アメリカのご長寿爆撃機B-52「ストラトフォートレス」と同時期に登場した東側爆撃機といえば、ソ連(当時)製Tu-16があります。これを原型とする中国のH-6は実はしばしば日本近傍を飛んでいる、広く知られずとも身近な機でもあります。

蒼空の最前線 新鋭機のつば競り合いと思いきや…

 2020年4月9日に防衛省が発表した緊急発進(スクランブル)実施状況によりますと、昨年度の緊急発進回数は947回(前年度比52回減)で、そのうち中国機に対するものが675回(前年度比37回増)と、対象国別で最も多くなっています。日中の空のつば競り合いは日常的に起こっているというのが、日本の空の厳しい現実です。

 航空自衛隊が最新鋭機F-35Aを配備するなど、両国で装備のアップデートに力が注がれる一方、同じ空には約70年前に登場したというご長寿機もいます。それが中国のH-6(轟炸六型)爆撃機です。今年の2月9日にも4機編隊を組んで、沖縄本島と宮古島のあいだを通過しました。

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2020年2月9日に沖縄本島と宮古島の間を通過したH-6(画像:防衛省統合幕僚監部)。

 H-6は、原型がソ連最初のジェット爆撃機Tu-16で、中国がライセンス生産して独自に改修している機体です。Tu-16の初飛行は1952(昭和27)年4月27日のことで、御年68歳ということになります。

 実はアメリカのB-52爆撃機も初飛行が1952年10月2日で、Tu-16とは同期になります。B-52は改修しながら2050年代まで使われることになっており、100年という超長寿機になる可能性があります。アメリカ空軍には祖父、父、息子の3代に渡ってB-52のパイロットという例もあるそうです。

軍用機としては長寿 旅客機としては?

 Tu-16はソ連で最初のジェット爆撃機であり、その初飛行した1950年代初頭といえば、ジェット機時代の黎明期です。

社会主義国家ソ連は技術力アピールのため、ジェット旅客機の開発も進めます。そして爆撃機だったTu-16をベースに造られたのが、旅客機Tu-104でした。

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モスクワ近郊ブヌコヴォ空港に展示されているTu-104。

 Tu-104は1955(昭和30)年に初飛行し、イギリスの「コメット」に次ぐ世界で2番目のジェット旅客機となります。当時はコメットが構造的欠陥により運航停止、アメリカでものちのボーイング707がまだ開発段階でしたので、Tu-104の登場は西側に衝撃を与えました。

 でも本当に衝撃を受けたのは、ほかならないソ連自身でした。「Tu-104は史上最も危険なソ連製旅客機」とまでいわれています。製造された201機の5分の1近い37機が事故で失われ、1137人が命を落としました。1956(昭和31)年にフルシチョフ第一書記が、完成したばかりのTu-104をアピールすべく同機でイギリスを訪問しましたが、安全性に懸念を持った警備当局が搭乗を止めさせようとしたともいわれています。しかし公式には失敗を認めない当時のソ連政府は、1979(昭和54)年まで同機による旅客輸送を続けました。

 一方、軍用のTu-16は成功作でした。1509機も生産されて1993(平成5)年までロシア空軍で使われます。

1958(昭和33)年には中国に引き渡され、H-6(轟炸六型)としてライセンス生産が行われています。旅客機としては散々だったのに軍用機は21世紀の現在でも現役についているという、不思議な機体でもあります。

ロートルのはずのH-6だが…アメリカも目を離せない老獪さ

 アメリカをはじめ西側の軍事情報筋は、この1950年代生まれの機体をいまでもフォローし続けています。中国で現代戦に通用する爆撃機を一から開発するのは難しいようで、H-6を徹底的に近代化改修して使い続けているからです。用途も戦略爆撃、戦術爆撃、巡航ミサイルや空対艦ミサイルの発射母機、空中給油機や核攻撃機、偵察機、電子戦機、対潜哨戒機など多岐に渡っています。

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2019年10月1日の国慶節パレードに姿を現したH-6N(画像:中国中央電視台)。

 2019年10月1日、中国の国慶節パレードでは、最新のH-6N型が登場しています。空中発射弾道ミサイル(ALBM)を搭載できるといわれ、西側が存在を探っていた機体です。

 この空中発射弾道ミサイルは、アメリカではCH-AS-X-13と呼称されています。アメリカ海軍の空母を狙うものとされ、地上発射式の対艦弾道ミサイルといわれるDF-21Dはすでに実戦配備されていることが確認されていますが、この空中発射式のCH-AS-X-13はDF-21Dをベースに空中発射できるようにした改良型ではないかと見られています。2016年から2018年にかけて試験が行われており、2025年には配備が始まると予測されています。

最新鋭ミサイルを運ぶ「プラットホーム」として

 最新のCH-AS-X-13とロートルのH-6の組み合わせはある意味、異形です。

しかし、ミサイルの射程は3000kmと見積もられており、またH-6Nの機首には空中給油用のブローブがあるのが分かっていて、その航続距離は延伸され3500km以上ともいわれますので、攻撃可能範囲は6500kmにもなります。中国のエアカバーの範囲内から太平洋上のアメリカ空母を攻撃できるようになり、地上発射式よりもずっと柔軟に運用することができます。アメリカが神経を尖らせる理由が分かります。

 B-52と同様にH-6も超ベテランですが、昨今(2020年現在)の傾向として、戦力となるのに重要なのは搭載する兵器の性能であり、兵器を運搬する単なるプラットホームである機体そのものの性能は必ずしも重視されなくなってきています。そのような事情や後継機も居ないことからH-6もまだ当分は現役に留まりそうで、中国にもH-6に乗る3代に渡るパイロット親子が出てくる可能性はあります。

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2019年度にスクランブル対象となった中国機及びロシア機の飛行パターン例(画像:統合幕僚監部)。

 一方で「出迎える」航空自衛隊のF-15も、原型機は1972(昭和47)年に初飛行で、実は蒼空の最前線は意外に「高齢化」が進んでいるようです。

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