2022シーズンF1注目ポイント@中編

 待ちに待った2022シーズン開幕。ホンダF1が有終の美を飾ってから早3カ月、最速を目指す世界各国のトップドライバーが再び集結した。

バーレーンGPから始まる今季23戦のレースでは、果たしてどんなドラマが待ち受けているのか。今季F1を楽しむ注目ポイントをピックアップする。

◆F1注目ポイント@前編はこちら>>「今季F1フェルスタッペンの対抗馬は?」

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角田裕毅に「2年目のジンクス」は心配なし。新生ホンダも202...の画像はこちら >>

開幕前テストでも冷静に仕事をこなした角田裕毅

(4)角田裕毅「2年目の飛躍」なるか?

 デビュー1年目の昨シーズンは大きな期待を受けながらも、不本意な結果に終わってしまった角田裕毅。だが、1年間の経験でよくなかったところを学び、それらを改善して開幕に臨んでいる。

 ドライビング技術やマシンに対する理解度だけでなく、レース週末の戦い方、そしてトレーニングやエンジニアとのコミュニケーションといったレースに対する心構えなど、角田は自分の甘さに気づいた。F1で成功を収めるために必要なことを学んだという。

 アルファタウリのフランツ・トスト代表や、レッドブルのリザーブドラバーを務めていたアレクサンダー・アルボンなど、周囲の人々に恵まれた点も大きい。

 2022年の角田は「何をどうすればどんな結果になるのかが見えている」と言う。だから根拠のない自信で荒唐無稽な目標を立てて、その理想と現実の違いに焦ってオーバードライブするようなことはなくなるだろう。そして、それによって引き起こしてしまったミスに萎縮してしまうこともなくなるはずだ。

 開幕前テストから冷静な姿勢で自分の仕事をこなし、チームからはピエール・ガスリーとまったく同等のテストプログラムを任された。

 最終日最後のC5タイヤによるアタックランをまとめきれなかったことには本人も悔しさをにじませていたが、2日目には57周連続のフルレースシミュレーションを完走して見せた。

ペースやタイヤのデグラデーション(性能低下)ともに上々とは言えなかったが、そこから修正すべきポイントを学ぶことができた。アタックラップのミスも同じだ。

 テストの結果としては、100点とは言えなかった。だが、そこから学んで開幕戦にしっかりと準備を整えることができれば、内容としては100点だったということになる。

 もちろん角田のシーズンの行方は、アルファタウリ自体のパフォーマンスに大きく左右されることになるだろう。フランツ・トスト代表は「我々が中団グループにいることは間違いない。

今年はこれまで以上に大接戦となり、昨年見せていたような予選で4~6位に入るようなことは難しくなるだろう」と予想している。

 ただ、マシンの勢力図がどうであろうと、ドライバーに課せられた使命はマシンの性能を最大限に引き出すことだ。

 そういう意味においては、角田裕毅が「2年目のジンクス」に直面する理由は今のところひとつも見当たらない。マシン性能に左右される"結果"はさておき、今シーズンの"内容"としては、昨年を大きく上回る成果を見せてくれるはずだ。

(5)新生HRCで戦うホンダの戦力・体制は?

 ホンダは2021年かぎりでF1から撤退した。しかし開幕前テストには、今までどおりホンダのメンバーたちの姿があった。

「レッドブルパワートレインズ」という名称ではあるが、パワーユニットの開発はHRC(ホンダ・レーシング)がすべて請け負い、製造・組み立てもHRD Sakuraを中心に従来どおりの場所で行なう。

 パワーユニットの制御セットアップも、レース現場では日本から出張で出向くHRCスタッフと、ホンダのミルトンキーンズ現地採用からレッドブルパワートレインズに移行したメンバーが半々で運用。より広範囲なテレメトリーデータの監視やセットアップ作業は、HRD Sakuraにあるミッションルームに詰めた数十人のエンジニアが行ない、レッドブルとアルファタウリに対して従来どおりワークスチームとしてのサポートを提供する。

