ルアーの歴史をさかのぼると二つの有名なルアーメーカーの話に突き当たると思います。それがラウリラパラの『ラパラ』とジェームスへドンの『へドン』です。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター・小塩勝海)
ジェームス・へドンとルアーの歴史
1902年にジェームスへドン氏が、現在のへドン社の大元となった「ジェームスへドン&サン」を立ち上げました。この以前から養蜂家や新聞社などを営んでいて、かなりやり手な人物だったことがうかがえます。
彼がルアーを作りはじめたのは、友人と湖畔で待ち合わせをしていた時に、暇つぶしで削っていた木片を湖に投げ込んだ際に木片に魚が食いついたのを見たことがきっかけでした。
きっと我々現代のアングラーが、始めてトッププラグで魚を釣ったときのような感覚だったのだろうと私は想像しています。
餌に似せたルアーは意味はない
木片で魚が釣れる可能性の片鱗をみたへドンさんは、まず最初にこの木片を魚がカエルと間違えたのだろうと考えて、カエル型の「フロック」というルアーを手がけました。
素材は家にあったほうきの柄だといいます。しかし思い通りに釣果が出なかったのか、量産はせずに終わったそうです。
スロープノーズ発売開始
そこから暫く時が経ち、へドン社から正式に発売になったのが、ドアジャックエキスパート。特徴的な鼻先のスロープからスロープノーズと呼ばれて親しまれました。
最初のカエルと似ても似つかない形状でリリースされたのには理由がありました。ジェームズへドンはカエルのような形状ではなく、生き物が全般的に発生させる水音にフォーカスしてルアーの設計を行いました。
カエルが水に飛び込む音や魚が水面で逃げ惑う音を再現して、魚の興味を引きつけた方がヒットすることに気が付いたのでしょう。
多くの魚は、側線から振動を感知して興味のある振動の方に視線を向ける性質があります。新しいルアーを作るときにまず音から再現しているへドンさんは、相当魚を研究したのでしょう。

ビルドインアクションとは
このスロープノーズは、ビルドインアクションという概念を最初に取り入れたルアーだと言えます。ビルドインアクションとは、ルアーの設計者が魚をルアーで騙すときに、どんな機能で騙せるかを考えてルアーのデザインに取り込むこと。
スロープノーズには、魚や生き物が発する振動や音を再現するために様々な工夫がなされています。最も特徴的なのは、シャンプーハットと呼ばれる首元の丸い円盤。このシャンプーハットは、水を受けて逃げ惑う魚のように蛇行させて、水面で生き物が跳ねるように水しぶきを飛ばす機能があります。
このように、魚を振り向かせたり、食わせたりするための要素を設計に組み込んで現代までルアーが進化してきました。
スロープノーズの特徴
ここからは、スロープノーズの特徴を解説します。
シャンプーハット
このシャンプーハットは、スロープノーズ最大の特徴で、生き物が発生させる振動や音を再現して魚にアピール。ルアーが前側に滑らないで、一か所で何度も動かして魚を誘うことが可能です。
現代のルアーのラインナップにも十分組み込める使い分けの幅があるものだと思います。
スロープした先端
スロープノーズの語源にもなったこの鼻先は、ルアーをアクションさせたときに鼻先が水の抵抗で持ち上がるのが特徴。
ボディーが水中に潜り込みにくくなり、ボディー全体で水を押し出して強い水の押込みを発生させられます。更に鼻先で水を叩くような動きになるので生き物的な複合的な水音を出せます。
トッププラグを始めとしたルアーの特徴が最も出るのは鼻先のデザインです。糸から入力されたアクションを一番先に受ける部分であり、受けた水の抵抗がルアーの全身の挙動に繋がることを考えると、鼻先のデザインに拘りをもって世に放出したへドンさんは、現代のアングラーも多くを学べる程にルアーに対する見識は深いのだと実感します。
ブルーヘッドの意味
現代のアングラーでも迷う要素のひとつがルアーのカラー選択。へドンさんはこの一つの選択肢を120年も前に私達アングラーに提示してくれています。
今はほとんど見ることがないブルーヘッドというカラーですが、これはレッドヘッドの色違いではありません。ブルーヘッドは、魚の視界上にルアーを置いたときに魚から見える背景色。つまり、空と水面の色を溶け込ませたカラーなのです。
このスロープノーズを空にかざしてみると、曇りのときは白い光にボディーのシルエットが溶けて見えます。

一方で、青空には頭のブルーが溶け込むようになっています。これが水中のような光の反射が不規則な世界に投げ込まれると、シルエットが溶けたり浮かび上がったりするのです。

スロープノーズはトッププラグなので、ブルーヘッドだけでも十分面白くて実践的。これをジャークベイトやクランクベイトと仮定してもこの色の選び方は使えます。水面以外でも同じ効果を期待できるでしょう。
例えば、水深2mの沈みものに魚が多く付いていて、ベイトフィッシュの層がその少し上の1mを泳いでいるとします。その場合、下から上にバスの視線があるので、下側から見えるお腹や側面を水の色や1m付近のカバーの色などに合わせたり逆に目立つような反対色にしたりすると魚への見せ方を変えられます。
アクション特性
ここからは、スロープノーズのアクションについて深掘りしていきます。
強く水を噛み込む
スロープノーズは、シャンプーハットのおかげで強く水を噛み込むようなアクションが特徴。ロッドワークをうまく使うとチャガー音のような低くて大きな音と泡を発生させたり、スプラッシュを大きく飛ばすことも可能です。
スライドアクションがあまり起こらない仕様なので、ペンシルベイトというよりもポッパーに近い感覚です。ポッパー程音を出す性能に特化していないため、ペンシルベイトとポッパーの中間的なアクションだと考えて使い分けるのもいいですね。
ペンシルではスライドしすぎてしまい、ポッパーでは水を押込み過ぎて食いが悪い場面などで活躍が期待できます。
歴史を知って明日の釣りを豊かに
ルアーには設計者が考えた魚の騙し方がルアーのデザインに多く反映されており、ルアーの誕生秘話や作られた理由を掘り下げると思わぬ魚へのアプローチ方法を見出すことが出来ます。設計者の意図を理解すると、隠された性能をひきだすことができるでしょう。
ルアーはバスを騙し切る道具である
今回の記事を書くにあたって、山中湖で一日スロープノーズを使って釣りをしてきました。夏の暑さと遠浅の山中湖は相性が悪く地面から照り返す熱を嫌ってシャローに魚が極端に少ないです。
このルアーの特徴は水をしっかり噛み込んでしっかりと水面でアクション出来ること。この日は水深3m付近のエリアからバイトを取れましたが、ライズした時に外れてしまいました。
残念な結果でしたがこのルアーの良さを実感出来て満足感はありました。

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<小塩勝海/TSURINEWSライター>