海釣りで釣れた小さな魚の中には、毒を持つ種類もいるため注意が必要です。特にハオコゼは防波堤でよく釣れ、背鰭の棘に強い毒を持ち、刺されると激しく痛みます。

カサゴ類と混同されることもあるため、見分け方を知っておくことが大切です。この記事では、ハオコゼとカサゴ類の見分け方や釣れた際の扱い方、筆者が刺された体験談をご紹介します。

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(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)

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背鰭の棘条が長いのが特徴的な<ハオコゼ>

ハオコゼ Paracentropogon rubripinnis (Temminck and Schlegel,1843)はスズキ目・カサゴ亜目・ハオコゼ科の魚で、一見、小型のカサゴのような雰囲気をしています。

しかしながら、背鰭の棘条が妙に長いのが特徴的でわかりやすいといえます。

毒を持つ『ハオコゼ』に足を刺された話 磯遊びや堤防釣りで見つけた際は注意しよう
毒を持つ『ハオコゼ』に足を刺された話 磯遊びや堤防釣りで見つけた際は注意しよう
ハオコゼは背鰭棘条起部が眼の後縁よりも前(撮影:椎名まさと)

また、その背鰭棘条の起部も眼の後縁より前か眼後縁上にあります。

これはカサゴが属するメバル科や、フサカサゴ科の魚よりもだいぶ前のほうにあることになります。ただし、カサゴやフサカサゴなどは眼の上に小さな棘が多数あり、触るときには注意が必要です。

毒を持つ『ハオコゼ』に足を刺された話 磯遊びや堤防釣りで見つけた際は注意しよう
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カサゴは背鰭棘条起部が眼後縁より後方(撮影:椎名まさと)

なお、ハオコゼ科の一部の種には背鰭棘条の起部が眼後縁よりも後方にあるものもおり、かならずしも背鰭と眼の位置関係は科の特徴を指しているというわけではありません。

ハオコゼとカサゴの鱗の違い

鱗についても、ハオコゼとカサゴでは異なるところがあります。

ハオコゼでは体の前部に鱗がなく、体側後方の鱗も皮下に埋没しているという特徴があります。

一方、カサゴは鱗がしっかりと体側のほとんど全域にあります。

ハオコゼ科の魚

ハオコゼ科の魚は世界で44種、日本においては12種ほどが知られています。

主に浅い海に見られますが、それだけでなく、オーストラリア産のブルラウトのように河川の汽水域から淡水域に見られる種もいます。

逆に、水深100mを超えるような深い海から採集されるようなものもいます。

また浅い海にすむ一部の種は、ツマジロオコゼなどのように枯れ葉に擬態するものも含まれます。

ハオコゼ科魚類の分布は南アフリカの東岸から西太平洋にかけてであり、大西洋にはいません。

毒を持つ『ハオコゼ』に足を刺された話 磯遊びや堤防釣りで見つけた際は注意しよう
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ツマジロオコゼ(撮影:椎名まさと)

従来、ハオコゼ科はこの海域のほか、南アフリカ周辺の東大西洋、チリおよびアルゼンチンのパタゴニア海域、インド洋の高緯度海域にも生息するものとされました。

それらの魚はCongiopodus属(6種)や、ホソクチオコゼ属(1種)、あるいはZanclorhynchus属(2種)の魚です。かつてこれらが含まれるCongiopodidaeに、現在ハオコゼ科とされる魚の多くの種が含まれていました(そのためCongipodidaeの和名もハオコゼ科とされた)。

しかし現在、ハオコゼ科とされているものはやがてCongiopodidaeから分離されています。

Congiopodidaeの魚は日本には産しないものの、1990年に「フエフキオコゼ科」という科和名がつけられました。

この科にはCongiopodus属のほか、ホソクチオコゼ属やZanclorhynchus属といった属の魚も含まれていますが、現在はこの後2者はZanclorhynchidaeという別科とされることもあります。

磯採集とハオコゼ

ハオコゼは温帯性の魚で、北海道南部から九州南岸までの日本海岸、太平洋岸、東シナ海岸、津軽海峡、瀬戸内海に分布しています。

ですから、日本のほとんどの沿岸でハオコゼに遭遇することがあります。ぜひ扱い方を覚えておきましょう。

なお、琉球列島では見られず、グアムカサゴやネッタイフサカサゴなど小型のフサカサゴ科魚類がその生態的地位にいるようです。

磯でハオコゼとの出会い

ハオコゼは岩礁域の海岸、タイドプールでごく普通に出会うことができます。

主に岩の隙間であるとか、岩に生えている海藻ごと網で掬うと入っていることが多いです。そして網で掬ったハオコゼをバケツなどに移そうとするときに、悲劇が起こりやすいのです。

毒を持つ『ハオコゼ』に足を刺された話 磯遊びや堤防釣りで見つけた際は注意しよう
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千葉県館山のハオコゼ(撮影:椎名まさと)

上記写真の個体は千葉県南部・館山の泥っぽいタイドプールで発見したもので、普通のハオコゼよりも茶色が強いように見えました。

ハオコゼは採集した場所により、色彩には若干の個体差があります。そしてその色彩は捕食者や餌を欺くのに役に立つのですが、厄介なことに私たちヒトの眼も欺いてしまうのです。

網で掬ってハオコゼが入っていた場合は、網の袋の部分を海に戻し、片手にプラケースなどの容器をもって、水ごと掬ってあげると刺されずにバケツに移すことができます。

観察をし終わって逃がすときも、同じように水ごとプラケースで掬えば刺される心配もほとんどありません。

ハオコゼは飼育できる?

