昨秋から好調を維持している熊野灘沿岸のアオリイカ。船からのティップランはもちろん、イカダからでも例年以上の釣況だ。
(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース中部版 編集部)
迫間浦アオリイカのシーズナルパターン
三重県志摩市から大紀町にかけてはリアス式海岸が続き、複雑な地形の海岸線が続く。その各所に外海の波やウネリの影響を受けない、穏やかな入り江が点在する。迫間浦もその1つ。台風でもこない限り、船酔いの心配もなくイカダ釣りが楽しめる。
例年のパターンだと、秋の数釣りシーズンは10月に開幕。9月でも釣れるが、まだイカが小さく狙う人は少ない。秋が深まるにつれ、数は減るがひと潮ごとにイカはグングン成長し、11月半ばにはキロに絡む良型も出るようになる。
春のシーズンは2月後半から3月初旬に開幕。そのまま7月初旬まで、春イカを狙える。親イカのシーズンだけあって、新子サイズはほとんど見ない。小さくても400~500gクラスで、キロサイズは当たり前のように上がる。
このように、本来であれば年が明ければ一服するはずの迫間浦のアオリイカだが、今季に限っていえば秋の終幕=春の開幕といった感じで、年明けからぽつぽつと良型の釣果が聞かれていた。
春の嵐の合間に釣行
今回釣行したのは3月28日。前週末から雨が続き、前々日は大雨。この日も午後3時ごろから春の嵐になる予報だ。
お世話になったのは、迫間浦で古くから渡船業を営んでいる日乃出屋。クロダイのカカリ釣りをしている人なら、一度は耳にしたことがあるほどの老舗船宿だ。クロダイのメッカのイメージが強いが、アオリイカの実績も抜群。2月後半からキロアップが釣れており、すでに2kg級も姿を見せている。
出船は午前6時。早速タックルを積み込み、船は桟橋を離れた。今回同行してくれたのは、がまかつフィールドテスターで本紙APCの渡邉敦さん、大阪市在住の大学生、筆本翔太君、そのお父さんの筆本邦之さんだ。

アオリイカの釣り方について
春秋問わず、大人気のエギングで狙う人が圧倒的に多い。だが春シーズンにかぎっていえば生きたアジを泳がせるヤエン釣法やアユのトモ釣りのようにアジに掛けバリを背負わせた泳がせ釣りに、大型がヒットする確率が高いように思う。
当初エギングオンリーで攻める予定だったが、事前に日乃出屋の大下よしか船長に聞くと、今年釣れた2kg級はアジの泳がせで上がったとのこと。
ヤエン釣り
ここでイカダから狙うアオリイカの釣法について説明しよう。近年はエギングが大人気だが、生きアジを使ったヤエン、泳がせ釣りも根強い人気がある。何より大型の確率が高いのが、ヤエンや泳がせだとも言われているのだ。
ヤエンはアジを自由に泳がせ、イカが乗ったらヤエンと言われる全遊動の掛けバリをミチイトにセットし、ジップラインのようにハリをイカの元に届ける。イカがアジに夢中になっている隙に、イカに掛けバリを掛けることができれば釣り人の勝ち。異変に気付いてアジを離してしまったらイカの勝ちだ。
ヤエンは極めてシンプルな釣り方だが、恐ろしく奥が深い。まずアタリが出た後、イカの反応を見ながらゆっくり寄せてくるわけだが、ハリに掛かっていないので強引に寄せると、すぐにアジを離してしまう。かといってゆっくりすぎると、イカがアジを食べ尽くして離れていってしまう。
何より難しいのはヤエンを入れるタイミング。ヤエンが円滑に滑っていくミチイトの角度で、ヤエンを入れなければならない。角度が急すぎると、ヤエンが勢いよく落ちすぎてイカに衝突してしまう。
角度が緩いと、いつまでたってもヤエンはイカの元に届かない。この駆け引きがたまらなく面白く、ヤエン釣りの魅力といえるだろう。

泳がせ釣り
泳がせ釣りは、アユのトモ釣りをイメージすると分かりやすい。アジに掛けバリをセットし、イカがアジをしっかり抱き込んだときに、同時に掛けバリも抱き込むという寸法。ただし、掛けバリのないアジを泳がせるヤエンに比べて、掛けバリが付いているアジを泳がせる泳がせ釣りは、イカに警戒されやすい。

エギング
エギングはTSURINEWS内でも何度か紹介したが、通常の陸っぱりエギングとほぼ同じ。陸っぱりより水深があるため、エギをウエートアップさせるイトオモリや軽めのマスクシンカーなども用意しておきたい。エギは3.5号をメインに、3号、4号を用意しておこう。

午前中は嵐の前の静けさ
イカダに渡ると、夕方からの嵐予報がウソのような全くの無風。曇天で海面にはさざ波ひとつない。これはエギングには絶好の条件だ。まずはアジをスカリに移し、翔太君、渡邉さんが並んで、陸に向けエギをフルキャスト。無風なので着底も分かりやすく、これならイカが触れただけのアタリも感知できそうだ。
エギングでは反応なし
だが天候は最高なのだが、肝心のイカの反応はない。開始2時間、全くアタリのない時間が続くが、春イカはこれが当たり前。
ここで渡邉さんが磯ザオを手に取る。泳がせ釣りに切り替えるようだ。元気いっぱいのアジを背掛けにし、フワッと振り込む。ウキ下は底から1m上だが、オモリは打たないのでアジは比較的自由に泳ぎ回れる。

