Sportiva注目若手アスリート「2023年の顏」
第16回:クロスリー真優(テニス)
2023年にさらなる飛躍が期待される若手アスリートたち。どんなプレーで魅了してくれるのか。
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クロスリー真優(16歳/エバートテニスアカデミー所属)
ここに「テニスとの出会い」と題された、一枚の写真がある。
子ども用のテニスラケットを手にした幼い少女が、初老の男性に手ほどきを受ける、微笑ましい光景だ。1月にもかかわらず、ふたりともに半袖の出で立ちが、温暖な気候を物語る。
それから12年──。16歳になった少女は、テニスと出会った町にほど近いフロリダ州ボカ・ラトン市で新しい年を迎えた。
彼女の名は、クロスリー真優。
2021年の8月に生まれ育った東京を離れ、往年の名選手クリス・エバートが運営するアカデミーを拠点として、夢への道を歩み始めた。
2019年には、全日本ジュニア選手権14歳以下部門で優勝。国内トップジュニアだった彼女は、2022年末にはアメリカ開催のジュニア国際大会『エディ・ハー』と『オレンジボウル』で連続優勝を成し遂げた。
これらはいずれも「プロへの登竜門」と呼ばれる最高グレードの大会。しかも、16歳ながらクロスリーが制したのは18歳以下の部。
現在のジュニアランキングは17位。世界の表舞台にさっそうと躍り出た彼女は、今、何を思い、どこを目指しているのか?
連続優勝の余韻も残る昨年末、エバートテニスアカデミーからリモートで単独インタビューに応じてもらった。
── エディ・ハーとオレンジボウルの連続優勝、おめでとうございます。この結果は、ご自分ではどう捉えていますか?
「ここまでいけると思っていなかったので、意外でした。ただ、エディ・ハーの3回戦で逆転勝ちしたのが大きかったと思います。
相手も強い選手(ペルー出身の1歳年長選手。Jr.ランキング23位)で、1セット目は自分らしさが出せずに落としたんです。そこから、自分のテニスをしようと思ったら勝てたので、自分のテニスが通用するんだなって思えた、すごく自信になった試合でした」
── 真優さんの言う「自分のテニス」とは、どのようなプレーなのでしょう?
「まずは相手としっかりラリーをして、そこから相手の弱点を探して崩したり、打つコースを考えながら相手の逆をついたりと、いろんな組み立てができるのが強みだと思います。小さい頃から頭を使って、相手の嫌なことをするテニスが得意でした」
── テニスはいつ頃から始めたのですか?
「フロリダに祖父母が住んでいて、今もエバートアカデミーからクルマで1時間くらいのところにいるんです。子どもの頃は冬休みにお爺さんの家によく行っていて、そこで小さなラケットを買ってもらい、遊びで始めました。
スクールに通い始めたのは、小学2年生の頃。
── テニスを選んだのは、どういう理由からでしょう?
「サッカーなども楽しかったんですが、個人的にテニスが合っていたというか......。テニスは自分ひとりでやり、全部自分で決められる。そこが楽しかったんだと思います」
── エバートアカデミーには、どのような経緯で行ったのでしょう?
「海外を拠点にすることには、もともと興味があったんです。その時、海外留学を支援している会社からもお話をいただいて、いろんなアカデミーを見学させてもらいました。そのなかで一番、自分に合っているのがエバートアカデミーだと思って選びました。
IMGアカデミーなどに比べると大きくはなく、家族的な雰囲気もあって。
── 環境面でいいのは具体的にどんな点ですか?
「施設やコートもいいですし、日本ではできないような練習がここではできます。日本にいたら練習時間やコートの環境に限界があるので。コートサーフェスも、日本はオムニ(砂入り人工芝)が多いですが、私はハードコートが好きだし、自分のテニスはハードコートに合っているなと感じていたんです。
日本にはハードコートもクレーコートもほとんどないので、そういうところも含めて海外でやりたいなと思っていました。エバートアカデミーにはハードとグリーンクレーのコートが合わせて30面近くあります」
── そのような環境で練習することで、上達したと感じる点はありますか?
「あります。フットワークがよくなったし、スライド(コート上を滑る動き)もうまくなったし、ドロップショットなどクレーで効果的な技術もうまくなったと思います。
── クリス・エバートに教えてもらうこともあるんですか?
「あります。ほぼ毎日というか、アカデミーにいる時はレッスンを見にきてくれるし、アドバイスもくれます。ボレーの技術の細かいことを教わることが多いです。もっと前に入ってボレーを使うようにも言われていて、前に入る動きをすごく教えてもらえています」
── アメリカに来てから、自分のプレースタイルは変わりましたか?
