ジュビロ磐田
遠藤保仁インタビュー(後編)

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42歳で復帰するJ1の舞台。ジュビロ磐田・遠藤保仁が思い描く...の画像はこちら >>
 ジュビロ磐田がJ1昇格、J2リーグ優勝を決めた試合後、印象的だったのは遠藤保仁が歓喜の輪から少し離れたところで、控え目にその瞬間を喜んでいたこと。記念の集合写真を撮影していた際も、常に最前列で写真に収まったガンバ大阪時代とは違い、最後列で笑顔を見せていたのも印象的だった。

「ある意味、自分は外国人選手枠というか、助っ人のような活躍を期待されていると思っている」

 思えば、2020年10月の加入に際しては、そんなふうに自分に課せられた責任を口にしていた遠藤のこと。歓喜の瞬間に胸にあったのは喜び以上に安堵感で、それが"控え目"につながったのか。

 真意を尋ねるとあっさり「空いている場所があそこしかなかったから」と笑ったが、そのあとには、どんな時も自分ひとりが目立つことをよしとしない彼らしい言葉が続いた。

「高校時代の恩師に『集合写真は、ど真ん中が一番目を引くから、必ず真ん中で写れ』と教えられたことがあって。そこで写ろうと思えるくらい活躍しろ、ということでもあったと思うけど。その言葉をすごく意識していたわけではなかったとはいえ、言われてみれば、ガンバ時代は確かにそういうシーンではほぼ真ん中で写っていた気がする。

 でも今回は、確かにどのシーンでも一番後ろにいて......僕としては自然な行動だったけど、自分は1年ちょっとの在籍で、ましてや期限付き移籍の立場でもあったからね。それに、過去には自分も降格、昇格を経験していたなかで、ああいう瞬間にはジュビロで苦しい時間を過ごしてきた功労者が真ん中にいるべきだとも思っていたのもある。

 あと、高校時代の恩師はああ言っていたけど、考えてみたら集合写真なんて写っていたらそれでいいわけで、自分の存在感はピッチで示せばいいから。今の年齢になったからそう思えるのかもしれないし、完全移籍の今年、もしそういう歓喜の瞬間を迎えられたら、またど真ん中を陣取っているかもしれないけど (笑)」

 その言葉から察するに、今シーズンはJ1復帰イヤーでの"タイトル"も視野に入れて戦うということだろうか。ガンバ大阪時代の2014年に、Jクラブとしては史上初となるJ1復帰イヤーでの"三冠"を実現したように。

「いや、いや、そこは目指してない。

間違いなく今年のジュビロが目指すのは"残留"になると思う。2014年だって結果的に"三冠"はできたけど、正直、最初からそこを目指していたわけじゃないし、現実的に考えて、昇格した初年度に優勝を狙えるほど、この世界は甘くない。

 ただ、残留を目指すなかでも、ジュビロのサッカーってこういうものだよね、というものは定着させたいと思う。契約交渉の場でクラブからは、昨年のサッカーを継続したいと聞いているし、伊藤彰新監督もそれを継承するために呼ばれたはずで......。

 実際、昨年まで伊藤さんが率いていたヴァンフォーレ甲府も、ボール支配率を高めながら攻撃を仕掛けてくるチームでしたしね。その伊藤さんの元で、J2リーグでようやく形になりつつあったジュビロのサッカーをJ1リーグでもブレずに追求して、かつ確実に残留につなげることができれば、一年が終わった時に最高のシーズンだったと言えるんじゃないかな。

 そうなれば、翌年はまた、そのスタイルにあった選手が増えるだろうし、そうやって一年、一年を丁寧に積み重ねていきながら順位を上げていくことができれば、近い将来、かつてのジュビロの黄金時代のような盤石の強さを取り戻せるんじゃないかと思う」

 一方、1月28日には42回目の誕生日を迎える遠藤自身は、プロ2シーズンぶりとなるJ1での戦いがどうなれば、「最高のシーズン」だと言えるものになると考えているのか。

「とにかくたくさん試合に出て、チームに貢献すること。年相応のやり方で、年相応に準備して、年相応の方法で戦う(笑)。無理もしないし、過度な気負いもない。これまでどおり、ありのままの自分を受け入れて、今の自分にできる最大限の力をチームのために発揮することだけを考えます。

 あとは、新しい監督のサッカーを楽しむこと。

チームとしてのスタイルが同じでも、監督が変われば求められることは多少なりとも違ってくるし、そのなかでたくさんの気づきとか、サッカーそのものに対する新たな発見みたいなものがあるはずだから。

 それを、自分の体、プレーとうまくリンクさせてピッチで表現することを目指しながらサッカーを楽しみたいと思う。何度も言うけど、年相応に(笑)」

 余談だが、戦う場所をJ1に移す今シーズンは、古巣との対戦も待ち受けている。約20年にわたってプレーしたガンバとの対戦は彼にどんな感情をもたらすのか。そこに、どんな楽しみを見出しているのか。

「どんな気持ちになるのかはやってみないとわからないけど、知っている選手、スタッフも多いからね。

クラブスタッフも含めて久しぶりにみんなに会えるのがうれしいし、純粋に対戦がすごく楽しみ。

 紅白戦で対峙することがあっても、やっぱり紅白戦では100%対100%の戦いにはならないから。公式戦でしか実現できない100%対100%のガチンコの戦いのなかでガンバをどう感じて、自分がどんなプレーをできるのかがすごく楽しみだし、お互いにケガなく、元気に試合を終えて、それをサポーターのみなさんが楽しんでくれたら一番。

 どうせなら、お互いのサポーターの声援が込みのスタジアムでプレーできたら楽しいなって思うけど、新型コロナウイルスの状況によっては、今年もまだどうなるかわからないですからね。もし声なしの応援となっても、勝手にジュビロサポーターも、ガンバサポーターも、僕のことも応援してくれていると想像してプレーすることにします。最高に幸せな状況やな(笑)」

 プロ25年目も力むことも、気負うこともなく、自然体に。

これまでどおり、チャレンジすることとサッカーを楽しむことを忘れずに。

 2022年、遠藤保仁が2年ぶりに、J1の舞台に帰ってくる。

遠藤保仁(えんどう・やすひと)
1980年1月28日生まれ。鹿児島県出身。鹿児島実高卒業後、横浜フリューゲルス入り。同クラブが消滅後、京都パープルサンガを経てガンバ大阪へ。チームの"顔"として数々のタイトル獲得に貢献した。同時に日本代表でも主軸として活躍。2020年10月にジュビロ磐田へ期限付き移籍。2021年12月、磐田への完全移籍を発表。