1月26日、バレーボール「V.LEAGUE」のDIVISION1女子のファイナルが国立代々木競技場で行なわれ、JTマーヴェラスが岡山シーガルズとのフルセットの熱戦を制し、チーム2度目の栄冠を手にした。

 惜しくも敗れた岡山は、2016-17シーズンに2部に降格。

翌シーズンは優勝し、リーグ編成が行なわれた2018-2019シーズンは1部のDIVISION1で戦うも、レギュラーラウンド8位以内のチームによるプレーオフに進出できなかった。その経緯を考えれば、今季の準優勝という結果は「大躍進」と言えるだろう。

「変人」宮下遥がトス回しで成長。全日本の正セッターを再奪取な...の画像はこちら >>

岡山のVリーグ準優勝に貢献した、セッターの宮下遥

 チームのセッターである宮下遥は、セミファイナル、ファイナルと連日フルセットの試合でトスを上げきった。宮下は試合後、「前回(2013-14シーズン)の決勝とはまた違った手応えがありました。(今シーズンの2度の対戦で)1セットも取れなかったJTさんをあそこまで追い詰められたことはよかったと思います。トス回しは……あれが精一杯でしたね」と少し笑顔を見せた。


 宮下は、2012年ロンドン五輪で銅メダルを獲得した時の名セッター、竹下佳江の後継者として真っ先に注目された。2010年には、現代表監督の中田久美と同じ15歳で代表入り。竹下と比べられる重圧に耐えかねて涙を見せたこともあったが、2013年のワールドグランプリで司令塔として活躍し、”ポスト竹下”の座を射止めたかと思われた。

 だが、当時の眞鍋政義監督とトスを上げる位置について考え方に相違があり、ほかのセッターとの併用が続いた。2016年のリオ五輪は宮下が正セッターを務めたが、翌年に”中田ジャパン”が発足するとさらに状況は厳しくなる。

 攻撃的なツーアタックが特徴の冨永こよみ、リオ五輪経験者の田代佳奈美、バルセロナ五輪の男子チームの正セッター・松田明彦が育てた佐藤美弥と、ライバルのセッターたちが台頭。

宮下も登録メンバーには名を連ねていたが、ケガの影響もあって大きな大会には招集されなくなっていた。

 2年ぶりに代表に復帰した昨年のワールドカップでも、正セッターを務めたのは佐藤。宮下は、前衛に上がってきたセッターと、その対角にいるライトアタッカーを同時に交代させる「2枚替え」での起用が多くなった。それでも宮下は、短い出場時間できっちりと結果を出し、久々の国際舞台で存在感を発揮した。

 迎えた今季のVリーグでは、ワールドカップの疲労もあって宇賀神みずきとの併用になりながらも、チームを鼓舞して決勝の場まで導いた。2009年にVリーグ最年少デビュー(14歳8カ月)を果たしてから、チームでは常に正セッターだった宮下だが、「私がいない間はみずきがチームをまとめてくれて、『みずきのチーム』になっていたこともありました。
途中で私が出ていって違う間を作ると、相手は嫌だろうなと。そこは今季のチームの武器だったと思います」と、淡々とした口調で話した。

 しかし岡山の河本昭義監督は、「謙虚そうなことを言っていますけど、彼女はすごく気が強い選手なんですよ」と笑いながら、宮下について次のように語った。

「うちはミドルブロッカーに上背がなく、ボールがずれた時のパンチ力もない。だけど(セミファイナルで戦った)デンソーさんはミドルが機能しないとしんどいので、宮下は3セットまですごく強引にミドルを使いました。それが象徴しているように、彼女は自分やチームが苦手なことをあえて挑戦したがる、いい意味での”変人”だと思っています」

 河本監督が「宮下の一番いいところ」として挙げたのは、試合中の指示をすぐに反映できる適応力と修正力。

さらに今季は、トス回しにも成長が見られたという。これまでの宮下は、トスが左右のサイドに偏る傾向があったが、昨年の代表での活動によってそれに変化があった。

「うちはバックアタックを使わないチームだったんですけど、遥はディグ(アタックレシーブ)からのバックアタックも使うようになった。代表も今季からバックアタックを多用するようになったので、その経験を生かそうとしたのでしょう。まだ、焦った時や疲れた時に、筋力のなさが見えてしまうことはあります。食が細いんですけど、夏までにもっと食べて筋力をつけないとね。
そういう課題はありますが、成長が見えたシーズンだったと思います」(河本監督)

「夏までに」という言葉は、東京五輪を見据えてのこと。その開催が決まった7年前、宮下は「私はセッターとして一番いい年齢になっていると思うので、(東京に決まって)うれしいです」と話していた。しかし、15歳から岡山の司令塔を務める責任感から、次第にVリーグにかける思いが強くなり、「岡山を日本一にすることのほうが大事」と口にすることが多くなった。

 しかし今季は、その日本一には届かなかったものの、シーズンを通して手応えと自信を掴んだのだろう。ファイナルの試合後には「五輪に向けて、気持ちを切り替えて頑張らなきゃと思います」と力強く意気込みを語った。

 もともと評価が高かったサーブ、ディグ、ブロックに加え、課題だったトス回しも向上した。
日本代表デビューから10年、苦境を乗り越えながら成長を遂げてきた宮下が、東京五輪の正セッター争いをさらに過熱させそうだ。