ダツ科の魚は体が細長く、長く伸びた上顎・下顎にはびっしりと鋭い歯が生えています。そのため網にかかったり、ルアー釣りなどで釣れた時にかまれたりすることがあります。
(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)
ダツとは
今回、ご紹介する魚はダツ目・ダツ科の魚たちです。
ただ「ダツ」といってしまうと、ダツ目・ダツ科・ダツ属の種標準和名「ダツ」なのか、それともダツ科の総称なのかわかりにくいので、ここではダツ属の一種で、種標準和名で「ダツ」と呼ばれているものを「ダツ」、それ以外のダツ科の総称を「ダツ科の魚」と使い分けます。
ダツ科の魚は体が細長く、吻部がよくとがり鋭い歯がびっしりとはえているのが特徴です。同じダツ目魚類であるサヨリ科の魚はダツ科の魚によく似ていますが、ダツは上顎と下顎が長く伸びるのに対し、サヨリ科の魚は下顎のみが長く伸びるので見分けることができます。

ダツ科に限らず、トビウオ科やサヨリ科などダツ目の魚の腹鰭の位置は腹位にありますが、胸鰭の位置はニシン類よりもボラなどを思わせる、かなり高い位置にあります。
よく「ニシンやサケなど古い形質を有した魚は腹鰭が腹位にあり、棘鰭上目では腹鰭が胸位にある」ともされますが、このダツはスズキ目やフグ目などの含まれる「棘鰭上目」にあるとされています。腹鰭の位置は形質とはあまり関係がないといえるかもしれません。
ダツという名前の語源については、口が大きく開いた、米藁でできた大きな袋のことを地方によって「駄簀」(だす)と呼んだことに由来するといいます。ほかに「叺」(かます)ということもあり、これはそのままカマスの語源になっているといいます。沖縄ではダツの仲間は「しじゃー」などと呼ばれています。
ダツ科の魚は似た種が多い
ダツ科の魚は世界の暖かい海域に分布し、12属およそ50種・亜種が知られています。
日本においてはサンマ、ハマダツ、ダツ、リュウキュウダツ、ヒメダツ、オキザヨリ、テンジクダツの7種のほか、稚魚のみが日本から採集されているものが数種知られています。
サンマを除くダツ科の魚は、尾柄部側面に隆起線があるものと、ないものの大きく二つに分けられます。

前者にはオキザヨリ、テンジクダツ、ヒメダツが含まれ、後者にはダツ、リュウキュウダツ、ハマダツが含まれています。
ハマダツの特徴として体側に横帯があるため、よく体側に横帯があるダツ科の魚をハマダツと同定してしまうケースも多いのですが、オキザヨリなどハマダツ以外の種も体側に横帯があることが多く、誤同定しないよう注意が必要です。

なお、ダツというのは先述のようにダツ目・ダツ科・ダツ属のいち魚種の標準和名。「ダツが釣れた!」などと磯釣りの釣果報告をウェブログに載せる人も多いのですが、それはダツではなく、オキザヨリであることも多いです。
ダツはピーター大帝湾から九州南岸まで日本近海のほぼ各地に見られますが、オキザヨリも津軽海峡以南~琉球列島に広く分布しています。ただ最近はダツの釣果が少なく、オキザヨリが多いように感じます。
メダカもダツの仲間?
ダツ目はメダカなどを含むメダカ亜目と、ダツ科などを含むトビウオ亜目に分けられています。

トビウオ亜目にはダツ科・トビウオ科・サヨリ科・コモチサヨリ科が含まれ、多くの種が海の表層を遊泳しています。食用魚としてはサンマやサヨリ、ハマトビウオなどが産業上重要なものです。
また、観賞魚として知られるものもいます。コモチサヨリ科の魚は食用になることはほとんどないものの、アクアリウムフィッシュとして知られ、デルモゲニーなどはグッピーなどと同様に仔を産みます。
メダカ科の魚は観賞魚として親しまれ、とくに日本産のミナミメダカにおいては多くの改良品種も生み出されています。しかしながらアクアリウムの書籍などにおいて、「メダカの仲間」とされることが多いグッピーやプラティ、アフィオセミオンなどに代表される「卵目」(卵生メダカ)などはカダヤシ目の魚であるため注意が必要です。
尖った顎と鋭い歯に注意
ダツ科の魚は鋭い歯をもっていることからもわかるように、肉食性が強く、小魚を活発に追いかける獰猛なハンターです。
そしてこの鋭い歯のおかげで、刺し網などにかかったダツ科の魚を網から外すとき、またルアー釣りでダツ科の魚が釣れた際、魚体からルアーを外そうとした際に咬まれてけがをすることがあります。

光に突進する習性
さらに危険なことに、ダツ科の魚は夜間、電灯の光に突進することがあり、それにより怪我をしたり、当たり所が悪ければ命を落とすこともあります。これはダツが水面で光るものを餌の小魚だと勘違いし突進するからとされています。
沖縄県においては電灯潜り漁が盛んに行われており、海面や水中を照らしたことにより事故が発生することが多いとされています。そのため、盛んに注意喚起が行われています。
対策としては夜間に、むやみやたらに懐中電灯などで海面を照らさないことです。
ダツ科の魚を食す
ダツ科の魚の中でも重要な食用魚といえばサンマ!
しかしながらサンマは近年ダツ科の中に内包されていることが多いものの、異端な種であることから、ここではサンマをのぞくダツについてご紹介します。
ダツ科の魚は骨が青みを帯びた色彩になっていることや、細長い体つきで食用にされることは多くはないのですが、実際には美味しい魚です。残念ながら本州~九州の鮮魚店では販売されていることが少ないのですが、静岡県の鮮魚店では、ダツをまるごと1尾購入できました。

とくに美味しかったのは塩焼きで、やはりサンマと似た仲間なんだなあ、と思わせます。また煮物にして食べても美味でした。
沖縄においてもダツ科の魚は、追い込み網などで漁獲されて食用になり、冬季の11~1月にかけて盛漁期とのことで、この時期に煮つけにして食べると美味とされます。ただし夏季に水揚げされた痩せているものには腹部に白くて細長い寄生虫が潜んでいることがあるといいます。
食用以外の利用法として、釣りの餌に使われることがあります。ダツ科の魚は細長い体をしており、大物が食いつきやすいのでしょう。銀色の体をしていて、かつよく泳ぐため、大型魚へのアピールにもなるのかもしれません。
ダツ科の魚は危険というイメージが強いのですが、実際には不用意な行為が事故の原因となっているのです。青い骨を見ると食欲もわかないかもしれませんが、塩焼きなどは意外と美味で、釣れたら食べてみてもよいでしょう。
参考文献
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<椎名まさと/サカナトライター>