スイスイと海面をすべるように進むカヤック。しかし、実際にどのくらいのスピードが出ているか知っている方は、意外と少ないのではないでしょうか?今回はフィッシングカヤックのスピードや、速く移動できることのメリットなどを解説します。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター・福永正博)
手漕ぎカヤックが進む仕組み
カヤックを進み方で大きく分けると「手漕ぎ」と「足漕ぎ」があります。まずは手漕ぎカヤックが進むロジックから紹介してきましょう。
手漕ぎカヤックはどうやって前へ進むのか?その答えは「手漕ぎカヤックはパドルで水をかいて進む」。たしかにその通りです。しかし、「手漕ぎ」といっても、本当に手だけでパドルを漕ぐのではありません。
下半身も重要
中・上級者のカヤック乗りがよく口にする言葉が「パドリングは全身運動」というもの。野球のバッティングやゴルフのスイング、釣りのキャスティングなど、様々なスポーツの動作と同様に、カヤックのパドリングも手だけでなく下半身を使います。
ある程度パドリングに慣れたあと、足の踏ん張りがきかない状態(フットレストをはずすなど)でパドリングしてみると、あまりの漕ぎづらさに驚きます。
パドリングは、全身の筋肉をバランスよく使うことが大切。もちろん、だれも最初からうまくはできませんので、マスターするまでにそれなりの練習が必要ですね。
パドル
パドルそのものにも目を向けてみましょう。一見するとシンプルな形をしているパドルですが、想像以上にたくさんの要素がつまっています。
・ブレード(水かき)の形状による水つかみの強弱
・シャフトの長さ・曲がりによる漕ぎやすさのちがい
・材質の軽さによる疲れにくさ……等々
これらの要素を把握して、自分の技量や体格にあったパドルを選ぶためには、実際にいろいろなパドルを使ってみて比較することが必要です。人によっては、ハードルが高いと感じるかもしれません。
練習と経験が必要
手漕ぎカヤックでスピードに乗って快走するためには、それなりのパドリング練習や、パドルに関する知識・経験が不可欠。手漕ぎカヤックのおもしろい部分でもあり、初心者が難しく感じる部分でもあります。
足漕ぎカヤックが進む仕組み
一方で足漕ぎカヤックはどうでしょうか?足漕ぎカヤックはペダルを漕ぐとフィンやプロペラが駆動され前進する仕組みです。
足漕ぎカヤックの場合、漕いで前進するのに難しいコツをおぼえる必要がありません。漕ぐ(前進)と曲げる(方向転換)が分かれているからです。ラダー(舵)を動かしてカヤックを曲げるのは、手もとのレバーをひねるだけ。

初心者でも操縦可能
乱暴な例えですが、初めてカヤックに乗った初心者2人を海の沖合においてきたとします。1人は手漕ぎ、もう1人は足漕ぎです。おそらく手漕ぎカヤックの彼は、まっすぐ進めなかったり、スピードが出なかったりして苦戦することでしょう。
一方で足漕ぎカヤックの彼は、「なんでおいていくんだ!」と腹をたてて、がむしゃらにペダルを漕ぎながらこちらに向かってくるかもしれません。
手漕ぎより楽
手漕ぎカヤックはパドリングの習熟度によって、直進性やスピードに差が出ます。それに対して足漕ぎカヤックは、初心者でも簡単に乗りこなせてスピードを出せる手軽さがあります。
脚の筋肉はパワフル
足漕ぎカヤックが簡単にスピードを出せるもうひとつの理由として、人体でもっとも大きくてパワーがある脚の筋肉を使うことが挙げられます。
これはスピードだけでなく、持久力に関してもいえることで、長い距離・長い時間を漕ぐ場合でも比較的疲れにくいといえるでしょう。
悪条件にも強い
操船が簡単であることは、悪条件下でもメリットになります。難しいテクニックを波や風が強い状況でおこなうのは、さらに難易度が上がりますからね。とくに強風時に風上に向かって漕ぐときや、方向転換する際に大きな差を感じます。
パドリングによる左右の体重移動がないため、波が高いときもバランスを崩しにくい点もメリットです。
操縦に影響する条件
いくら上手にパドリングができても、足漕ぎカヤックであっても、カヤックのスピードは様々な条件によって変わります。
風の影響を受けやすい
カヤックに風は大敵。強い風がふけば、風上に向かってカヤックを漕いでもなかなか前に進みません。手漕ぎカヤックは、ブレードが風を受けてしまいブレーキがかかった状態になるため、低い軌道でパドリングするなどの調整が必要です。

