プロレス大好き芸人
ジグザグジギー宮澤聡が選ぶ「最高レスラー」 前編

「キングオブコント」2013、2016ファイナリストのお笑いコンビ・ジグザグジギーの宮澤聡。プロレスファンの芸人は数多くいるが、そのコレクターっぷりが異色だ。



 もはや男子は販売すらされていないプロレスカードを未だに収集しており、その数、実に4000枚。すべてにレスラーのサインが入っているという。芸人の"コネ"でサインをもらえそうなものなのに、他のファンと同じように入り待ち、出待ちをしているというのも驚きだ。

 そんな宮澤に、"ファンへの神対応っぷり"も加味した「最高レスラー5人」を選んでもらった。

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取材に自身のコレクションを取材に持参した宮澤。これで「3分の1くらい」だという

――宮澤さんがプロレスを観ることになったきっかけは?

宮澤聡(以下、宮澤) 新日本プロレスが1991年3月21日に東京ドーム大会をやったんですけど、両親に連れられてそれを観に行ってどハマりしました。
小学校に上がる直前の春休みですね。幼稚園の同級生だった女の子のお父さんが、新日本プロレスの営業の偉い方で、うちの父親が力道山の時代からプロレスが大好きだったので、招待してもらったんです。

――プロレスのどんなところが面白かったですか?

宮澤 新日本プロレスとWCW(アメリカの団体)の全面対抗戦みたいな大会で、ド派手な雰囲気だったんですが、その中で、長州力vsタイガー・ジェット・シンの試合が異色だったんです。「グレーテスト18クラブ王座」という、たった2年だけ創設された、「どこ行っちゃったんだろう?」みたいなベルトがあるんですよ(笑)。僕が観たのはその指定試合だったんですが、他とは違ってその試合だけ血みどろ。それが6歳の僕に刺さったんですよね。

――6歳で血みどろの試合ですか......。

宮澤 入場シーンからタイガー・ジェット・シンが観客席で大暴れして、本当にあのサーベルで殴りかかる勢いだったんです。荒れ狂うシンに血まみれにされながら、立ち上がって、叩きのめす長州さんがカッコよかった。グレート・ムタとか、獣神サンダー・ライガーといったレスラーにも興味は持ったんですが、血まみれの長州さんがカッコいいなと思ったんです。翌日には弟とプロレスごっこをしてました。

――プロレスカードを集め始めたのはいつ頃ですか?

宮澤 ベースボールマガジン社から最初に発行されたのが1995年なので、プロレスを観始めて4年後くらい。

10歳の時ですかね。

――カードはランダムに入っているのでしょうか?

宮澤 基本的にはランダムで、なにが入っているかわからない。「やけにガイ・メッツァー出るな」みたいな時もあります(笑)。何度も出てくると、ちょっとその選手のことが嫌いになっちゃったりとか。それでも、コンプリートを目指してひたすら集めました。

――カードにサインをもらうようになったのは、なぜ?

宮澤 1年につき400枚くらいでコンプリートなんですけど、そこに至るまでに同じカードが何枚も出てくるわけです。
でも、ダブったカードにサインをもらったら、もう一周違うコレクションができるじゃないですか。それで2000年10月、ロード・ウォリアーズがバトラーツの後楽園ホール大会に出た時、友だちと一緒に入り待ちしてサインをもらったのが最初です。

――英語でお願いしたんですか?

宮澤 お願いの仕方は今でも変わらないですけど、基本、「プリーズ」ですね。外国人レスラーの方に「サイン」と言うと"署名する"という意味になっちゃうので、「オートグラフ、プリーズ」です。

――宮澤さんのプロフィールの特技の欄に、「プロレスラーから絶妙なタイミングでサインをもらう」と書いていますね。

宮澤 あるんですよ、タイミング。
「いやあ、今行っちゃあ、もらえないよ」みたいな。慣れていない方は選手が出てくるとワーッと走って近づいちゃうんです。それでもらえる人もいますけど、そうじゃない場面もあるんですよ。ちょっと歩いてからとか、車に乗る直前のほうがサインを書いてくれる人とか、いろんなパターンがあるんです。ベテランサイン集め連中は基本、待機する時は待機してますね。

――プライベートでばったりレスラーに会った時は?

宮澤 その時にカードを持っているかどうかによりますね。

一度、ゆりかもめに乗っていた時にたまたま葛西純選手が目の前にいて、鞄の中を探したら葛西選手のカードが入ってたんですよ。思い切って、電車を降りたホームで「すみません、プロレスファンなんですけど」とお願いしたら、快くサインを書いてくれました。

――「ジグザグジギーの宮澤です」とは名乗らないんですか?

