前節レアル・マドリード戦で復調の兆しを見せた久保建英だったが、ラス・パルマス戦ではシェラルド・ベッカーにスタメンの座を譲り、今季最も短い出場時間となった。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、久保のチーム内で現在置かれている状況や、話題になっているパリ五輪参加の可能性について寄稿してもらった。

【オリンピックは厄介なイベント】

 現在のサッカー界のカレンダーは、クラブにとっても選手にとっても頭痛の種であり、常に大きな問題を引き起こしている。クラブが参加する大会はますます多くなり、それに伴い試合数も増加している。さらに代表チームの大会も増え、選手にとっては負担が増す一方だ。

久保建英はパリ五輪不参加が最良とスペイン人記者 レアル・マド...の画像はこちら >>
 その結果、スター選手であればあるほど、疲労の蓄積や負傷などがつきまとい、フィジカルもメンタルも悲惨なものになっている。

 レアル・ソシエダは今季、この影響を大きく受けているチームのひとつだ。そして最近話題になるのは、今夏のパリ五輪に関するもの。久保建英はU-23日本代表の一員として同大会のメンバー候補に挙がっている。

そして実際に参加が実現した場合、彼は紛れもなく日本のスターとなるだろう。大岩剛監督は「久保は参加したいと言っている。あとはクラブ次第だ」とすでに公言している。

 U-23日本代表は先週、パリ五輪出場権獲得を決めたあとの決勝戦で、見事U23アジアカップ優勝を成し遂げた。これにより日本はグループDに入り、パラグアイ、マリ、イスラエルと対戦することになる。

 問題なのは、オリンピックの開催が、欧州選手権(ユーロ)や南米選手権が行なわれる年と被ってしまうことだ。

ユーロや南米選手権のあとの真夏にオリンピックは開催され、クラブチームのプレシーズンとも重なる厄介なイベントとなっている。パリ五輪の男子サッカー競技は、7月24日から8月9日にかけてフランス全土で行なわれる。

 また、今年1月に久保とアマリ・トラオレが1カ月間チームを離れ参加した、アジアカップやアフリカ選手権のような大会と違い、オリンピックはFIFAインターナショナルマッチカレンダーに含まれていない。そのため、クラブにとって選手を貸し出す義務がない。

 レアル・マドリードは、すでにオリンピックへの選手の貸し出しを拒否している。ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)も貸し出しに消極的な姿勢を示しているが、常に選手と対話して決めるクラブのため、まだ本決まりではない。

前例では久保も参加した3年前の東京五輪で、ミケル・オヤルサバル、ミケル・メリーノ、マルティン・スビメンディをスペイン代表への招集に許可を出していた。

 クラブのスポーツディレクターを務めるロベルト・オラベは、久保の貸し出しを今回望んでいない理由について、「久保はすでに東京大会に出場しているし、我々はなによりも選手たちの健康面に気を配りたい」と述べている。

【質の高い休みがほとんど取れない】

 最良の選択肢は、クラブと久保が揃って参加しないという決断を下すことだ。実際、今年1月に久保がクラブにとって重要な時期の数週間を欠場し、チームの成績だけでなく、その後数カ月間にわたって自身のパフォーマンスに大きな影響を及ぼしていた。

 ベストの状態にない今の久保が、ラ・レアルでプレシーズンに参加せずに多忙な夏を送った場合、新シーズンを最悪の形でスタートしかねない。もっと言えば、ラ・レアルで過ごしたこの2年間は、質の高い休みをほとんど取らずに終えることになる。

 久保が母国を代表してオリンピックで戦うのを楽しみにしているのは確かであり、出場すればラ・レアルの名前が日本で大きく響きわたることは間違いない。

しかし、彼は日本代表としてアジアカップに参加する際、「母国を代表して戦うのは好きだけど、所属クラブをシーズン途中に抜けなきゃいけないのは残念」と、自身が抱えるジレンマについても発言していた。

 だが、パリ五輪はシーズンの途中で抜ける心配はない。加えて東京五輪で後悔を残した大会となれば、シーズンも終わりに近づく今、彼の気持ちは「参加」により大きく傾いてくるに違いない。

