F1フォトグラファー熱田護×桜井淳雄 対談
後編「2年目の角田裕毅への期待」

約30年間F1を撮影し続けているフォトグラファーの熱田護氏と桜井淳雄氏の対談をお届け。劇的な幕切れとなった2021年シーズンの印象的な場面や選手などについて語った前編に続き、後編では2022年シーズンの新マシンへの見解やF1参戦2年目となる角田裕毅選手への期待などを語り合った。

(前編から読む>>)

F1カメラマンが語り合う角田裕毅の素顔と可能性。エンジニアと...の画像はこちら >>

2021年シーズン最終戦で自己最高4位に入った角田裕毅選手(桜井淳雄=撮影)

【角田裕毅「結果が求められる」】

ーー2月上旬から各チームがニューマシンを発表します。2022年シーズンは空力のレギュレーションが大幅に変更。タイヤのサイズも13インチから18インチに拡大され、マシンが大きく変わります。

桜井淳雄(以下、桜井) F1が新しいステージに移行します。2022年型のマシンはまるで未来から来たような印象です。シミュレーション上ではマシンのスピードはやや落ちるようですが、追い抜きはしやすくなっていると言われています。実際にどんな戦いになるのかはフタを開けてみないとわかりませんが、すごく期待感はあります。



熱田護(以下、熱田) 期待はしていますが、僕はあんまり変わらないと思うなぁ(笑)。ウイングの形状が変わっているだけで、パワーユニット(PU)は一緒です。タイヤも大きくなりますが、走り始めて第2戦くらいしたら、こんなものかと思うはずです。すぐに見慣れますよ。

桜井 まあ見慣れるでしょうね。それに過去を振り返ると、レギュレーション変更でマシンが遅くなると言われていても、各チームが精力的に開発を行ない、シーズンの半ばには「結局、前年とほとんど変わらないじゃん」といったケースも多いですからね。
それだけF1の開発スピードはすごいということです。

F1カメラマンが語り合う角田裕毅の素顔と可能性。エンジニアとの不仲説も「チーム内で人気があって、愛されている」

対談したF1フォトグラファーの熱田護氏(左)と桜井淳雄氏(五十嵐和博=撮影)

ーーホンダが昨年限りで撤退し、参戦2年目となる角田裕毅選手には期待が集まっています。おふたりは過去に何人もの日本人ドライバーの走りを現場で見ていますが、角田選手のデビューシーズンの評価と今年の期待は?

桜井
 角田選手が所属したアルファタウリはコンストラクター選手権でアルピーヌと5位を争っていました。それくらい速いマシンに乗せてもらっていたので、まずはラッキーだったと思います。ただ本人のミスが多かったし、チームメイトのピエール・ガスリーが速くて、隠れてしまっていました。デビューシーズンではありますが、同じマシンに乗り、同じ土俵の上に立っているんです。

どんなスポーツでも言い訳はできません。

熱田 F2まではすばらしい適応力を発揮した角田選手ですが、そんな彼でもF1ではクルマの動きに慣れ、レースの組み立て方を学ぶのに時間がかかりました。シーズンが残り3~4戦くらいになって、ようやく歯車が噛み合い出し、最後のアブダビGPで全セッション、ガスリーよりも速かった。それは評価してあげるべきだと思います。フェルナンド・アロンソを見ればわかりますが、チャンピオンを2度も獲ったドライバーでも現代のF1マシンはいきなり乗って、パッと速く走るのは難しい。それくらい今のF1は難しいんです。


桜井 2022年シーズンにシートを確保できて本当によかったと思います。レッドブル系のドライバーはミスが続き、コイツはダメだという評価が下ったら、シーズン中だろうとクビになります。それぐらいドライバーには厳しいチームです。しかもF1を目指すレッドブルの育成ドライバーはいっぱいいますからね。ホンダの影響力が残っていたのでシートを確保できたとも思いますが、今年は開幕からきっちりと結果を出さないと。

熱田 ガスリーに勝つのはすごく大変だと思いますが、彼に勝ちさえすれば評価を得られ、その先にもつながっていきます。
桜井さんの言うように、今年はホンダの影が薄くなっていく部分もあるので、成績を残さないとあとがありません。でも昨年の最終戦にあれだけのすばらしい走りを見せてくれたので、楽しみでしょうがないです。

【角田は自然体で「撮影しやすい」】

ーーマシンを降りた、素顔の角田選手はどんな21歳ですか?