波が高いと進みづらい
波が高いと、船首が水面をバタバタとたたいて大きな抵抗になります。また、一生懸命漕いでも上下動しているばかりで、実際にはあまり前進していないことも。
手漕ぎカヤックは、パドリング時に水中に入るブレードの深み(キャッチ)がバラつき漕ぎづらく感じます。足漕ぎカヤックは常にドライブが水中にあるため、比較的影響が少ない印象ですね。
潮の流れが速いと進みにくい
海面がおだやかであっても、意外と潮の流れが速い状況はよくあります。場所やタイミングによっては川の流れ並みの速さになり、スピードを出すことが難しくなります。
カヤックの形
形状のちがいも、カヤックのスピードに大きく関係する要素。参考までに、レース用カヤックとフィッシングカヤックを見比べてみると全然違います。包丁で例えると、柳刃包丁と出刃包丁くらい違いますね。
スピードを出すことに特化したレース用のカヤックは、全体的にとても細長く、船底はツルンとしていて水の抵抗が少ない形状です。そのかわり、少しでもバランスを崩すとひっくり返ってしまいそう。
それに対して、フィッシングカヤックは幅が広く、よほどのことがない限りひっくり返らない安定性をもっています。モデルごとの個性やちがいはありますが、多くのフィッシングカヤックは安定性や積載性を優先した形状をしており、スピードに特化したものではありません。

カヤックのスピード
カヤックを疲れない程度に漕ぐ「巡航速度」は、おおよそ4~5km/h。成人男性が歩く速度と同じくらいです。
全力で漕いで最高速にチャレンジしても、10km/hの壁は厚く、ある程度スピードを重視したデザインのカヤックでやっと届くかどうか。シティサイクル(いわゆるママチャリ)が平均12~15km/hといえば、カヤックがどれだけゆっくりなのかイメージしやすいでしょう。
手漕ぎと足漕ぎ、船体デザインのちがいの差はっても、フィッシングカヤックは決して速い部類の船ではありません。ちなみに、SUPや手漕ぎボートは、カヤックよりもさらにスピードが出づらいため、より慎重な釣行プランが求められます。
ホビーカヤック(足漕ぎ)のスピード
ここで、筆者が愛用するホビー社のカヤックのスピード実測値をご紹介します。計測方法や気象条件による多少の誤差はありますが、参考になるデータといえるでしょう。
ミラージュ・パスポート10.5(全長3.2m/幅86cm)
ホビーのエントリーモデルの「ミラージュ・パスポート10.5」(全長3.2m/幅86cm)。筆者の愛艇でもあります。魚探の速度表示機能で測定した数値は以下。
巡航速度:4~4.5km/h
最高速度:7km/h
ミラージュ・パスポート12.0
お次はスタンダードな1人乗りモデルの「ミラージュ・パスポート12.0」(全長3.6m/幅86cm)。女性1人乗り時にGPSスピード計測アプリ使用した数値は以下。
巡航速度:4.1~4.6km/h
最高速度:7.6km/h
ミラージュ・アウトバック
最後は「ミラージュ・アウトバック。(全長3.89m/幅86cm)。安定性と機動性を両立し、カヤックフィッシング用の充実装備が特徴のモデルです。フィンが長く、スピードが出る「ターボフィン」仕様。男性一人乗りでGPSスピード計測アプリ使用した数値は以下。
巡航速度:5km/h
最高速度:10km/h
以上の3艇は、幅は同一ですが、長さと形状が異なります。やはり、カヤックが長くなるほどスピードが出る傾向がありますね。とくにアウトバックは最高速が10km/hに到達!
人力ゆえに疲れてしまうので短時間に限られますが、2馬力ボートに匹敵する速さを発揮しています。
ミラージュ・ドライブとプロペラ式の違い
ホビーカヤックの足漕ぎ装置、ミラージュ・ドライブは前後にフィンが2枚並んだデザインです。そのため、前面から受ける水の抵抗がとても少なく、漕ぐのをやめてもスーっと惰性で進んでいきます。
この点がプロペラ式の足漕ぎ装置とのちがいで、漕いでは休みを繰り返して遠いポイントに向かう場面では、結果いち早く目的地に到着することができます。