ハオコゼはカサゴなどを小さくした感じで、飼育してみたくなりますが、飼育はやや難しいところがあります。

慣れれば配合飼料も食うようになる個体もいるようですが、最初のうちは生きたエビやヨコエビなどを与える必要があります。ベテランのアクアリストならばうまく調達もできますが、初心者には難しいでしょう。

また、温帯性である本種は、陸上では我が国の暑い夏を乗り越えるのも難しく、高価な水槽用のクーラーも必要になってしまいます。

そのようなこともあり、初心者向けの海水魚であるとはいえないところがあります。もちろん「飼いきれなくなった」「子どもが釣って来たので飼育したが、飽きてしまった」といって海へ放すのは厳禁です。

採集して飼うために、家にもち帰るまえに、飼育しようとしている魚はどのような魚なのか、その魚のことをスマートフォンなどで調べるようにしたいものです。

毒を持つ『ハオコゼ』に足を刺された話 磯遊びや堤防釣りで見つけた際は注意しよう
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福岡県津屋崎のハオコゼ(撮影:椎名まさと)

魚釣りとハオコゼ

ハオコゼは磯採集のほか、防波堤釣りでもお馴染みのゲストです。

オキアミを餌に防波堤のヘチを探っていると、釣れることがよくあります。

底が岩礁であったり、海藻が茂っていたり、漁礁やタイヤ、カゴなどの廃棄物があるような場所ではハオコゼも多く居ついています。

また浅いところの魚というイメージが強いハオコゼですが、水深30メートルほどの深さを曳く小型底曳網漁業でも漁獲されることもあります。

釣れたハオコゼはハリ外しなどをうまく使って逃がしてあげましょう。針をのみ込んでしまった個体はハリスを切って持ち帰るようにします。

実はハオコゼは揚げ物などにすると美味しい魚なのです。

もちろん、防波堤に放置するのは絶対にやめましょう。ハオコゼだってかわいそうですし、子どもやイヌなどが踏んで怪我をするおそれもあります。

そして魚の死骸で防波堤や漁港が汚れてしまえば、その場所が釣り禁止(そもそも基本的に漁港は釣り禁止)になるおそれがあります。ですからハオコゼに限らず、持ち帰らない魚はかならずリリースしましょう。

アクシデント発生!筆者の体験談

さて、筆者がハオコゼを初めて釣ったのは2002年、熊本県天草の漁港でした。

その後2011年には三重県尾鷲でもハオコゼを釣っています。その際に針をはずすときは慎重に、海水で濡らしたタオルの上に寝かせて針をはずしていました。

しかしながら2013年に静岡県御前崎で釣りをしていたところ、ハオコゼに足を刺されてしまい、痛い思いをしました。

そのときはタオルの用意がなく、釣れたハオコゼの針を外していたところ、ハオコゼが落っこちてしまい、なんと足に刺さったのです。

毒を持つ『ハオコゼ』に足を刺された話 磯遊びや堤防釣りで見つけた際は注意しよう
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ハオコゼの大きな涙骨後方棘(提供:椎名まさと)

当然ながら足に激痛が走りました。私はハオコゼの背鰭か、あるいはほかの鰭に刺されたのかと思ったのですが、よく見てみるとハオコゼの涙骨後方棘が刺さっていたのでした。

フサカサゴ科やハオコゼ科は頭部の棘が大きく目立ちますが、まさかこれほど痛いとは思ってもいませんでした。しばらくずきずきと痛み、歩くことができませんでしたが、夕方までには痛みもひきました。

しかしさまざまな資料を見ても、鰭の毒については触れられていますが、涙骨後方棘の毒性については全く触れられておらず、あの痛さの正体はいまだに私の中では謎につつまれています。

なお、フサカサゴの仲間の場合、刺された際は患部をやけどしない程度の熱いお湯につけておくと、痛みがやわらぐという報告があります。

正しく扱ってハオコゼを観察しよう!

かわいい小型のカサゴのように見えるハオコゼですが、その背鰭棘には毒があり、刺されると激しく傷みます。

しかし扱い方さえ覚えてしまえば、そんなに恐ろしい魚でもありません。

ぜひバケツやプラケースに入れ、鰭を広げる姿や泳ぎ方などを観察してみてほしいと思います。

毒を持つ『ハオコゼ』に足を刺された話 磯遊びや堤防釣りで見つけた際は注意しよう
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自家製のアクリルケースでハオコゼを観察(撮影:椎名まさと)

文献(書籍及びジャーナル)

・尼岡邦夫・松浦啓一・稲田伊史・武田正倫・畑中 寛・岡田啓介編.1990.ニュージーランド海域の水族.深海丸により採集された魚類・頭足類・甲殻類.海洋水産資源開発センター,東京.
・荒俣 宏.2007. アラマタ版 磯魚ワンダー図鑑.新書館,東京.
・橋本芳郎.1977.魚介類の毒.学会出版センター,東京.
・小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之編.2020.大隅市場魚類図鑑.鹿児島大学総合研究博物館.鹿児島市.634pp.
・中坊徹次編. 2013.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会.秦野.
・中村 泉 編.1986.パタゴニア海域の重要水族.海洋水産資源開発センター,東京.
・Web文献 Search Fishbase (US Mirror) https://www.fishbase.us/

<椎名まさと/サカナトライター>

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