桜井 彼はコロナ禍でデビューし、僕らはあまり交わることはないので、パーソナルな面はよく知りません。でも撮影はしやすいドライバーです。(小林)可夢偉選手はカメラがあまり好きじゃなかったので、逃げていくこともありましたが、角田選手はそういうことはないです。すごく自然体です。



熱田 ふだんの彼は空港で会ったりすると、バカ話に乗ってくれるし、好青年です。パドックでも最初の頃のふてぶてしさはなくなって、いろんなところでもまれて、角がとれたような気がします。外に向けての発言もずいぶん大人になったと思うし、そういう面でも評価してあげたいと思いますね。

桜井 まあ、相当たたかれたからね......。

熱田 でも彼のエンジニアとの無線がよく取り上げられていますが、彼はチーム内ですごい人気があって、愛されています。エンジニアに対する発言だけを切り取ると、「なんでそんなことを言うの」と疑問に思う人がいるかもしれないですが、そのエンジニアとの関係はすごくいいんです。角田選手が指示を出すエンジニアに対して「うるさい、黙っていろ。文句を言うなら、お前が走ってみろよ」など言うことがありましたが、担当のエンジニアは「わかったよ、ユウキ。じゃあ俺が乗るから」と言い返すような関係性なんです。それくらいチームとひとつになって戦っているので、今年に期待しているんです。

F1カメラマンが語り合う角田裕毅の素顔と可能性。エンジニアとの不仲説も「チーム内で人気があって、愛されている」

角田裕毅選手の2022年シーズンへの期待を話す桜井氏

ーーカメラマンとして2022年シーズンの見どころは?

熱田
 ホンダが撤退したとはいえ、日本で作ったPUを搭載したクルマは走るわけだから、レッドブルとアルファタウリの4台には頑張ってほしいです。何度も言いますが、角田選手には期待しています! あとは現役最年長の40歳、アロンソにはおじさんの意地を見せてほしいし、メルセデスに新加入するジョージ・ラッセルにはハミルトンを倒してほしい。

桜井 ラッセル対ハミルトンが一番の見どころかもしれませんね。ハミルトンは史上最多タイの7度の世界チャンピオンに輝くグレートドライバーですが、クルマがいいから速いのか、それともハミルトン自身がクルマを乗りこなせていたから速いのか。若いラッセルと一緒に走ってみて、シーズンが終わった時にどういう評価になるのか。楽しみです。

熱田 あとフェラーリにはもう少し頑張ってもらわないとね。

桜井 そうですよね。やっぱり開発能力が高いメルセデスとレッドブルが強いと思いますが、フェラーリは昨シーズン途中でマシン開発をストップし、2022年型に注力していました。一方で、メルセデスとレッドブルは最終戦まで全力を尽くして戦っていましたので、けっこう疲労困憊だと思います。そういう状況を加味すると、今年はまたメルセデス、レッドブル、フェラーリの三つ巴になる可能性がありますし、なってほしいですよね。

F1カメラマンが語り合う角田裕毅の素顔と可能性。エンジニアとの不仲説も「チーム内で人気があって、愛されている」

角田選手の活躍が「楽しみで仕方ない」と熱田氏

ーー2022年シーズンは開幕戦のバーレーンGP(決勝3月27日)を皮切りに史上最多の全23戦が予定されています。おふたりの今シーズンの取材への意気込みを教えてください。

熱田
 僕はスペイン(2月下旬)とバーレーン(3月上旬)でのテストはお休みして、開幕戦から取材を開始します。今シーズンも楽しみが多いですが、またコロナの感染者が増えています。取材前の書類の準備や移動手段のことなどを考えると、本当にため息しか出ません(笑)。でも今年も全戦取材するつもりですし、日本GPは絶対にやってほしいですね。

桜井 もう2年も開催されていませんからね。鈴鹿で撮りたいですね。マシンのレギュレーションが変わり、新時代のF1がいよいよ始まります。どんなマシン、レースになるのか、すごく楽しみです。2月のスペイン・バルセロナでのテストに取材に行きますので、そこから全開で行きますよ!

(特別編につづく)

【プロフィール】 
熱田 護 あつた・まもる 
1963年、三重県鈴鹿市生まれ。2輪の世界GPを転戦したのち、1991年よりフリーカメラマンとしてF1の撮影を開始。取材500戦を超える日本を代表するF1カメラマンのひとり。2021年シーズンもコロナ禍のなかで全22戦の取材を敢行。今年3月3日に30年ぶりにタイトルを獲得した第4期ホンダF1の記録をまとめた写真集『Champion』(インプレス)を発売予定。「感動的なシーズンを、僕の写真で振り返ってもらえればうれしい」(本人談)。

桜井淳雄 さくらい・あつお 
1968年、三重県津市生まれ。1991年の日本GPよりF1の撮影を開始。これまでに400戦以上を取材し、F1やフェラーリの公式フォトグラファーも務める。新型コロナの影響で2020年シーズンの現場での取材を断念したが、2021年シーズンからは再開。今季は2月末にスペイン・バルセロナで開催されるテストから取材を開始予定。YouTubeでは『ヒゲおじ』としてチャンネルを開設し、クランプリウィークは『ヒゲおじ F1日記』を配信中。