高機能だからこそ要注意
ここまでお伝えしたカヤックのスピードは、あくまでベタ凪もしくは微風での数字です。条件が悪くなれば、帰着困難のおそれすらあることを念頭においてください。スピードが出るカヤックに乗っていると、ついつい遠くへ行きがちです。
天候の急変
近年は、予測しにくいゲリラ豪雨のような天候の急変も増えています。天気や海況の予報をしっかりと把握するのはもちろんのこと、現場でも常に周囲の状況に気を配りましょう。
安全確保が最優先
5km/hで進むカヤックが、沖に5km出たら帰りは1時間かかります。向かい風で2.5 km/hしか出なくなると、帰りは2時間かかります。
そんなに長い時間漕ぎ続けられるか?さらに風が強くなったら?と自分に問いかけて、安全マージンを確保できる距離以上は沖に出ないことが重要ですね。
もし、海難事故になると、カヤックの出艇禁止や釣り場への立入禁止などにつながってしまいます。じゅうぶんに気をつけて楽しみましょう。
スピードの釣りへのメリット
足漕ぎカヤックがスピードが出て、長距離を移動するのに向いていることは理解できたかと思います。では、実際のカヤック釣行(フィッシング)ではどのようなメリットが得られるのでしょうか。

多くのポイントをまわれる
自由に自分の行きたいポイントへ行けることは、カヤックフィッシングの大きなメリット。スピードを生かしてたくさんのポイントを攻めれば、釣果アップの可能性が高まります。
移動時間が減る
移動している時間が減るということは、釣りに使える時間が増えるということ。手返しが良くなりますので、これも釣果アップに貢献します。
チャンスを逃さない
鳥山やナブラを追いかけてダッシュするときは、もっともスピードのありがたみを感じる場面です。カヤックは警戒心を与えづらく、鳥や魚が逃げにくいので、追いつきさえすれば大きなチャンス。ただし、猛ダッシュしても追いつけず、徒労に終わることが多いのも正直にお伝えしておきます。
荒天時の撤退が早い
荒天になった場合、迅速に撤退できることは安全確保につながります。予想外の天候変化はよくあること。スピードが出れば、そのぶん早く岸まで戻れます。
危険を回避しやすい
漁船や遊漁船、大型船が接近してきた場合など、少しでも危険を感じたらその場から離れましょう。大きな船からは、小さなカヤックはとても視認しづらいものなのです。危険回避するときも、当然スピードが出た方が有利です。

過信せず楽しもう
手漕ぎカヤックも足漕ぎカヤックも、船体の形状や、気象条件、各人の体力・技量などによってスピードが変化します。それも決して速いものではなく、人が歩くスピード+αくらいと認識してください。
釣り人である以上、釣果を求めて遠くに行きたくなる気持ちはわかります。しかし、自分の体力を過信せず、カヤックの特性をきちんと把握して、無理のない釣行を心がけましょう。
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<福永正博/TSURINEWSライター>
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