戦闘車両には攻撃力、機動力とともに防御力も求められます。それならば自走できる野砲、すなわち自走砲も装甲で覆われていた方が防御力に優れるように思えますが、運用思想の観点から、あえて防御力を低くした車両があります。

すべての自走りゅう弾砲を屋根付きにしないワケ

 陸上自衛隊には2020年現在、「99式自走155mmりゅう弾砲」と「203mm自走りゅう弾砲」、最新の「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」の3種類の自走りゅう弾砲があります。大きく分けると99式自走砲と203mm自走砲が履帯駆動、いわゆるキャタピラ式なのに対して、19式装輪自走砲はタイヤ駆動の車輪式という違いがありますが、それ以外にも陸上自衛隊の3種類の自走砲は装甲の有無で区分できます。

 99式自走砲が、旋回式の密閉式砲塔に155mmりゅう弾砲を搭載しているのに対し、203mm自走砲と19式装輪自走砲は砲尾(装填部)や砲架(砲を載せる架台)がむき出しです。なぜこのような違いがあるのでしょう。

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陸上自衛隊の203mm自走りゅう弾砲(柘植優介撮影)。

 それはおもに運用思想、すなわち使い方の違いに起因するものです。

99式自走砲は装甲で覆われた密閉式砲塔のため、銃弾の直撃や爆風などに強く、乗員は比較的安全な車内で射撃操作を行えます。しかし砲塔は巨大なため、シルエットは大きくなり、かつ車体重量も40tと、38tの74式戦車よりも重いです。

 一方、203mm自走砲や19式装輪自走砲には、乗員を守る装甲はありません。ゆえに、至近弾や爆風でも乗員が負傷する恐れがあるものの、車高を低くすることができ、車体重量も203mm自走砲で28.5t、19式装輪自走砲では25t以下に抑えられています。

オープントップ自走砲ゆえのメリットもあり

 全高の低さや車重の軽さは、運びやすいというメリットにつながります。そもそも19式装輪自走砲は緊急展開能力を高めるために開発された経緯があります。

装輪式、いわゆるタイヤ駆動のため、トラックなどの普通車と同じように一般道を走ることができ、高速道路も100km/hで長時間走り続けられます。

 一方、99式自走砲や203mm自走砲は、100km/hものスピードを出すことは不可能であり、なおかつ長距離移動時にはトレーラーに載せる必要があります。

 また19式装輪自走砲は、前出のとおり全高が低く車体重量が25t以下のため、航空自衛隊のC-2輸送機で運ぶことができます。その点で99式自走砲にはないメリットを持っているといえるでしょう。

防御力あえて低く? 「屋根なし自走砲」の大きなメリットとは 密閉式とは設計思想が違う

国産開発の99式自走155mmりゅう弾砲(柘植優介撮影)。

 ちなみに、実は203mm自走りゅう弾砲も同様の運用思想のもと開発されています。

203mm自走りゅう弾砲は1950年代後半にアメリカで開発されたものですが、設計コンセプトのなかに大型輸送機で空輸可能というのが盛り込まれていたため、大口径砲を搭載しつつも、全高を抑えるためにオープントップとされ、車体は非常にコンパクトにまとめられました。

 このように設計思想が異なるため、同じ自走砲といいながら、片や完全密閉砲塔を装備し、もう一方はオープントップなのです。もちろん費用面も後者のほうが安価で、調達コストを抑制するためにオープントップにするという理由もあります。