「20世紀最強の戦闘機」とも評されるアメリカ製のF-15「イーグル」。当初は空対空戦闘に秀でた戦闘機として開発されましたが、いまでは多用途戦闘機に生まれ変わっています。
ボーイングは2020年7月28日(火)、航空自衛隊のF-15J戦闘機における能力向上改修作業の主契約社である三菱重工業との間で、同社の能力向上改修作業を支援する契約を締結したと発表しました。
ボーイングが発表したF-15JSI(ジャパニーズ・スーパー・インターセプター)のイメージCG(画像:ボーイング)。
F-15J戦闘機は、ふたり乗りのF-15DJと合わせ、2020年3月31日の時点で201機が運用されている航空自衛隊の主力戦闘機です。原型であるアメリカ空軍のF-15「イーグル」戦闘機の初飛行は、2020年現在から48年前の1972(昭和47)年7月27日に行なわれています。
F-15「イーグル」が初飛行を行った1972年当時、アメリカは10年以上におよぶベトナム戦争の泥沼から抜け出すべく、フランスのパリで、現在のベトナム社会主義共和国の前身である、北ベトナムことベトナム民主共和国と和平協定の締結に向けた話し合いを進めていました。
ベトナム戦争でアメリカ空軍が使用した戦闘機は、運動性能よりも高速性能や、核爆弾や核ミサイルなどの運用能力を重視して設計されていたため、北ベトナム空軍が用いたMiG-21などのソ連製戦闘機との空対空戦闘、とりわけ格闘戦(ドッグファイト)で苦戦を強いられていました。
アメリカ空軍はベトナム戦争が苛烈を極めていた1965(昭和40)年から、次期戦闘機の研究を開始していましたが、ベトナム戦争での反省に加えて、1967(昭和42)年7月の「モスクワエアショー」に登場した、MiG-25をはじめとしたソ連の新戦闘機に衝撃を受けたこともあって、新戦闘機には速度性能だけではなく、高い運動性能と航続性能、兵装搭載量も兼ね備え、さらに中距離空対空ミサイルを運用できる高性能のレーダーを搭載した、いかなる空対空戦闘でも優位に立てる戦闘機であることを求めました。
その結果F-15は、当時最先端の複合素材や高価なチタン合金を多用して軽量化された機体に強力なエンジンを組み合わせ、高性能のレーダーを搭載することで、アメリカ空軍の要求を充たす、近距離でも遠距離でも空対空戦闘を優位に進められる戦闘機となったのです。
F-15「イーグル」のアップデートを促したF-16やF/A-18の台頭F-15「イーグル」は、実戦でアメリカ空軍の要求に違わぬ結果を残しており、1979(昭和54)年のイスラエルとシリアの交戦を皮切りに、様々な戦いに投入されながらこれまでに100機以上の敵機を撃墜して、自機の損害はゼロという、過去の戦闘機に例のない高いキルレシオ(敵機の撃墜に対する被撃墜比率)を達成しています。
しかし高性能であるがゆえに価格が高かったことから、制空戦闘機として開発された初期型のF-15A/B/C/D型を導入したのは、日本、イスラエル、サウジアラビアの3か国のみにとどまりました。

1972年に初飛行を行なったF-15の前量産初号機。
F-15「イーグル」の輸出が振るわなかったもうひとつの理由は、空対空戦闘だけでなく、高い対地攻撃能力や対艦攻撃能力も兼ね備えていた上、F-15に比べて価格も安いF-16やF/A-18のような、多用途戦闘機が世界市場で好まれたこともあります。
アメリカ空軍は1980年代に、F-15の複座型をベースにした多用途戦闘機型のF-15E「ストライクイーグル」を開発していましたが、強力な対地攻撃能力を持つなどの理由から、アメリカ政府は輸出に慎重な姿勢を示し、サウジアラビアとイスラエルへ輸出したF-15Eは、わざとアメリカ空軍仕様よりも能力を落としていました。
アメリカは1990年代後半になると、より高性能なF-22が登場したことなどから、一転してF-15Eの輸出に積極的になりましたが、依然として高価であり、また本国仕様より能力が落とされていることもあって、やはり輸出はふるいませんでした。
そこでアメリカ政府とボーイングは、韓国に提案するF-15Eベースの多用途戦闘機型F-15Kでは、あえて本国仕様のF-15Eよりも高い性能を与えることを決断します。
もはや別物 これからのF-15「イーグル」この決断が功を奏してF-15Kは韓国空軍に採用され、そして制空戦闘機としても高い能力を持ち、かつ多用途性能も兼ね備えたF-15Kに世界各国が注目します。
その結果、シンガポールがF-15Kよりも高性能のレーダーを搭載したF-15SG、サウジアラビアが飛行制御システムをフライ・バイ・ワイヤに変更するとともに兵装搭載量の増加などの改良を加えたF-15SA、カタールがF-15SAのコックピットを大幅に近代化して、より高性能なレーダーを搭載したF-15QAを相次いで採用したのです。

本国仕様のF-15Eよりも高性能の電子装置を搭載する韓国空軍のF-15K(竹内 修撮影)。
2019年には、アメリカ空軍がF-15QAをベースとするF-15EXの採用を決定。F-15は開発時のコンセプトであった空対空戦闘能力を追求した戦闘機から、多用途戦闘機へと華麗(?)に転進して、1976(昭和51)年の量産開始から44年が経過した現在も、生産が継続されています。
航空自衛隊のF-15Jは、制空戦闘機型のF-15Cをベースに開発されていますが、2022年から開始される予定の能力向上改修で、「JASSM-ER」のような長射程の対地/対艦ミサイルなども運用できる多用途戦闘機「ジャパニーズ・スーパー・インターセプター」(F-15JSI)へと生まれ変わる予定です。
F-15JSIのレーダー、コックピット、コンピューターなどは、前に述べたF-15EXと共通化されており、ボーイングのプラット・クマールF-15担当副社長はF-15JSIについて、F-15EXに近い能力を持つ戦闘機になるとの見解を示しています。
ボーイングはF-15EXの単座型も構想しており、その名称が「F-15CX」になると述べていますが、F-15JSIは外観こそF-15Jと大きく変わらないものの、中身は事実上「日本版F-15CX」といえるような、まったく別の戦闘機になると考えるべきだと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。