生態系に大きな影響を及ぼす「特定外来生物」。その中でも、近年注目されているのが「ミステリークレイフィッシュ」です。
(アイキャッチ画像提供:秋津)
特定外来生物と環境への影響
特定外来生物とは海外から来た種類で、生態系や人命、農林水産業に影響を及ぼすおそれがある生物が指定されます。
国から指定された生物は、輸入や放出、飼育などに厳しい制限がかけられます。代表的なものは、ブルーギルやカミツキガメ、キョン、アライグマなどです。

特定外来生物によって引き起こされる問題として、在来生物が捕食されて個体数が減少することや、交雑によって雑種が生まれ、本来の種が失われることがあります。
いちど環境に定着してしまうと、その場所の生態系が大きく崩れてしまい、被害の修復に長い時間と費用がかかるのです。
1匹でも増える繁殖力
ミステリークレイフィッシュは水辺に生息するザリガニの一種です。もとはアメリカのフロリダ半島に生息する、スロウザリガニから派生した種とされています。
ミステリークレイフィッシュが最初に取引されたのは1995年のドイツ。1匹でも増える不思議な生態が話題となり、ペット業界でも多く流通していきました。
しかし、増えすぎて飼いきれなくなった人々がペットショップなどに持ち込んだり、自然に放ったりして、ミステリークレイフィッシュはさらに世界中へ広がっていきました。

ミステリークレイフィッシュは、1匹だけで増え続けることができるという繁殖能力を持っています。では、どのようにクローンを作って増えているのでしょうか。その秘密は、「単為生殖」と呼ばれる繁殖方法にあります。
単為生殖はメスがオスの精子を必要とせず、メス1匹のみで卵を産み、自身の遺伝子を持った子どもを作れる生殖方法です。
さらにミステリークレイフィッシュは多様な環境に適応できる遺伝子をもっており、様々な環境で生き残ることができるため、次々と数を増やしていったのでしょう。
日本でも目撃情報が増加中
ミステリークレイフィッシュは、かつて日本でもペットとして流通した時代がありました。そのためか、国内の一部地域ではすでに生息数を増やしている可能性があります。
野生の個体として2006年ごろから発見報告があり、2024年には沖縄県那覇市の公園で発見されたほか、2025年6月には愛媛県松山市内でもメスが3匹発見されました。
もし見つけてしまったら?
ミステリークレイフィッシュと容姿がよく似ているのが、条件付特定外来生物であるアメリカザリガニです。どちらも水辺に棲むザリガニの一種ですが、見つけた場合はどのように見分ければ良いのでしょうか。
ミステリークレイフィッシュは最大10cmほどで、青や緑灰色の体に黒いマーブル模様。頭胸甲背面の左右の線が離れており、ハサミが小さく突起がないことが特徴です。
一方のアメリカザリガニは最大12cmほどとやや大きく、赤い体色に内側にトゲがついた大きなハサミ、頭胸甲背面の左右の線が閉じています。

特定外来生物であるクレイフィッシュは、飼育、販売、運搬、譲渡が禁止されています。特に、見つけた個体を別の場所に放すと、生息域の拡大につながるので絶対にしてはいけません。もしもミステリークレイフィッシュを見つけたら、環境省や地域の環境課に情報提供を行いましょう。
飼育や放流のルール
条件付特定外来生物であるアメリカザリガニは、野外で捕まえたものを飼育することは可能ですが、ペット用個体の販売や購入は禁止されています。
私たちがまず気をつけなければならないのは、他の場所から連れてきた生き物を自然に放ったり、無責任な飼育をしないことです。生き物が環境にどのような影響を及ぼすか考えながら、生き物の飼育や観察などを楽しみましょう。
<秋津/サカナトライター>