だがちょっと目を離した隙にアジがイカダをつなぐロープをくぐってミチイトが絡んでしまい、あえなくロスト。ヤエンもそうだが、生きたアジはどこへ泳いでいくか分からない。常にラインの角度やウキの位置を見て、アジの位置を把握しておく必要があるのだ。次はもう少し遠投して、イカダから離れた位置で仕掛けを落ち着かせる。

泳がせで500gのアオリイカが登場
しばらく見ていると、自立ウキが元気なアジの動きを伝えてくれる。と、ウキがジワ~ッと沈み込んで、浮いてこなくなった。アジが沈めたのならすぐに浮いてくるが、一向に浮いてこない。
半信半疑の渡邉さんがスイープにアワセを入れると、グンッとサオが曲がり特有のジェット噴射が伝わってきた。「きたきたぁ~」と、慎重にリールを巻く渡邉さん。やがて浮いてきたのは、キロにほど遠いが立派なアオリイカ。推定500gといったところか。

ようやく1匹目が上がり、イカダ全体の活性も上がる。ここで渡邉さんはもう1本、ヤエン用のサオをセット。エギングの邪魔にならない位置から、アジをフルキャストする。渡邉さんはラインの向きと穂先の動きを見ながら、アジがロープ方向に行かないようこまめに操作する。

昼からプチ時合い?
だがアジにもエギにもイカの反応がないまま、昼を迎えてしまった。ここで腹ごしらえ。キャンプ用バーナーとやかんでお湯を沸かし、カップラーメンをすする。特別寒いわけではないが、イカダの上で食べるカップ麺は最高だ。
予報が悪くなるのは、午後3時ごろから。
イカダエギングのキモは、確実にボトムを取ること。イカダは足元でも10m近い水深がある所が多い。潮の流れがあると余計に着底が分かりにくい。そのため慣れないうちは、イトオモリやマスクシンカーでエギをウエートアップさせるのがお勧めだ。

この時点ではまだ無風だったため、2人ともエギはノーマルのまま。陸に向けてキャストし、岸からのブレイクをトレースするように、ボトム付近を丁寧に探っていく。イカダではエギが手前にくるほど水深が深くなるため、シャクった後はしっかりラインを出して着底を再確認することが必要だ。
そして沈黙を破ったのは翔太君。大きなアワセとともに、エギングロッドが大きく曲がる。取り込んだのは、1匹目と同じく500gクラスのメスのアオリイカだ。

さらに予備のロッドでエギを投げていたお父さんに、まさかまさかのヒット。普段は釣りよりゴルフ、もちろんエギングは初めてのお父さん、どうしていいか分からず渡邉さんのアドバイスでゆっくりリールを巻く。
浮いてきたのは、先の2匹よりひと目でサイズアップと分かるアオリイカ。慎重にネットですくったのは、キロには届かないが800gクラスのメスだった。

後半はやはり嵐に
このアオリイカをスカリに入れた途端、予報より早く雨が落ちてきた。最初は降ったりやんだりだったが、そのうち風を伴って嵐の様相に。吹きつける風にラインは巻き上がり、前半の完全無風がウソのようだ。
たまらず午後3時にギブアップ。目標のキロ超えキャッチとはいかなかったが、確実に迫間浦に春の大型アオリイカが入っていることは実感できた。
なお当日キャッチしたアオリイカは全てメス。1匹に交接痕が確認できたため、その個体はリリースした。皆さんも交接痕や抱卵が確認できたら積極的なリリースをお願いしたい。
このエリアの春イカシーズンはまだまだ続く。過去に3kgというモンスターが上がったのは6月。特に4~6月は驚くほどの大型が上がっている。迫間浦のイカダから狙う春の大型アオリイカ、ヤエン、泳がせ、エギングと好みの釣法で狙ってみてほしい。
迫間浦のお勧めイカダ渡船店
カカリ釣り、釣り堀で有名な迫間浦。今回は日乃出屋にお世話になったが、他にもお勧めのイカダ渡船店を紹介しよう。
宝成渡船は日乃出屋と同じく、迫間浦の老舗渡船店。やはりクロダイのカカリ釣りでは超のつく有名船宿だが、アオリイカの釣果もコンスタントに上がっており、エギング、ヤエン、泳がせ釣りで良型が釣れている。

澤村渡船は養殖イケスに隣接したイカダで、青物やヒラメなどの大物釣りに挑戦できる。今シーズンはまだ目立った大物は上がっていないが、五目イカダではアジが上がっており、アオリイカを狙うならヤエンか泳がせ釣りが面白そうだ。

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<週刊つりニュース中部版 編集部/TSURINEWS編>
▼このイカダについて日乃出屋
この記事は『週刊つりニュース中部版』2024年4月12日号に掲載された記事を再編集したものになります。