タイ科クロダイ属に属する「キビレチヌ」、通称キビレは、河口を中心とする汽水域や内湾域に多く生息し、その名の通り黄色いヒレが特徴的である。北海道南部から九州・沖縄まで広く分布し、西~南日本を中心に見られる魚種だ。
(アイキャッチ画像提供:TSURINEWSライター・井上海生)
チヌとの違い
キビレとクロダイ(チヌ)は同一属の近縁種だが、生態・行動にはいくつか明確な違いがある。まず見た目では、キビレは銀白色の体色で腹ビレ・尻ビレ・尾ビレに黄色味が見られる。一方、チヌは全体に暗色で、ヒレも黒っぽく黄色味がない
生息域の違いもある。キビレはチヌより塩分濃度の低い汽水域や河川側を好む傾向が強く、とくに流れの強い地点で見られることが多い。これに対しチヌは汽水域でも濃い塩分を好み、より内湾や外海寄りに分布する傾向が見られる。
釣りの際の食い付きにも差があり、キビレは活性が高くアタリも大きいため初心者でもかかりやすく、一方でチヌは警戒心が強く繊細なアプローチが必要とされるケースも多い。

シーズンごとの動き
キビレの年間の行動パターンを季節ごとに整理すると、以下のようとなる。
春~夏(初夏から本格シーズン)
水温が15℃~28℃の範囲になる頃から急激に活性が上がり、これに伴ってルアー(チニング)にも強く反応するようになる。
とくに梅雨から夏にかけては夕マヅメ・朝マヅメ時のフローティングやトップウォーター系ルアーに好反応を示し、甚だしきはポッパーにバイトするシーンも頻繁に見られる。水しぶきを上げて食いついてくる姿は爽快だ。

秋(産卵期)
キビレは9月から11月頃に産卵期を迎え、繁殖活動のために一時的に深場へ移動する傾向がある。ここがチヌとの大きな違いで、チヌは春に産卵期を迎える。そのため、春はチヌの方がよく釣れるのだ。
秋の時期に関しては一時的に河川内に魚影は薄くなるが、産卵後には再び河口へ戻る「戻りチビレ」が見られる。
冬(低活性化)
真冬は水温が下がるため活性は低くなるが、まあ水温が8℃以下にならない限り、日照や南風、気圧の安定など、気象条件が味方してくれれば釣れるケースもある。
特に魚影の濃い大阪湾などでは冬季でもキビレを絡めたチニングが楽しめる。本チヌの反応も、多くを望まなければそこまで悪くはない。
習性と移動パターン
キビレは群れで行動し、ある程度流れの強い場所を好む。群れで汽水域内部を行き来し、毎年同じ時期に同じポイントへ現れる習性がある。ただし急に消えることもあり、その場合は水温や塩分濃度の変化によって群れが移動した可能性が考えられるため、釣り人もポイントの変更を考えなければならない。
食性はチヌ同様貪婪であり、雑食性でありながら甲殻類・貝類・ゴカイなど底生生物を好み、強靭な歯でそれらを砕いて食べる習性がある。シラサエビやカニ、ワーム、トップ・ハード系ルアーなど、多彩な餌やルアーに反応してくる「がっつき具合」も魅力だ。アジングのワームでも、20g程度のメタルジグでも釣れる。
ナイスなチニングのゲスト
チニングにおいて、キビレはまさにナイスなゲストである。活性が高く、初心者でもアタリを感じやすいうえ、サイズも30~40cmの平均種で楽しめる。
稀に45cmを超える大型も混じり、引き味もしっかりと堪能できる。チヌが反応してくれないときには、まあゲストであるコイツも狙いに入ってくる。

夏前から秋にかけては本格的に釣りやすくなる時期となる。チニングを楽しむ際は、ぜひキビレもかわいがってあげよう。チヌよりもパターンにハメやすい単純さ、そして引き味を堪能してほしい。年中狙えるその懐の深さは、「汽水域の隣人」としてチニングの魅力を一段と高めてくれる存在とも言えよう。
<井上海生/TSURINEWSライター>
