陸上自衛隊で戦闘ヘリ更新に関する模索が続くなか、世界11か国でAH-64E「ガーディアン」の導入が進んでいます。地対空ミサイルが大進化したため不要論も見られる戦闘ヘリですが、アメリカ陸軍はもちろんその対策を考えています。

AH-64E「ガーディアン」500機が世界11か国へ

 ボーイングは2020年4月16日(木)、同社の戦闘ヘリコプターAH-64E「ガーディアン」の納入機数が500機に到達したと発表しました。

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アメリカ陸軍のAH-64E「ガーディアン」(画像:アメリカ陸軍)。

 AH-64Eは、陸上自衛隊も運用している戦闘ヘリコプターAH-64D「アパッチ・ロングボウ」の発展改良型で、2012(平成24)年までは「AH-64DブロックIII」と呼ばれていました。このため外観はAH-64Dと大差なく見えますが、実のところ中身はかなり変更されています。

 AH-64シリーズは搭乗員の生存性に重きを置いた設計がなされており、操縦席の周辺には装甲板が装着されています。AH-64Eはこの装甲板の素材を変更することにより、装甲防御力がAH-64Dに比べて約15%、向上したといわれています。

新型ミサイル搭載で戦闘ヘリは生き残れるか? AH-64E「ガーディアン」の実力と今後

AH-64E「ガーディアン」(竹内 修撮影)。

 搭載する「AN/APG-78ミリ波レーダー」も改良されており、目標の捜索、追尾能力がさらに向上しています。また、AH-64DのAN/APG-78には無かった、洋上目標を捜索、追尾する「マリタイムモード」が追加されたことで、敵の小型艦艇などに対する対処能力も向上しているほか、ドローンのような小型目標の捜索能力も強化されています。

新型ミサイル搭載で戦闘ヘリは生き残れるか? AH-64E「ガーディアン」の実力と今後

AH-64Eと協働できるUAVのMQ-1C「グレイイーグル」(竹内 修撮影)。

 AH-64Eの最大の特徴は、「MUM-T(Manned Unmmaned Teaming)」と呼ばれる、UAV(無人航空機)との協働能力が追加された点にあります。現時点でAH-64Eは、アメリカ陸軍が運用していているRQ-7「シャドー」、MQ-1C「グレイイーグル」、陸上自衛隊も導入している「スキャンイーグル」との協働が可能となっており、これらのUAVが捉えた画像などの情報をリアルタイムで受信し、友軍の戦闘車両や司令部などへ転送することができます。

また将来的にはAH-64Eが、MQ-1Cなどの武装を搭載したUAVを指揮管制して、攻撃を行うことも構想されています。

進化した地対空ミサイル…AH-64E「ガーディアン」はどう生き残る?

 前にも述べたように、AH-64シリーズは機体そのものも高い生存性を備えていますが、AH-64Dは搭載するAGM-114L「ロングボウ・ヘルファイア」対戦車ミサイルによって、さらに生存性を高めています。

新型ミサイル搭載で戦闘ヘリは生き残れるか? AH-64E「ガーディアン」の実力と今後

AH-64Dのスタブウィング(張り出し翼)に搭載された「ヘルファイア」ミサイルと70mmロケットランチャー(竹内 修撮影)。

 陸上自衛隊も運用しているAH-1S「コブラ」対戦車ヘリコプターが搭載する「TOW」などの対戦車ミサイルは、ミサイルと発射機がケーブルで接続されており、発射から着弾まで射手が誘導しなければなりません。

 これに対し「ロングボウ・ヘルファイア」は、AN/APG-78レーダーを使って目標まで誘導できるため、発射後は敵の地対空ミサイルなどによる反撃を受けにくくなっています。

 ただ、近年では地対空ミサイルの射程の延伸により、AH-64Dと「ロングボウ・ヘルファイア」の組み合わせも、以前ほど高い生存性を維持することが困難になりつつあり、専門家のなかからは、戦闘ヘリコプターの有用性は下がったと指摘する声も聞こえてきます。

新型ミサイル搭載で戦闘ヘリは生き残れるか? AH-64E「ガーディアン」の実力と今後

「スパイクNLOS」対戦車ミサイルの実大模型(竹内 修撮影)。

 このためアメリカ陸軍はAH-64Eに、イスラエルのラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズが開発した長射程対戦車ミサイル「スパイクNLOS(Non Line Of Sight)」を組み合わせることで、その生存性を高めようとしています。

 ロシアが開発した近距離対空防御システム96K6「パーンツィリ-S1」が搭載する、地対空ミサイル57E6の最大射程が20km程度であるのに対し、スパイクNLOSの射程は25kmから30kmに達しており、57E6の射程圏外から「パーンツィリ-S1」を撃破することができます。

 現時点でアメリカ陸軍は「スパイクNLOS」の導入を正式決定していませんが、おそらくAH-64Eの搭載兵装に加わると、筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。

更新迫る陸自戦闘ヘリ その選択は…?

 機体の持つ高い性能に加えて、「スパイクNLOS」のような新たな兵装を搭載する構想もあることから、AH-64Eは製造開始からわずか7年で製造機数が500機を突破したといえますが、実のところ500機のかなりの部分は、AH-64Dからの改修機によって占められています。

 AH-64Eは2020年6月の時点で、アメリカ、インド、台湾、韓国、カタール、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、エジプト、オランダ、イギリス、インドネシアの11か国に採用されており、このうちオランダとイギリス、エジプトは全機がAH-64Dからの改修です。

またアメリカとUAEの保有するAH-64Dはその多数が、AH-64Eに改修するための作業を進められています。

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韓国陸軍のAH-64E。韓国陸軍は新造機でAH-64Eを導入している(竹内 修撮影)。

 アメリカ陸軍は保有するAH-64Dの大部分をAH-64Eに改修して、2060年まで運用する方針ですが、その一方でAH-64Dのサポートについては、段階的に縮小していく方針も明らかにしています。

 陸上自衛隊は2020年6月の時点で、12機のAH-64Dを保有していますが、AH-64Eに改修するか否かは決定していません。陸上自衛隊の保有するもうひとつの戦闘(対戦車)ヘリコプターであるAH-1S「コブラ」は老朽化のため急速に退役が進んでおり、早急に後継機の導入が望まれます。

 AH-64Eは高価なため、AH-1Sのように90機を導入することは困難ですが、現在、保有しているAH-64DをAH-64Eに改修すると共に新造機を一定数導入し、UAVと組み合わせることで、機数は少なくとも戦闘ヘリコプター戦力を維持することは可能であり、検討に値すると筆者は思います。

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