世界で活躍するパフォーマー・サカクラカツミが主演を務めた舞台『The Life of HOKUSAI』。新型コロナウイルスの影響で無観客となる舞台公演が行われた本作が、映像作品として全世界に発信されることが決定。
―今回サカクラさんが主演を務めた『The Life of HOKUSAI』はどんな作品になっていますか?
今回の舞台は、葛飾北斎の半生を描くというのが根底にあります。北斎は90歳で亡くなったのですが、亡くなる直前までものすごく精力的に素晴らしい絵を描いていて、年を増すごとに素晴らしいものになっていくんです。北斎の実力が世間から認められるのも50歳を過ぎてからなので、実は遅咲きの画家で。そして、私も今57歳なので、ちょうど北斎が絵師として活躍している時と同じような年齢だなと思い、私が北斎の半生を描くということでスタートしました。もちろん私も、葛飾北斎が描く絵は知っていたのですが、調べれば調べるほど、考え方や日常生活でやってしまうことなど、北斎と私の共通点が多くて。そこからどんどん葛飾北斎という人物に引き込まれていきました。北斎って絵の中にいろいろな謎を残しているんです。自分が大好きなものを隠して絵の中に入れたりしているんですね。例えば北斎は、自然宗教のような形で北斗七星と富士山を信仰の対象にしていて、その二つが絵の中に隠して入れてあったりとか、風景画でもポツンと描かれている数人の人を結ぶと北斗七星の形になったりするんですよ。そういうのを見ていて面白いなと思うと同時に、いろいろな資料を見ていくうちにある一つの謎が出てきたんです。

―そんな中でもサカクラさんが葛飾北斎に興味を持たれた一番のキッカケは何だったのですか?
北斎には奥さんがいたんですけど、29年連れ添った時に急に亡くしていて、実は私も今結婚して29年が経つんです。私は片付けができなかったり、電車もちゃんと乗り継げないような、北斎と同じ社会性が少し欠けている人間で。それを私の奥さんはずっと支えてくれていて、私がダンスパフォーマンスが上手くいっていなかった時は彼女がすごく働いてくれたし、北斎も絵が上手くいかない時は奥さんがちゃんとお金を工面してくれていたり、そういった共通点をすごく感じました。私は奥さんのことを大事にはしていると思うんですけど、「いつもありがとう」だったり、「愛してる」などそういった言葉ってなかなか言いづらいし、直接伝えてこなかったんです。だけど、もし今彼女が急に亡くなったらどうするんだろうと、北斎の生き様を見て考えたんです。
―舞台の中でも葛飾北斎の奥さんのことは描かれているのですか?
もうそれがメインというくらい描いています。実はこの葛飾北斎を題材にした舞台をやろうとなった時、私自身すごく軽く考えていたんですよ。北斎にはあれだけ有名なかっこいい絵があるから、それを使うことによってエンターテインメントは成立するだろうと思っていたんですけど、調べていくうちにもっと伝えないといけない大切なメッセージがあると思ったんです。それを伝えるためには、ただ単に私が今までやっていたようなダンスを見せるだけではだめだとわかったんですよね。ただ、そうなってからがめちゃくちゃ大変で。なぜというと、それまで私は演技の勉強をしたことがなかったんですよ。大切な人が亡くなった時にどんな気持ちなのか、その気持ちをどう表現すればいいのかってすっごく悩んだんです。そんな中、今回一緒に舞台に出てくださる共演者の方に助けられて。

―もともと、サカクラさんは葛飾北斎にどんな印象をお持ちでしたか?
葛飾北斎って“天才絵師”とよく表現されていて、私もそのイメージしかなかったんです。とにかく絵が上手くて天才的な人、世界中に“ジャポニズム”というものを残した人というイメージしかなかったんですけど、調べてみると本当に“狂人”で、発想が狂ってしまっているんですよ。それを家族が支えて、なんとか社会性を保って仕事にさせたというのが見えてきて。
―サカクラさんが思う『The Life of HOKUSAI』の一番の魅力を教えてください。
題材が葛飾北斎だからこそ、絵やパフォーマンスを観てもらって綺麗だと感じてもらえると思うんですけど、一人の人物として北斎を見た時に、彼の生き様や人物像から“大切な人に想いを伝える”ということを感じていただければ、この作品を創った意味があると思っています。舞台や映画もそうだと思うんですけど、ハリウッド映画のように“かっこいい、スカッとした”というものもあれば、フランス映画のようにオチがないままで終わるものもあって。でもそのフランス映画って、一週間後でも同じ映画を見た人と、自分が感じたことについて話すことができるじゃないですか。もしかしたらこの『The Life of HOKUSAI』を観終わった後、“よくわからない”って思う人がいるかもしれない。でもそんな人たちが10年後に結婚して愛する人ができたりした時に、“あの時の作品がもう一回見たい”と思ってもらえるような、何十年にも渡って、観た人の人生に影響を与えられるような作品になってほしいなと思っています。

【プロフィール】
サカクラカツミ
1963 年生まれ。名古屋市出身。日本の伝統文化が持つ特異な「動き、リズム、精神性」を総合芸術として表現するアーティスト。世界で初めて映像とパフォーマンスをシンクロさせた「プロジェクションライブ」を発案し、オリジネーターとして海外でも高い評価を得ている。現在世界41ヵ国から招聘されパフォーマンスを行い21ヵ国のTV 番組に出演。ラグビーW 杯2019日本大会の開会式やクアラルンプールにて行われたIOC 国際オリンピック委員会総会の開会式など世界規模のイベントにてパフォーマンスを務める。また「What is real Japanese COOL?」と題し講演会を国内外(東京大学、モスクワ大学、ロンドンSOAS 大学、青山学院大学、名古屋学院大学、他)にて行い、TEDxTokyoにも登壇、日本の素晴らしさを世界に伝える活動を行っている。
【INFORMATION】
4月に完成予定の映画作品に先駆け、2月10日(水)に本舞台作品のダイジェスト映像を公式ホームページにて公開!
『The Life of HOKUSAI』公式ホームページ
https://hokusai.world