プロ野球の独立リーグ、ルートインBCリーグ(以下、BCリーグ)に、2020年シーズンから新規加入することが決まった神奈川フューチャードリームス。3月15日に開催された体制発表会には、鈴木尚典監督、GMの山下大輔、球団アドバイザー兼コーチの荒波翔らを含め、選手やスタッフの全員が参加した。



目指すは「マシンガン打線」。ベイV戦士の鈴木尚典が新球団で恩...の画像はこちら >>

神奈川フューチャードリームスの(左から)山下GM、鈴木監督、荒波球団アドバイザー兼コーチ

 当初はラゾーナ川崎でのファン参加型イベントを予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で「報道陣限定公開」に形式を変更。場所も藤沢市内に移して行なわれた会見で、球団代表の藤本伸也は高らかに目標を宣言した。

「神奈川県は野球が盛んでファンも多い地域。ひとりでも多くの人材をNPB(日本野球機構)に送り出し、たくさんの人に応援される球団になりたいと思っています。そして、どこのチームも達成できていない、リーグ参入初年度の優勝を目指していきたい」

 続いて鈴木監督は、「投手、野手ともにレベルの高い選手が集まってくれました。私は打者出身ということもあり、かつての(横浜ベイスターズの)”マシンガン打線”のような、得点を取れる野球をして優勝を目指します」と意欲を語った。


 鈴木監督の背番号は、首位打者を2回獲得するなど活躍した現役時代と同じ「7」。2008年に引退後、解説者や横浜DeNAベイスターズのジュニアチームの監督を経て「現場復帰」を果たした。そんな1998年のV戦士が指揮を執る神奈川フューチャードリームスには、元NPB選手から硬式野球未経験者に至るまで、バラエティー豊かな面々が揃った。

 球団アドバイザーの荒波(元横浜DeNAベイスターズ)も、「まだ練習を見て1カ月ほどですが、選手個々の能力は高い」と期待を寄せつつ、チームの現状を次のように分析した。

「すぐにプロで活躍できるような選手もいますが、もっと思いどおりのプレーができるようにしたり、不調に陥った時にきちんと修正できる力を養ったりする必要があると感じています。そのためには、『意味』を考えながら野球をすること。

例えば、自分のことだけではなく、他の選手のいいプレーを見てマネをしてみるなど、もっと高い意識を持って野球に取り組まないといけません」

 首脳陣に対し、選手はチームをどう見ているのか。

 昨年までBCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスに在籍し、2年連続でベストナイン(遊撃手)に選出。2018年にはBCリーグ日本一も経験した、新チームのキャプテンを務める24歳の青木颯はこう語る。

「首脳陣のみなさんは選手に近い立場でコミュニケーションを取ってくれるので、本当にいい雰囲気でやれています。チームとして結果を出していくのはもちろんですが、自分がNPBで活躍できるようにするためには、個性をもっと伸ばしていく必要があると感じている。自分の新たな可能性に気づかせてくれることもあるので、助かっています」

 人材育成やNPBへの登竜門という意味合いも強いBCリーグ。
新球団の神奈川フューチャードリームには、硬式野球未経験という珍しい経歴の選手も在籍している。その中で鈴木監督が「可能性がある面白い投手だと思っている。硬式野球に慣れていない部分もあるので、ゆっくり体を作ってきたい」と期待を寄せるのが、今年22歳になる杉浦健二郎だ。

 高校ではバトミントン部に所属し、神奈川県大会に出場。中央大学に進学してからも野球部には所属せず、野球サークルや相模原市の草野球チームなどでプレーするうちに能力を開花させていった。3年時には軟式野球SWBCの日本代表に選ばれ、昨年11月に行なわれたBCリーグのトライアウト受験を経て入団が決定。

150キロのストレートに加え、打者としても身体能力の高さを生かした飛距離が魅力の「ダイヤの原石」である。

「目標は、オリックスの山本由伸投手。速球に加えて、150キロを超えるカットボールやツーシームを投げられる投手になりたいです。硬球は、これまで使っていた軟球よりも重くて大きく、現時点ではストライクが入らなかったり、抜けてしまうことも多い。軟式野球時代のフォームだと肘への負担が大きいので、ケガをしないフォームづくりに取り組んでいます。それらを経て今年は、結果が積み重ねられるシーズンにしたいです」(杉浦)

 若い選手だけでなく、NPBでのプレー経験があるベテラン選手にとってもチャンスはある。
投手兼任コーチを務める乾真大(元日本ハム・巨人)は、「もっと技術を高め、NPBに復帰できる日を信じてプレーしている」と力強く述べた。鈴木監督も「長くプロ野球選手として過ごしてきた中で、たくさんの指導者に巡り合いました。それぞれのいいところを取り入れて、出会った選手たちを成長させてあげられるようになりたい」と語るように、現在31歳の乾にもさらなる飛躍が期待できる。

 チームは3月27日に、鈴木監督の古巣であるベイスターズの2軍と初の対外試合を実施。その試合は3−12で敗れたものの、31日に行なわれたBCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズとの試合は、7-4でチーム初勝利を挙げた。

 その後も順調な仕上がりを見せていたが、4月18日に予定されていた横浜スタジアムでの開幕戦は延期に。

4月2日のBCリーグ側の発表では、今シーズンの開幕日について「5月中旬以降」と発表があった。

 独立リーグはNPBほど練習環境が整っているわけでもなく、シーズン中は長時間・長距離のバス移動などもあり、今は新型コロナウイルスという未知の脅威にさらされている。GMの山下が「練習場は日替わり。天候によっても場所の変動があり、大変な環境であることを日々実感しています」と話せば、球団アドバイザーの荒波も「室内でしかバッティングができない日もありました。今までの野球人生ではなかなか経験してこなかった環境に身を置いています」と現状を明かす。

 それでも、下を向く者はいない。鈴木監督も、選手時代の引退挨拶と同じ”恩返し”という言葉を交え、次のように夢を語った。

「横浜高校と横浜ベイスターズに在籍した21年間、神奈川県で野球をさせてもらったことへの”恩返し”をしたいと、ずっと思ってきました。久しぶりにユニフォームに袖を通した時には、少年野球で初めてユニフォームを着た時のワクワク感が蘇りましたね。野球のレベルが高い神奈川で、埋もれている選手を発掘してNPBの球団などに輩出していきたいです」

 新チームの船出の日が1日でも早く訪れ、再びグラウンドで躍動する姿が見られるようになることを今は祈りたい。