宮澤 葛西さんにお会いしたのは芸人になるだいぶ前でしたが、基本的に面識のないレスラーの方に対しては今でも名乗りません。一週間に一度、「今週もらったサインカード」をTwitterなどでアップ(毎週水曜)してるんですけど、その選手がエゴサして「宮澤さんだったんですね!」みたいなことはありますね。

――謙虚ですね! それでは、そんな宮澤さんが思う「最高レスラー5人」を発表していただきたいと思います。

【最高レスラー#1】天龍源一郎

宮澤 ひとり目は天龍さんです。本当に男気溢れる方で、ファンの気持ちをすごくわかってくださる方です。(2015年2月に)引退を発表するちょっと前、ある会場の外で出待ちをしていたんですよ。天龍さん目当てのファンの方が30人、いや、50人くらいいたかなあ。それで天龍さんが会場の外に出た瞬間、ファンの方がワーっと取り囲んだので、一緒に出てきた新井健一郎選手が「ごめんなさい、時間ないんで」と制止して動線を作ろうとしたんです。そうしたら天龍さんが、アラケン(新井健一郎)選手を「おい」と止めたんですよ。

――カッコいいですね!

宮澤 「俺もいつまで現役を続けられるかわからないんだ。だから止めるんじゃない」と言って、そこにいる全員にサインとか写真とか、ファンサービスをしてくれました。そこから1年後くらいに引退ロードに入ったんですけど、それを予感していたんですかね。そういうことがあると、もらったサインに"感動"という価値がつく気がしています。

――天龍さんはそういった男気溢れるエピソードがたくさんありそうですね。

宮澤 天龍さんが引退ロードで「KAIENTAI DOJO(現2AW)」の試合に出たことがあるんです。ブルー・フィールド(現2AWスクエア)は千葉の小さな会場ですから、KAIENTAI DOJOのファンからすれば「ここに天龍さんが来てくれんの!?」となったでしょうね。その時も僕はサインをもらったんですけど、天龍さんの車が発車した瞬間、拍手が起こりました。きっと、「よく来てくれました!」という思いからでしょうね。

――天龍さんはどうだったかわかりませんが、プロレスカードを持っていくと、選手もびっくりしませんか?

宮澤 それはあります。男子のプロレスカードの発売は10年くらい前に止まっちゃっているので、どのカードを持っていっても懐かしいようで。「これ懐かしいなあ!」って言いながら、みなさん喜んでサインを書いてくれます。

【最高レスラー#2】三沢光晴

――2人目は三沢さんですか。三沢さんのサイン、羨ましいです!

宮澤 三沢さんは基本的に、ひとりにサインをしちゃうとみんなに書かないといけないから「ごめんね」という方なんです。途中で切り上げて、もらえる人ともらえない人が出ちゃうのも悪いということなんですが、それが僕は素敵だなと思うんですよ。

――でも、今回持ってきていただいたファイルを見ると、結構サインをもらえていますね。特に印象的な1枚は?

宮澤 2008年にリアルジャパン後楽園ホール大会で「初代タイガーマスク&ウルティモ・ドラゴンvs三沢光晴&鈴木鼓太郎」という試合があったんです。初代(佐山聡)と2代目タイガーマスクの三沢さんが初対決するという。それで僕はいつものように会場の外で出待ちをしていたんですが、三沢さん目当てで100人くらいファンの方がいました。

 僕は長年の経験から、三沢さんが出てきた瞬間に頼みにいっても「ごめんね」と言われちゃうのがわかっていたので、離れたところで静観していたんです。そうしたら、三沢さんが僕のほうに向かって歩いてくるんですよ。「なんだ?」と思ったら、僕の横に止まっていたのが三沢さんの車だったんです。三沢さんがドアを開けた瞬間に、イチかバチかで「すみません、サインってダメですか?」と聞いたら、「本当はひとり書くとあれだけど......」と言いながら書いてくれました。

――ミラクルですね。

宮澤 ただ、三沢さんの車が発車してからの、僕に対する出待ちファン100人の目は厳しかったですよ(笑)。「なんであいつだけ?」みたいな。

――そんな三沢さんは、2009年6月の試合中の事故が原因で、46歳で亡くなりました。訃報を聞いた時はどんな気持ちでしたか?

宮澤 びっくりしました。"受け身の天才"と言われていた方が、リング上でっていうのが......本当にこんなことがあるのかと思いました。何日間かずっとショックを引きずっていた記憶があります。サインをもらって、勝手に知り合いみたいな感覚でいたのもありますし。やはりサインをもらうと、その選手への思い入れは強くなりますから。

――4000枚サインがあるということは、思い入れも4000人分ですよね。

宮澤 そうですね。三沢さんと親しかった方は、みなさん「ものすごく楽しい人だった」と言います。下ネタも大好きで(笑)。僕は芸人になってから、イベントの司会などでいろんなプロレスラーの方とお仕事させていただいていますが、三沢さんとそういう場でお話ししてみたかったです。

(後編:「最高レスラー」残りの3人は?)

【プロフィール】
■宮澤聡(みやざわ・さとし)
1984年5月17日、東京都台東区生まれ。マセキ芸能社所属。2008年、お笑いコンビ・ジグザグジギーを結成。「キングオブコント」2013、2016ファイナリスト、NHK「オンバト+」第4代チャンピオン等、受賞歴多数。10歳からプロレスカード収集を趣味とし、現在までに集めたレスラーのサイン入りプロレスカードは4000枚に及ぶ。
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