「ソルプレーザ(Sorpresa)」とはイタリア語でサプライズの意味である。吉田麻也のサンプドリア移籍を報じる現地の新聞やニュースの見出しには、ほとんどこの言葉が使われていた。

それだけこの移籍は誰も予想していなかった出来事だったのだ。

 サンプドリアはリグリア海に面する港町ジェノバのチームである。日本人では柳沢敦が2003-04に1シーズンプレーしたことがあり、また、同じ町にはかつて三浦知良が所属していたジェノアもある。両チームが対決するダービーマッチは「デルビー・デッラ・ランテルナ(Derby della lanterna)」――灯台ダービーと呼ばれている(ジェノバのシンボルが灯台なので)。

吉田麻也がまさかのサプライズ移籍。サンプドリアのふたりが後押...の画像はこちら >>

サウサンプトンからサンプドリアへの移籍が決まった吉田麻也

 チームの全盛期は、現イタリア代表監督のロベルト・マンチーニやジャンルカ・ヴィアッリなどが所属していた80年代後半から90年代。1990-91にはチーム史上唯一のセリエA優勝を果たし、その翌年にはチャンピオンズカップ(チャンピオンズリーグの前身)の決勝にまで勝ち進んだ。


 しかし、最近では真ん中あたりから降格圏すれすれの順位が定位置だ。今季は、昨シーズンまでローマのベンチに座っていたエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督が率いてスタートしたが、開幕からいきなり連敗。第7節までの成績は1勝6敗で、リーグ最下位となってしまった。

 起死回生のために白羽の矢が立ったのが、イングランドでレスターを奇跡の優勝に導いたクラウディオ・ラニエリ監督だった。ラニエリのもと、どうにか降格圏からの脱出には成功したものの、その後も勝ったり負けたりが続く。今年に入ってからも、ブレシアに5-1で勝利したかと思えば、翌週にはラツィオに5-1で負け、戦いぶりは安定しない。

現在は20チーム中16位だが、降格圏のチームとは5ポイント差しかなく、まだまだ安心はできない状況だ。

 不調の原因のひとつとして、守備の脆弱性は以前から指摘されていた。特にCBは問題視されており、ドイツU‐21代表ジュリアン・シャボット、ガンビア代表のオマール・コリーだけでは役不足のうえ、チームのキャプテンを務めていたヴァスコ・レジーニはこの1月にパルマにレンタル移籍が決まった。サンプドリアの冬のメルカート(移籍市場)での課題はCBの補強となった。

 そこで、まずはかつてサンプに所属し、ナポリでは出番のなかったイタリア人ロレンツォ・トネッリを取り戻した。だがもうひとり、クオリティーがあり即戦力となるCBを望んでいた。

 サンプドリアの当初の狙いは、22歳のアルゼンチン代表DFフアン・フォイスをトットナムからレンタルすることだった。移籍市場が閉まる直前の1月30日には、チーム間の移籍交渉は合意、あとは本人の承諾だけというニュースも流れた。だが、ふたを開けてみたら、サンプドリアが獲得したのは、それまで一度も名前があがったことのない吉田麻也。まさに”ソルプレーザ”だったのだ。

 フォイスが最後の最後にまさかのダメ出しをしたことで、サンプドリアは残された時間で別のCBを探さなければいけなくなってしまった。一方、吉田麻也はサウサンプトンでの出場機会が減り、いいクラブがあったら移籍したいという意向を漏らしていた。

両者の思惑がここで合致した。

 今回の移籍を後押ししたと思われる人物がふたりいる。サンプドリアのFWマノロ・ガッビアディーニは、昨シーズンまでサウサンプトンに所属しており、吉田とは旧知の仲だ。今後も吉田がチームに適応する協力者になってくれるだろう。そしてラニエリ監督は、プレミア時代に吉田と何度も対戦しており、彼のプレーには好印象を持っていた。移籍が決まった後の記者会見でも「彼はサンプドリアのセリエA 残留のためのパワーとなってくれるだろう」と言っている。

 イタリアメディアの多くは、吉田が日本代表のキャプテンであることや、プレミアで最多の出場回数を持つ日本人であることを紹介し、一定の評価をしている。一方で、「サンプドリアは即戦力を求めていたのに、セリエA初挑戦の選手ではその手助けにならないのではないか」という声も聞かれる。イタリアのスポーツ紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』が出したこの冬の補強の評価で、サンプドリアは5.5。スパルとともに20チームの中で一番低かった。

 すべてがスムーズに進めば、吉田は2月3日のナポリ戦に出場できる模様だ。ラニエリの使う布陣は4-4-2。

トネッリとCBコンビを組むことになるだろう。

「ソルプレーザ」にはサプライズのほかに、プレゼントという意味もある。新天地イタリアで活躍し、吉田麻也には正真正銘の「ソルプレーザ」になってもらいたいものだ。