標準和名は基本的にマジメでおカタいものですが、ときに脱力してしまうようなものもあります。
(アイキャッチ画像提供:茸本朗)
「ウッカリ間違い」の魚
いかついトゲトゲした風貌からは想像できない、上品な美味しさが特徴の高級魚カサゴ。外洋に面した水深100m前後の場所で釣りをしていると、しばしばこのカサゴによく似た、しかし遥かに大きい魚に出会います。

千葉ではカンコ、九州ではホゴなどと呼ばれるこの魚、標準和名は「ウッカリカサゴ」といいます。とても変わった名前ですが、もちろん由来があります。
もともと、カサゴとウッカリカサゴは学術的には同一種だと考えられていました。しかし漁師や市場関係者などはこのふたつを別の魚だと考えていました。
そしてついに海外の学者によってこれらが別種であることが判明し、学名が付けられました。これに和名をつけるに当たり、日本の学者が「我々がうっかりしていました」という意味を込めてこの名前をつけたのではないか、と言われています。
漁師には嫌われる?
しかしこのウッカリカサゴとカサゴ、勘違いするのも仕方がないくらいよく似ています。
判別点としては、前者は最大で60cmほどになるのに対し後者は30cm程度であること、側線より背びれ寄りにある白斑が黒く縁取られているのに対し、カサゴはそうではないこと、というのがありますが、小型のウッカリカサゴだとこのあたりも明瞭な差ではありません。

そのため魚に詳しくないと混同してしまうのですが、漁師や仲買人は決して混同しないようしっかりと見ると言います。というのも、カサゴと比べるとウッカリカサゴは市場価値が低く、一緒にして売ることが許されないのだそうです。
カサゴの中に一尾でもウッカリカサゴが混ざってしまうと、その箱は「入合(複数魚種が混ざった箱)」となり「カサゴ」としては売れなくなるため、価格が大きく変わってしまうといいます。
本当に美味しくないの?
しかし実際、ウッカリカサゴとカサゴはしっかり区別しないといけないほど味が異なるのでしょうか? 先日ウッカリカサゴを釣り上げることができたので、確認してみました。
今回ゲットしたのは40cmほどの中型のウッカリカサゴですが、腹を出すと内臓脂肪がぴっちり。

三枚におろしてみると、身質はかなり硬く、普通の刺身にすると噛み切るのに苦労しそうなほど。そのため薄造りにして、フグのようにポン酢ともみじおろしで食べてみたところ非常に美味でした。カサゴとの大きさ、肉質の違いを理解して適切な調理を施せば大変美味しい魚であるといえそうです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>