我々日本人にとって馴染み深いイカの一つである「スルメイカ」。しかしここ数年は記録的な不漁が続き、ピンチを迎えています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
スルメイカ漁獲は5年で3分の1に
初夏になり、暑さが気になる季節になってくると美味しくなるのがスルメイカ。

細く切った「イカそうめん」の涼やかな味わいはまさに季節の味わいです。2020年のスルメイカ夏漁も各地で解禁されはじめており、全国屈指のスルメイカ水揚げを誇り、朝市の「イカ釣り堀」で有名な函館でも6/2に解禁となりました。
しかし、初日の水揚げは歴史的不漁だった昨年と並ぶ1.4tと低調、ここ数年の不調を反映するような滑り出しとなりました。これは函館だけの話ではなく、全国的にスルメイカは不漁が続いています。2013年は17万tあった漁獲量は、2018年には5万tを下回り、5年で実に1/3以下となってしまっています。(『「イカがいねぇ」不漁底なし 20年漁獲枠も過去最低に』日本経済新聞 2020.1.30)
続く不漁に伴い、水産庁は2020年度のスルメイカ漁獲枠を過去最低の5万7千tに設定しました。しかしこれも2019年の水揚げ2万1千tと比べると遥かに過大で、漁業者側から反対する意見が出るという異常事態となっています。
スルメイカ不漁の理由
スルメイカの生態については不明な点が多く、様々な研究が続けられています。現在続く不漁の原因についても様々な説が発表されているのですが、その中でも有力といわれているのが「水温など海の環境がイカのふ化や生育に適さなかった」というもの。日本近海のスルメイカが産卵を行う東シナ海沖の海域の水温が低い状態が続き、孵化した幼イカがきちんと成長できなかったため、回遊するイカの量が減ってしまった可能性があるといいます。(『「海に異変?イカの記録的不漁」』NHK解説委員室)

また自然要因だけでなく、人為的な要因も小さくはないと見られています。そのひとつが、外国船による密猟や不正な乱獲。
流通量少ないのに価格低落も
様々な要因で不漁が続くスルメイカ漁ですが、水揚げ後もネガティブな現状があります。通常、不漁のときは魚価は向上する事が多く、実際に昨年の不漁では卸値の向上も見られました。しかし今年はコロナによる全面的な魚価低下のあおりを受けてしまい、流通量が少ないにもかかわらず、卸値が昨年の半値以下になってしまったようなところもあるそうです。(『「だめだ、イカいない」 イカの街に危機感 初競りも去年の半値以下 コロナで需要伸びず スルメイカ初水揚げ 北海道函館市(北海道)』STVニュース 2020.6.2)
厳しい状態が続き、廃業の道を選ぶ漁業者も増えています。

今後に期待できる要素も
しかし、暗いニュースだけではありません。こちらもスルメイカ漁が有名な石川県志賀町の富来漁港では、5月29日には「今シーズン最高」という大漁に恵まれました。(『スルメイカ漁復調の兆し 富来漁港』北國新聞 2020.6.7)これから成長する稚イカの数も多く、今後の漁にポジティブな見込みを持っている漁業者も多いそうです。
密漁対策も進んでおり、水産庁は55年ぶりに新造する取り締まり船を新潟に配備、海上保安庁も日本海で運用する大型巡視船を2隻増やすことを決定しました。(『外国漁船取り締まり船 55年ぶり新造 対中国、警告急増』日本経済新聞 2020.2.11)
日本の食卓に欠かせないスルメイカ。不漁の原因がはっきりし、様々な対策が速やかに効果をあげていくことを祈りたいと思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>