養殖魚の需要が世界的に拡大している中で、その主力の一翼を担っているのは実は「淡水魚」であるということをご存知でしょうか。
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存在感を増す「養殖淡水魚」
いまや世界の食料市場において欠かせない存在である「養殖魚」。多少の地域性はあるものの、総論として1990年代から養殖魚生産量は右肩上がりとなっており、ここ数年ではついに養殖魚介類の生産量は天然魚介類のそれを上回るようになりました。
この状況は途上国を中心とした人口の増加、先進国における魚食の促進などが理由であり、今後もしばらく需要・供給ともに右肩上がりになるとみられます。

その中で、個人的に注目したいのは「淡水魚の養殖生産量」です。世界の漁業における内水面「漁船漁業」生産量(つまり、天然魚介類の生産量)は2000年頃から微増程度なのに対し、内水面「養殖漁業」生産量はかなり増加しており、2018年では、すべてのジャンルの漁業生産量総計のうち4分の1弱を占めるまでに至っています。(『令和元年度水産白書』水産庁)
メジャーな養殖淡水魚
我が国でも、淡水魚介類の養殖はニジマスなど一部のマス類、コイ科のコイやフナ、ホンモロコ、淡水真珠貝などにおいて行われてはいます。しかし周囲を海に囲まれた日本では淡水魚養殖の需要はあまり高まることはなく、海水での養殖と比べると種類もごく僅かです。
一方世界に目を向けると、日本ではほぼ知られていないものの、食材としては非常にメジャーで重要な養殖淡水魚がいくつも存在します。そしてその中でも最も代表的なものが「ティラピア」と「ナマズ類」です。

ティラピアはスズキ目の淡水魚で、我が国ではかつてタイの代用魚として扱われていたこともある、美味な食用魚です。低水温に弱いため我が国では自給できず、食文化も廃れましたが、どんな餌でも食べ繁殖力も強いことから養殖向きの魚で、現在ではアフリカからアジア、アメリカにかけ広い地域で養殖されています。
ナマズ類
「ナマズ類」にはチャネルキャットフィッシュ(アメリカナマズ)やバサといったものがあります。東南アジアを中心にごくメジャーな食用魚で養殖が盛んにおこなわれており、日本にも輸入されています。
日本ではかつて霞ヶ浦周辺などでチャネルキャットフィッシュの養殖が試みられましたが、自然環境に逸出して生態系に大きな被害を与えてしまっており問題になっています。しかしそれは逆説的に言えば資源量を増やしやすいということでもあり、養殖向きではあるといえます。
これらの魚類の他、中国では「四大家魚」と言われるコイ目の魚の養殖が古くから盛んで、その生産量は無視できる量ではありません。
淡水魚の養殖がもつメリットとは
このような淡水魚の養殖は、海での養殖技術が向上するに従い廃れていくものと考えられていたこともありました。しかし、実際のところ淡水魚の養殖には海水魚にはないメリットがあり、そのため結果的に今も生産量を増加させています。
最も大きなメリットは「コストが小さい」こと。陸上に設置できる養殖場は小規模から行うことが可能で、イニシャルコストや運営費の面で有利です。
海上の養殖場は大規模にでき、一度に大量の魚を育てることができますが、その分各種のコストが掛かり、加えて自然災害や赤潮などの環境変化リスクにも弱いというデメリットがあります。近年の異常気象によりこのリスクは増大しており、いまや大規模資本の養殖場しか生き残れなくなってきているともいわれます。

もう一つのメリットは「非タンパク質飼料で育てられる」こと。
海水養殖魚の多くは肉食魚であり、その資料には多くの場合、小魚を原料としたフィッシュミールが使用されます。消化吸収に当たり必要なカロリーが相殺されることを考えると、どうしても「育てた養殖魚のタンパク質総量<飼料として消費されたタンパク質総量」となるため、肉食魚の養殖はタンパク質生産効率に劣ることが問題視されます。
一方で淡水養殖魚には草食・雑食性、あるいはプランクトン、貝類食性のものが多く、フィッシュミールを使用しなくても養殖が可能なことが多いのです。
これらのメリットはいわゆる「SDGs」の側面から見ても非常に有益であると言え、今後さらに淡水魚の養殖は重要な産業となっていくでしょう。我が国では、淡水魚がそもそも食材としてマイナーであるというハードルがあるのですが、今後このような「淡水養殖魚」が食材として見直される機会が来るかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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