「やはり、前に入る動きがすごくよくなったと思います。日本にいた時はほとんどベースラインから打っていて、ボレーはあまりしなかったんですが、こちらに来てから前後の動きをすごく取り入れています。
ラリーでもベースラインから下がらずテニスができるようになったと思います。以前はベースラインから下がってしまい、自分から攻撃することが難しかったんですが、今はベースラインに近いところでテニスができている。自分から展開しやすいので、ドライブボレーを使って相手の時間を奪ったり、攻撃的なテニスに変わったと思います」
── エバートアカデミーでの生活環境や、日常のタイムテーブルを教えてもらえますか?
「エバートアカデミーのなかに学校も寮もあって、寮に住んでいます。朝7時から10時までがテニスの練習。オンコートとフィットネスもやります。10時半から午後2時半までが学校。午後3時から5時までは再び練習で、オンコートが中心です。そのあとに寮に戻って夕食を食べて......という感じです」
── 寮の食事はいかがですか?
「うーん、おいしくないです(笑)。日本食が食べたいです。ご飯が好きなので、自分でおにぎりを作ったり。寮では料理はできないので、おじいさんの家で作って持っていったりしています」
── 練習はどんな人たちとやっているのでしょう?
「男子の選手と練習することが多いです。二日に一度くらいはコーチのプライベートレッスンを受けたり。でも基本は、男子と練習することが多いですね」
── プロの選手と練習する機会もあるのですか?
「いろんな選手が練習に来るので、間近でプロの練習を見ることができます。大坂なおみ選手やカロリナ・プリスコバ選手も来たことがあって。
プリスコバ選手は日本にいた時、イベントで一緒に打たせてもらったことがあったんです。すごくかっこよくて、その時から好きな選手。エバートアカデミーに来た時も少し話して、一緒に練習させてもらいました。先日はソフィア・ケニン選手が来て1時間以上、練習させてもらえたんです」
── 大坂選手の名前も出ましたが、彼女の存在は刺激や目標になりますか?
「刺激にはなりますが、テニスとしてはあまり......。プレースタイルも、体格も、ぜんぜん違うので(笑)」
── アメリカや欧州の環境が日本と一番違うのは、いろんなタイプの選手がいることだと聞きます。真優さんもそれは感じますか?
「感じますね。アメリカにいてもヨーロッパの選手と試合することが多かったり、アメリカの選手とヨーロッパの選手もタイプが全然違ったりして。『こういうテニスがあるのかー』と思ったりします」
── それは、たとえばどんなタイプの選手でしょう?
「全部サーブ&ボレーしてくる選手とか、全部のボールで前に出てきて、ぜんぜんラリーをさせてもらえない選手とかもいて......ウザッ、みたいな(笑)」
── ホームシックやカルチャーギャップに苦しむことはありますか?
「一番は食事ですね。テニスではそんなにつらいことはないです。ただ、学校に行きたいというか......日本の高校生活を送りたかったな、というのはあります」
── 日本での真優さんの同期には、木下晴結選手や齋藤咲良選手など、グランドスラムジュニアに出場したり、すでに一般の大会に出てランキングを持っている選手もいます。彼女たちは意識しますか?
「どちらかというと、友だちという部分が大きいです。試合で当たることも本当に少ないですし、アメリカが拠点になったらなおのこと試合はしないので。
この間、ジュニアBJKカップ(ジュニアの国別対抗戦)で久しぶりに会ったんですが、ぜんぜん変わってないなって思いました(笑)。1年以上会ってなかったのに久しぶりという感じにならなくて、くだらないことで笑ったり。仲間という感じが強いです。ただ、ふたりともグランドスラムジュニアに出ているので、自分も出たいなと思いました」
── 2023年は、ジュニアと一般の大会のバランスも含め、どのように試合に出ていこうと思っていますか?
「グレードの高いITFジュニア(国際テニス協会公認の国際大会)の試合にたくさん出たり、WTAの試合にも出ていろんなプロの選手とも戦いたい。どんどん学んでレベルアップしたいです。グランドスラムジュニアでは、ベスト4以上に行きたいです」
── 最後に、将来の夢や目標を教えてください。
「みんなに応援される選手になりたいです。いろんな人から応援してもらえたり、憧れられる選手になりたいなって思います。
それはプレー面もそうですし、テニス以外のところでも、人間として愛される人になりたい。ふだんの態度や発言も含めて、子どもたちが目標にするような選手になりたいと思っています」
フロリダ時間の朝にインタビューを終えた彼女は、すぐにでもテニスコートに飛び出していきたい様子だった。
「テニスは大好き。1週間くらいオフを取ったんですが、数日したら『あーやりたいなー』と思いました」
そう明るい笑みをこぼし、「テニスが楽しいのは、練習すればするほどショットの精度も上がり、自分の成長を感じられる点」だと明言する。
今季は「一番好きな大会」である全豪オープンの、ジュニア部門に出る予定。
渡米と同時にテニスで生きる覚悟を固めた16歳は、新シーズンの始まりとともに、夢への本格的なスタートを切る。
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