 ラ・レアルでは久保以外にも、今夏のオリンピック参加候補選手が何人もいる。来シーズンのラ・リーガ開幕を間近に控えた時期に、多くの選手が五輪参加で不在になることはチームにとって痛手となる。

 久保以外の主な候補者は、スペイン代表のMFベニャト・トゥリエンテス、FWアンデル・バレネチェア、DFジョン・パチェコの3人。

前者は2002年、ほかのふたり2001年生まれだ。トゥリエンテスは現在、U-21スペイン代表の中心メンバーであり、ほかのふたりはその前の世代である。

 パリ五輪でスペインは、グループCでウズベキスタン、ドミニカ共和国、エジプトと対戦する。スペイン代表において3人とも重要な選手だが、ラ・レアルにとっても必要であるのは間違いなく、DF、MF、FWの3つの異なるラインの選手を開幕直前まで欠くことになる。

 ほかにもふたりの参加が考えられるが、実現される可能性が低いか、実現してもクラブにとってさほど重要でないかのどちらかだ。

 DFトラオレも32歳のベテランながら、オーバーエイジ枠でマリ代表に招集されるかもしれない。

彼はフル代表のキャプテンであり、母国のアイドルだ。すでに今年初頭のアフリカ選手権にも出場している。参加した場合、日本と同組のため、久保との"ラ・レアルダービー"が実現する。その可能性は非常に低いが、もし出場すると、ラ・レアルにとって非常に大きな損失となるだろう。

【スタメン落ちは久保に対する警告】

 ラ・レアルは5月4日のラス・パルマス戦で緊急事態を迎えていた。控え組中心で臨んできたレアル・マドリードに敗れたことで、3試合連続未勝利となっていためだ。ヨーロッパリーグ(EL)出場権争いに向けて、この一戦に絶対勝つ必要があった。

 ここのところチーム状態がよくなかったことで、イマノルはいくつかの変更を実施した。これまでファーストチョイスだった久保とバレネチェアをスタメンから外し、シェラルド・ベッカーを右サイド、生粋のストライカーであるアンドレ・シウバをセンターフォワードで起用して、オヤルサバルと前線で組ませたのだ。

 この決断は私にとって驚きだった。なぜなら久保はレアル・マドリード戦で、昨年のようなすばらしいパフォーマンスの片鱗を見せたからだ。さらにレギュラーの久保、オヤルサバル、バレネチェアが、ケガなどの影響でこれまでシーズンを通してわずか9回しか先発で一緒にプレーできていなかったことを考えると、この3トップを形成するチャンスだった。

 しかし、結果的にイマノルのプランはうまくいった。ベッカーを利き足(右)のサイドでプレーさせるというギャンブルに指揮官は勝ったのだ。ベッカーはスピードを生かしてクロスを入れ、1得点&オウンゴール誘発でマッチMVPに輝き、チームはラス・パルマス守備陣を破壊して、4試合ぶりの勝利を挙げた。

 イマノルは80分に最後の交代枠で久保の投入を決めたが、試合展開的に実際ピッチに入ったのは89分だった。

 イマノルの今回の決断は、調子を落としている久保に対する警告と言える。

「ベッカーを今回選んだ理由は、戦術的判断および久保に対してレギュラーが安泰ではないという警告か?」

 試合後の会見場での私の質問を、イマノルは認めていた。

「ここでは誰もレギュラーの座は保証されていない。みんな調子がいいので、練習でよかった者が褒美を手に入れることができる。出場時間を得た選手はそのチャンスを生かせなければ、次の選手に出番が回る。今回は純粋に戦術的判断だ」

【あと4回チャンスがある】

 今回のスタメン落ちは久保にとって、昨年のすばらしい感覚を取り戻すべく、日々さらに努力を重ねるためのきっかけになるかもしれない。

 EL出場権獲得に向けて、ラ・レアルにはまだシーズン最後の"4つの決勝"が残されており、久保にもあと4回チャンスがある。次の挑戦は、バルセロナとのアウェーゲームという大きな困難がつきまとうものだ。少年時代バルセロナの一員だった久保にとって、この試合は特別な刺激となるだろう。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)