花田秀虎インタビュー(後編)

◆花田秀虎・前編はこちら>>「なぜ元アマ横綱がNFLに挑戦?」

 毎年、NFLのドラフト前にはドラフト候補選手たちが一堂に集まり、コーチやスカウトたちの前で身体能力の測定やスキルを見せるコンバインが催される。

 身体能力測定ではさまざまな種目が行なわれるが、花田秀虎(はなだ・ひでとら/21歳)が挑戦するディフェンスライン選手の場合だと、40ヤード(約38.58m)走は平均5秒程度(ポジションを問わず最速の選手は4秒2~3で走る)、225パウンド(約102.01kg)を何度上げられるか測定するベンチプレスでは30回から40回程度だとされる。

 花田が憧れるアーロン・ドナルドは、2014年ドラフトでロサンゼルス・ラムズから1巡目全体13位で指名された逸材で、NFL入りの時点でのベンチプレスの回数は35回だった。

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「1対1ならアメリカ人に絶対負けない」NFLを目指す21歳、...の画像はこちら >>

花田秀虎は日本人初のNFLプレーヤーを目指す

── 花田選手の40ヤード走やベンチプレスの数値はどれくらいですか?

「40ヤードは、直近で測った時は5秒01でした。4秒台は絶対に出さないといけないと思っています。今、だいぶ走り方も変わってきている感じなので、4秒9台は絶対に出ます。

 ベンチは非公式な上げ方になってしまうかもしれませんが、一番調子のいい時だと200kgを上げています。180kgなら3発は普通に上がるところです。

NFLコンバインの方式だと29回。30はいけていません。30台後半はいきたいなと思っています。

 一発のパワーは強くなっていますが、筋持久力がまだないところもあるので、そこを作っていけたら絶対にできると思います。40回くらいは上げるつもりで練習しています」

── ディフェンスラインの選手に求められるのは、NFLの世界でもパスラッシュ(相手クォーターバックにタックルにいく積極的な守備)ですか。

「そうですね。

やっぱり1対1の強い奴がすごいです。僕はまだまだ切れ味が悪く、粗削りではあるんですけど」

── 相撲の話に戻りますが、今年の初場所では幕下15枚目格付け出しで全勝優勝を果たし、史上最短の1場所で新十両に昇格した落合関(宮城野部屋/19歳)とは仲がいいそうですね。

「彼はもう、本当にすごいです。めちゃくちゃ刺激を受けていて『負けてられないな』っていう気持ちになります。彼から学ぶことはたくさんあって。また、彼自身も僕のことを尊敬してくれているというか、ついてきてくれているという感じです。

 お互い切磋琢磨しながら、いろんなことを学んでいます。彼とはライバルというより、仲のいい友だちみたいな感じ。大きな存在です」

── 花田選手のアメフト挑戦について、落合関と話したりしますか?

「『アメフトの防具をつけて、思いっきり当たりあって、どっちが強いかやりたいな』みたいなことは言ったりしています(笑)。あとはトレーニングの仕方や食事について、けっこう頻繁に聞くこともあります。

 彼のマインドセットは独特で、まわりと違う取り組みをしているところがあって。僕もけっこうそういうタイプなので、お互いに意見交換をしていますね」

── 落合関は花田選手より2歳年下ですが、けっこう意見を求めたりするんですね。

「聞きますね。僕のスタンスは、いろんなものを誰からでも学ぶということ。僕は変なプライドとかまったくないですし、落合はすごい選手なので、いろんなことを聞いて勉強しています」

── アメフトをプレーするうえで、どういったところに難しさを感じていますか?

「アサイメント(各ポジションに割り振られた動きの役割)を覚えても、実際にプレーするとなると右も左もわかんなくなって焦っちゃうんです。相撲は目の前にいる相手を倒せばいいだけ。(頭に入れる)情報は多くなくて、削られて、削られて、結局、自分との戦いです。

 だけど、アメフトは本当に情報量が多くて。

(ディフェンシブラインの後方に構える)ラインバッカーとの連係もありますし、横との連係もありますし、しっかりサインを見て『この体形だ』と理解しないといけないです。

 いろんな情報量に戸惑い、100%のパフォーマンスを出せていないのが、僕の今の課題です。もっとアメフトに慣れて焦らないようになり、冷静に100%の力を出せるようにならなければダメだなと認識しています」

── 1対1ではすでに圧倒的な力を発揮していると聞いています。アメフトのディフェンスラインは手を地面についたところからプレーを始めるので、相撲の経験が生きているのでは?

「そうですね。アメフトはコンタクトスポーツで、1対1の対決が前提としてあります。『1対1の究極のスポーツ』は相撲じゃないかと思うのですが、そこでそれなりに勝てていたのは大きな経験値になっています。

1対1なら、アメリカ人にも絶対負けない自信があります」

── 昨年7月に米アラバマ州で行なわれた「ワールドゲームズ相撲競技」の115kg超級で、花田選手は金メダルを獲得しました。あの大会で初めて外国人選手と対戦したのですか?

「いえ、高校の時に世界相撲選手権で2連覇した時、外国人選手と戦っています。ただ、極端に体のでかい奴との対戦は、シニアではワールドゲームズが初めてでした」

── 外国人のパワーというのは、やはり違うものですか?

