矢地祐介インタビュー 前編

 10月23日に開催される『RIZIN.39』(マリンメッセ福岡A館)で、矢地祐介が再起戦に臨む。相手は、南アフリカのボイド・アレン(16勝4敗1分)となった。



 矢地は2021年、川名"TENCHO"雄生、当時のDEEPライト王者・武田光司に連勝して波に乗ったかに思われたが、同年末にホベルト・サトシ・ソウザ、そして今年4月にルイス・グスタボと連敗を喫した。「対外国人選手との闘い」をテーマに掲げる矢地に、現在の練習環境、連敗から見えた課題、その後の進化を聞いた。

矢地祐介、RIZINで再び輝くために。「理想は青木(真也)さ...の画像はこちら >>

『RIZIN.39』で再起戦に臨む矢地

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――矢地選手は2020年12月、自身のYouTubeチャンネルでフリーになることを発表しましたが、現在の練習環境は?

「ロータス世田谷で、火・木の2日間はMMA、金曜日にグラップリングと組み技の練習です。あとは、代々木にあるリバーサルジム東京スタンドアウトで打撃のトレーナーをつけた練習をして、たまに駒沢のIGLOOに寝技を練習しに行く感じですね。日曜以外は練習してます」

――山本KID徳郁さんは、自身のジムKRAZY BEEに所属していた矢地選手の練習量に驚いていましたね。

「昔はさんざん練習してましたね。
1日に2、3回にわける形でやっていましたが、年齢を重ねるごとにボリュームのある1回の練習をしっかり集中してやるように変わりました。青木(真也)さんをはじめ、練習仲間もレベルが高い選手ばっかりなので濃い練習ができてます」

――特に強化しているポイントはありますか?

「去年の春ぐらいからずっと、自分の苦手なところをいかに潰すかに重点を置いて、そのために必要な新しい技術を学んでます」

――苦手なところとは?

「俺は、どうしても相手のペースで戦っちゃうんですよ。『横綱じゃないのに横綱相撲をしちゃう』というか、相手の得意なところで戦っちゃう。よくも悪くも試合は盛り上がることが多いんですけど......勝負なんで、勝つためには相手のよさを潰して自分のいいところを出す作業が大事。そこを見直して、自分のペースを見直すというか、『自分を押しつける』という練習をやってます。

 あとは、基礎と基本。
組み技も打撃も、トレーナーがしっかりついていたことがなかったんです。だから構え、手の位置、ジャブの打ち方といった基本からやっています」

外国人選手を相手に見えた課題

――練習環境を変えて、川名"TENCHO"雄生選手、武田光司選手に連勝と結果を出したあとに2連敗。外国人選手が相手となると勝手が違いますか?

「それがまさに俺の課題です。日本人選手は合わせてくれる選手が多いんですけど、外国人選手はもともとリズム感も違うし、"パワープレー"で全部のやり取りを無視してくる選手がすごく多い。直近の2戦は、改善しようとしていた自分の悪いところが出てしまって......。

 サトシ戦は、よくない言い方かもしれないけど『しょうがない』というか、練習の成果的にも時期尚早だったかもしれない。でも、2回目のグスタボ戦は本当に自信を持って臨んだんですよ(1回目の試合は2018年8月12日。

結果は2ラウンドKO負け)。そこで結果が出なかったのは、やはり相手に合わせてしまうところが露骨に出てしまったから。そこが、外国人選手相手にうまくいってない原因だと思いますね」

――グスタボ戦後、矢地選手が控室に座り込んで「すげ~虚無感」と落ち込んでいる様子が印象的でした。そこから気持ちを切り替えるまで時間はかかりましたか?

「ホントに自信があったし、サトシ戦が決まる前からずっと『グスタボとやりたい』と言っていた。ビザなどの関係で今年の4月まで試合が延びて、そこで絶対リベンジできると思ってたのに、1回目と同じやられ方(パンチでのKO)をしたので本当に落ち込みました。

でも、自分の悪さをあらためて知れたというか、外国人選手の特徴、やり取りを無視して自分を押しつける部分がやっぱり足りないんだと痛感して。
打撃、寝技とかそれぞれは仕上がっていても、その"間"のところがもっと大事だったんだと。逆に『そこをやるだけだ』と切り替えました」

――シチュエーションごとの練習はできているから、「そこにどう持っていくか」ということですか?