 つまり、変わったのは名前だけで、実態は何も変わってはいない。

 当初は自社ファクトリー内に新設したレッドブルパワートレインズで制御・運用を行なおうとしていた。だが、あまりに複雑な現代のパワーユニットはそう簡単に扱える代物ではないということがわかった。

組み立てやベンチテスト等も特殊な技術屋設備がなければできないため、レッドブルパワートレインズはHRCに委託するかたちですべてホンダの手にパワーユニットを任せたというわけだ。

 マシンに描かれたロゴは控え目だが、実態は今までと変わらず、ホンダの面々はこれまでどおり勝利にこだわって全力で戦う。レッドブルとアルファタウリは今年も好成績を挙げていくことだろう。少なくとも、それが2025年までは続くことになりそうだ。

 気になるのは、パワーユニット規定が変わる2026年以降のこと。だが、名前は違えどもこうしてF1界にとどまり、最新の技術と触れ合い続けていれば、再びホンダ(もしくはHRC)としてF1に参戦する可能性もそれだけ大きくなる。

 F1撤退の理由となった「カーボンニュートラル時代に向けた革新技術の発明」に目処が立てば、その情熱と自由な発想のベクトルは再びF1という場に向けられてもおかしくはないだろう。

(6)今季唯一のルーキー、初の中国人ドライバー周冠宇

 今年はF1デビューを果たすルーキーがひとりしかない。昨年のFIA F2選手権を圧倒的な速さと強さで制したオスカー・ピアストリ(20歳/オーストラリア)は、所属するアルピーヌのシートが空いておらず、下位チームでキャリアを棒に振るリスクは避けてF1昇格を見送った。

 代わってF1デビューを果たすのが、同じアルピーヌ育成でFIA F2ランキング3位となった周冠宇(ジョウ・グァンユー/22歳/中国)だ。

 昨年の周はF1昇格を意識したレース運びが災いし、速さやバトルでピアストリに差をつけられる場面が目立った。しかし、所属ドライバーがそれぞれランキング1位・2位になったプレマに比べると、周が所属したUNIビルトゥオーシはチーム力で劣ってもいた点を忘れてはいけない。

 もともと一発の速さというより、タイヤマネージメントやレース巧者ぶりを持ち味にしていた周。F1に昇格してからも開幕前テストで着実に走り込み、安定した走りを見せていた。

 アルファロメオはマシンが軽く仕上がっており、バルセロナ合同テストではトラブル多発に泣いたものの、バーレーン合同テストではバルテリ・ボッタスがC3タイヤながら5番手タイムを記録するなど、昨年までとは打って変わってマシンの素性のよさに注目が集まっている。

 素性のいいマシンと、政治的な動きをしないベテランのボッタス、そして過去にはキミ・ライコネンやフェリペ・マッサ、セルジオ・ペレス、小林可夢偉、最近ではシャルル・ルクレールなど若手育成に定評のあるザウバー母体のアルファロメオとあって、ルーキーの周冠宇にはいい環境が整っている。

 史上初の中国人レギュラードライバーの周が活躍すれば、中国でのF1人気の急拡大も考えられ、F1に関わる多くのメーカーが期待を寄せていることも事実だ。アルファロメオも周を使ったプロモーションに熱心で、すでにチームには多くの新規スポンサーも加わっている。そしてもちろん、F1そのもののファン層拡大にも大きく貢献することになるだろう。

 来季のシートを確保するにはシーズン前半戦できちんと実力を証明しなければならず、周にとっては決して楽な状況ではない。今季は90分に戻されるはずだった金曜フリー走行が3日間開催の影響で、再び60分となってしまったことも彼にとっては不運だろう。

 だが、3年間のFIA F2参戦で多くのサーキットを習熟していることも事実。18インチタイヤもすでに2年経験してある。プレッシャーのかかるシーズン前半戦になるが、多くの期待に応える走りを見せてもらいたい。

(後編につづく)