「やばいですね。やっぱりワールドゲームともなると、各国の力自慢がいっぱい出てきます。身長2メートルで体重180kgの選手はザラにいて......。ただ、そういう面では慣れているので、ドリームボウルでのアイビーリーグの選手たちも背は高いんですけど、『うわあ、めっちゃでけえな』とびっくりするというのはなかったですね」

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 花田がNFL入りを目指すにあたり、今後考えられるルートは原則ふたつある。

 ひとつはNFLが2017年に立ち上げた「インターナショナル・プレーヤー・パスウェイプログラム(IPP)」という非北米出身選手の発掘を主眼としたものを経て。そしてもうひとつは、アメリカの大学でのプレーを経て、となる。

 NFL選手になるために「英語の習得は必須」という目的もあり、花田は後者の道を模索している。そのために現在、TOEFL(英語圏の大学等への入学に必要な英語試験)の点数取得のため、勉強にも励んでいる。

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── 花田選手は今、アメリカの大学への進学を目指しているそうですね。

「まだどうなるかわからないですけど、アメリカの大学に編入という形で進めようかなと考えています。僕の今の最適解は、アメリカの大学に行って、言語もフットボールも覚えることかなと。そこからいろんな選択肢が増えると思うので」

── IPPの道も残しつつ、という感じでしょうか。

「もう判断しなきゃいけないところですが、まだ決まってなくて。いろんな選択肢があるなかで、アメリカの大学に行って、2~3年、言語面もフットボールも覚えて、そこからIPPっていうルートもなくはないです。

 これまでIPPに挑戦した日本人選手で懸念された点が『言語と年齢』だったと聞いています。言語は大学で習得できますし、フットボールもNCAAでやった経験が加算されると思うので、そこからIPPっていうのも悪くないです」

── アメリカの大学へ行くとなると、今年の秋からの入学を目指しているのですか?

「そうですね。となると3月に出願なので、もうそろそろ英語の点数も(期限が)どんどん近づいていて、点を取らなきゃいけないプレッシャーもありますね」

── NFLはどういう人たちの集まりだと思っていますか?

「ドリームボウルのアイビーリーグ選抜は頭のいいトップ校の選手たちの集まりでしたが、それでもすごいフィジカルを持っていて、速いし、強い。これが(全米一になるような)アラバマ大やLSU(ルイジアナ州立大)でやっている奴らってどんなんだろうと......。

 その上にNFLというもっとレベルの高いところがある。そう考えたら、本当にすごいところに挑戦するなっていう実感がふつふつを湧き上がってきます」

── ワクワク感が勝っていると。

「そうですね。怖いという感じではなくて、戦いたい。ブチのめされても這い上がって、次はうちのめしたい気持ちです」

── NFLでは相手と押し合いへし合いとなって、ケンカのような状況になることもあります。

「僕は相撲という感情を出しちゃいけない競技をずっとやってきたので、怒るようなこともないというか、慣れていないというか......。

 イラッとするようなダーティープレーもあると思いますし、感情をむき出しにするのがアメフトなので、そこの切り替えもちゃんとしなきゃいけないなと。メンタルでは絶対に負けないっていう強い意志を持っていかなきゃと思います」

── やられても引かないぞ、という気持ちですね。

「そのスタンスは持っておくべきだと思っています。ただ、日本人なので『侍魂』は持っておきたいなと。やり返すとかじゃなく、日本人の誇りを持って挑みたいなと思っています」

── NFLでは日本人選手が誕生しておらず、競技自体も日本ではマイナーな存在です。自分が行くことでアメフトやNFLの魅力を伝えたいという気持ちもありますか?

「日本ではマイナースポーツですが、NFLがどれだけすごいかっていうのを、まだみんな知らないと思います。NFLに挑んだことのある河口正史さんや栗原崇さんなどがそれを伝えようとしてくれていましたけど、僕も日本を熱くしたいです」

── 最近は大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)などグローバルな活躍を見せる日本人選手が増えています。意識はしますか?

「サッカーの久保建英選手(レアル・ソシエダ)や佐々木朗希選手(千葉ロッテマリーンズ)は同い年なので、そういう人たちが活躍しているのを見ているとすごく悔しいし、ジェラシーじゃないですけど『僕も負けてられない』っていう気持ちが出てきます。

 大谷選手は人間としても、野球選手としてもすごく尊敬していて、彼に関する本も読んだりしています。大谷選手は僕が今、一番尊敬しているスポーツ選手ですね。

 でももし僕がNFL選手になったら、アメリカのスポーツではアメフトのほうが人気は上なので、超えられるというか。そういう目標も、僕のモチベーションだったりします」


【profile】
花田秀虎(はなだ・ひでとら)
2001年10月30日生まれ、和歌山県和歌山市出身。小学2年時から相撲を始める。和歌山商高では1年時に全国高校選抜大会・個人戦で優勝。2年・3年時には世界ジュニア選手権の無差別級で2連覇を果たす。日体大に進学後の2020年、全日本相撲選手権で優勝して「アマチュア横綱」となる。大学1年での優勝は1984年の久嶋啓太(元・久島海)以来36年ぶりふたり目。現在、日体大を休学してアメフトNFL選手を目指している。185cm、130kg。