「そうです。『アプローチ』って言い方になるんですかね。打撃から組みに行くアプローチとか、プレッシャーのかけ方とか、そういう部分が全然足りていなかった。練習を一緒にやってる青木さんはわかりやすいですよね。自分の得意な領域、メーターが突き抜けてる寝技、グラップリングに引き込むために、試合開始と同時にバーッと前に出て組みにいく。
打撃もうまいんで、最近は蹴ったりして展開を作っていますけど、ちょっと前までは始まった瞬間に両手を広げて組みついてフィニッシュしちゃってた。

 でも、あれが試合であるべき姿じゃないかと。『きれいに闘う』とか、『相手の攻撃を誘って』といったことはまったく必要ない。総合格闘技では、相手のいいところを出させないで勝ち切るのが1番の理想。そういう部分が自分には足りていなかったと思いますね」

外国人選手と闘って「自分を試したい」

――グスタボ戦はどんなプランで臨んだんでしょうか。

「組みにいきたかったんですよ。

プレッシャーをかけて、押しつけてケージ(金網)際で組んで、テイクダウンして削る。それで最終的に1本を取るプランだった。でも、結局は相手のプレッシャーで自分がケージを背負ってしまった。

かなり細かいところだと、試合前には『相手のうしろの空間が大きい時は組みにいかない』と決めてました。流されることもあるし、うまくケージに押しつけられないことが多くなるだろうと思ったので。なので、打撃でしっかりプレッシャーをかけて下がらせて、ケージまで1、2歩というところで組みにいこうと。でも、組みにいく選択肢を取れるところまで、展開を持っていけませんでした。

ずっと打撃につき合って、ケージを背負って、いなしてを繰り返して......結局は捕まってしまった。やっぱり、強引にプレッシャーをかけて、押しつけてテイクダウンみたいな、相手の動きに関係ない感じでやればよかったですね。一発もらってでもいいから、中に入り込んで振ってテイクダウン、みたいな。特に外国人選手を相手にする時は、そこの駆け引きが重要ですね」

――試合前、プランはいくつくらい用意するんですか?

「プランは最低で2、3くらい考えて、自分がフィニッシュする攻撃や武器も3つくらい用意しています。それでしっかり試合に臨むんですが、そこにどう持っていくかの大事さをグスタボ戦で気づかされました」

――外国人選手のフィジカルの強さという点はいかがですか?

「もちろん人それぞれですが、外国人選手はシンプルなパワー、身体能力が高い傾向にあるのは間違いありません。相手のペースに持ち込ませず、"出力"だけでくる感じもありますね」

――今年4月のグスタボ戦はケージで行なわれました。リングと比べてどちらが得意ですか?

「ケージですね。リングも苦ではないんですけど、ケージで試合が決まった時のほうが『おっ、やった』と思うのは確かです」

――矢地選手にとってケージのよさは?

「特に組みに関してはケージのほうがいいですね。試合では十分に出せてませんが、ケージ際の4点ポジション(両肘と両膝をマットにつけた状態)の攻防も好きですし。スタンディングからのテイクダウンも、リングだと頭をロープの外に出されたり、ロープを掴んで攻防が止まってしまうことも多いんで、ケージのほうがストレスなく闘える感じです」

――日本でケージがあるジムは少ないと思うんですが、どのように練習を?

「今はクッションがついた壁に囲われてる、"疑似ケージ"の環境で攻防を練習してます。金網のようにたわむことは無いんですけど、ほぼ変わらないですね。意外と、日本の環境でもケージの練習をしている選手のほうが多いかもしれません。リングがしっかりある総合のジムってあまり無いですし」

――そうした練習を重ねつつ、当面のテーマは「対外国人選手」になりますか?

「自分のステップアップのために、外国人選手と戦って世界で名を上げていきたい気持ちは強いです。だから『外国人選手とやりたい』って『RIZIN』には伝えてますし、あちらも『外国人選手と戦う矢地くんが見たい』と言ってくれてます。もちろん、興味がある日本人選手はいますけど、今は海外の選手とやって試したいことがたくさんありますね」

――日本人選手とも、タイミング次第では戦う可能性がある?

「もちろん、気運が高まれば。強い日本人選手もたくさんいるし、若い選手も出てきていて、そういう選手と手合わせしたい気持ちもあります。ただ、意味がある戦い、ストーリーがちゃんとできてからやりたいので、今はやっぱり外国人選手とやりたいですね」

――相手選手の名前は明かされていませんが、9月にSNSで話題になったオファーの「ゴチャついた話」の伏線も、のちに回収する可能性がありそうですか?

「そうなるかもしれないですね(笑)」

(後編:「自分の可能性をまだ信じてる」。夢のUFC参戦を目指し、シン・ヤッチくんは「今、格闘技がすごく楽しい」>>)