東急東横線 綱島駅バスターミナルの近くに、バス1台が停まれる離れ小島のような別の乗り場が存在。ここへ最近、隣接する雑居ビルを改装した「居抜き物件」の待合所ができました。

実は地域の歴史にとって大きな出来事かもしれません。

中華料理店の雰囲気がいまも残る「居抜きバス乗り場」

 東急東横線の綱島駅(横浜市港北区)には、駅の高架下に東急バスなどが発着するバスターミナルがあります。複数の乗り場にバスがバックで進入し、ズラリと並ぶ「スイッチバック式」のバスターミナルで、関東においては希少な存在ですが、こことは別に、東口の少し離れた位置に「7番乗り場」が存在します。

 その7番乗り場は、綱島駅と鶴見駅を結ぶ臨港バス(川崎鶴見臨港バス)「鶴03」系統のみが発着します。バス1台分がギリギリ収まるスペースに、これまたバックで進入していく小さな乗り場ですが、2020年1月、この乗り場に待合所が新設されました。ただその待合所が、かなり特徴的。隣接する雑居ビル1階を活用した、まさしく「居抜き物件」なのです。

元は中華料理店「居抜きバス乗り場」なぜできた? 実はエポック...の画像はこちら >>

臨港バス「鶴03」系統が発着する綱島駅7番乗り場。待合所はもと中華料理店(2020年8月、中島洋平撮影)。

 以前ここには中華料理店が入居しており、店の看板の上から「鶴03」系統の方向幕(行先表示板)を模したようなシートが貼られ、同系統の乗り場であることが案内されています。入口のガラスに貼られた系統図は、遠くからだと中華料理店のメニュー表のように見えなくもありません。

 その中は、床の点字ブロックや乗車を待つ人の列を仕切るロープなどがあるものの、基本的にはがらんどうで、室内の奥から屋外のバス乗り場へ通じています。

なお、待合所とバス停車スペースのあいだには不動産店の看板と、そこへ通じる階段があり、2階で営業しているというのが、ますます変わった感じを醸し出しています。

「『鶴03』はご利用が多く、お客様は雨風のなか、屋外に列を作って並ばれていましたため、周辺道路の安全対策の観点からも待合所を設置しました」。臨港バスは、待合所を開設した理由をこのように話します。

 実は、綱島駅に発着する臨港バスは「鶴03」系統のほかに、川崎駅とを結ぶ「川51」系統もありますが、この系統は駅高架下バスターミナルの6番乗り場(横浜市営バスと共用)から発車します。そもそもなぜ、「鶴03」だけ乗り場が離れているのでしょうか。

実は綱島の街の「生き証人」だった「鶴03」乗り場

 臨港バスは「鶴03」の乗り場について、次のように話します。

「『鶴03』は当社で最も古い路線で、バスの折返所(停車スペース)はずっと当社の所有です。2019年に、隣接するビルがたまたま売りに出たので購入し、待合所を設けたのです」

 臨港バスの源流は、かつてJR鶴見線を営業していた鶴見臨港鉄道です。1930年代に子会社として臨港バスの前身となる会社が発足する以前から、鶴見臨港鉄道が「鶴03」のルートでバスを運行していました。綱島駅が高架化され、その下にバスターミナルができたのは1960年代のことです。

元は中華料理店「居抜きバス乗り場」なぜできた? 実はエポックメイキングだった

以前はバスと建物のあいだのスペースに定期券販売所も設けられていた(2020年8月、中島洋平撮影)。

 つまり90年近くにわたり、バス1台分が発着する小さなスペースでやりくりしてきたところ、隣接する物件を購入して、ようやく待合所ができたというわけです。

2階の不動産店はそのまま営業していますが、ビルが臨港バスの所有になったからこそ、1階奥からバスの停車スペースへ壁をぶち抜くこともできたのだそう。

 ちなみに、この乗り場には以前、定期券販売所も設けられていましたが、ここから北東に位置する綱島街道沿いの雑居ビルに移転しています。もとコンビニエンスストア、現在は学習塾が入居し、その一画が定期券販売所になっているという建物ですが、「このビルも実は当社の所有です」とのこと。定期券がICカードに変わったため、パソコンなどの端末を設ける必要があったことから、コンビニが撤退したのを機に移転したのだそうです。

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