わず、JR化後はクロスシート車両の製造を中止し、ロングシート車両のみを製造するようになりました。
さらに1997(平成9)年、横須賀・総武快速線に投入されたE217系は、近郊形であるにもかかわらず、乗降時間を短縮するため片側4ドアの車両として登場。ボックスシートはグリーン車を除いた13両中3両、残り10両はすべてロングシートとなり、車内設備に限れば通勤形との区別がつかなくなりました。
E217系の投入で横須賀・総武快速線のラッシュ輸送が改善されたことから、JR東日本は首都圏に残る近郊形の車両をすべて4ドア車両に置き換えることとし、東海道線、高崎・宇都宮線にはE231系の「近郊タイプ」を投入します。
E231系の近郊タイプは、4ドア化によって乗降時間が短縮されたことと、長距離利用が横須賀線よりも多いことからクロスシートの割合は増えたものの、ロングシートの車両は通勤形と同じ仕様となりました。同様に常磐線も、3ドアの415系を4ドアのE531系に置き換え、首都圏の通勤形と近郊形の車両は通勤ライナー用の215系を除き、4ドアにほぼ統一されました。
東海道線や常磐線などでは、長距離利用客のために一部車両にクロスシートが残された(2013年1月、児山 計撮影)。
首都圏の車両が4ドアで統一されると、接客面では通勤形、近郊形というカテゴリ分けも無意味なものとなり、JR東日本は2000(平成12)年から「一般形電車」という名前で統合。以降はE231系および発展型のE233系、E235系を基本に、路線事情に合わせてトイレの設置や座席の構造を変化させるようにしました。
2020年からは横須賀・総武快速線に新型車両E235系が投入される予定です。
今後JR東日本が新型車両を投入する際は、これまでの通勤形や近郊形の枠にとらわれず、利用実態を鑑みたうえで客室のサービスが設定されていくことでしょう。