WWEから再び日本のリングへ

Sareeeインタビュー 後編

(前編:「警察を呼ばなくちゃ!」デビュー戦直前のアジャコングの乱闘でパニックになった>>)

 米プロレス団体WWEでの活躍を経て、再び闘いの場を日本に移した女子プロレスラーのSareee。インタビューの後編では、WWEのリングの印象や、中邑真輔らに支えられたアメリカでの生活、日本に戻ってやり遂げたいことなどを聞いた。

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WWE時代のSareee(写真:本人提供)

【WWEでプロレス人生の第2章がスタート】

――2020年2月、自身のSNSでWWEへの入団を発表しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で渡航制限がかかってしまいます。WWE所属のまま、日本国内での試合許可が出たのは同年8月のことでしたね。

Sareee:そうですね。「WWE Count Down」という形で、いろんな団体に出させていただきました。この時期はWWEと契約をしていましたが、フリーに近い形で活動できたので楽しかったです。

――渡米前、ジャガー横田さんと長与千種さんが「Sareee選手の魅力は『気の強さ』だ」と話していました。長与さんは、「技の強さ以上に、世界を動かす気の強さを持っている」と強調していましたね。



Sareee:すごく「気が強い」って言われるんですけど......負けたくないだけなんです(笑)。井上京子さんや伊藤薫さんなどと比べると体型は劣りますけど、負ける気は一切しない。すごく嫌な後輩かもしれませんが、リングに上がると「試合も、プロレスに対する思いも負けませんよ!」となるんです。

――そして2021年1月、遅れていた渡米が決定。WWEのブランドのひとつである「NXT」の所属となり、3月18日には新たなリングネームがSarray(サレイ)と発表されました。

Sareee:最初は日本と同じSareeeとしてやりたい気持ちがありましたが、Sarrayという名前をつけていただいて感謝しています。
逆に名前が戻った今は、「WWEでの活動が終わっちゃったんだな......」という寂しさもあります(笑)。アメリカや他の海外のファンに「Sarray‼」と応援してもらって、WWEの選手にもそう呼んでもらっていたので、帰国してから「Sareee」と言われるのが、まだ違和感がありますね。

――Sarrayとしては2021年4月20日、ゾーイ・スターク戦でデビューしました。アメリカでの試合はどうでしたか?

Sareee:WWEのリングは日本より広いので、ロープワークの歩幅が違うんですよ。ロープの位置も高くて、私は背が高いほうじゃないですから、そこに慣れるまで時間がかかりました。

【日本とアメリカのプロレスの違い】

――日本とアメリカのプロレス、両方経験してどこが違いましたか?

Sareee:アメリカでは、カメラワークなど「魅せること」に気を遣いました。私が日本でやっていたプロレスは、対戦相手より先に立ち上がるなど、「速く動いて隙を与えないプロレス」。

でも、それをWWEでやると、お客さんは何をやっているのか理解できない。「こう動いたら見やすい」「この技は伝わりやすい」と視聴者や観戦者を意識しました。

「女子プロレス=アイドルっぽいを覆したい」WWEで進化したSareeeが日本復帰で見せたい闘い

これまでのプロレス人生を振り返ったSareee

――アメリカは練習方法やトレーニング方法も違いましたか?

Sareee:全然違います。WWEのパフォーマンスセンターは、リング練習やウエイトトレーニングなどがレベルごとにクラス分けされていて、それぞれに特化した専門のコーチがいます。日々の身体作りがいかに大切なのかを学びました。

――2022年2月には、「太陽ネックレスをつけると何でもできる」という、日本のアニメをモチーフにしたキャラクターに変更されました。
あれはSareee選手から提案したんですか?

Sareee:あれは会社からの提案で、私は女子高生姿で登場して変身するキャラになりました。WWEにはたくさん選手がいますが、キャラクターを与えられる選手はひと握り。期待してもらっていることを感じました。

――WWEで闘っていた期間の、アメリカでの生活はどうでしたか?

Sareee:大変なことも多かったですね。日本からWWEに行ったレスラーの多くは、夫婦やご家族で渡米していますけど、私はひとりだったので。普段の買い物や、家を借りる時の細かい手続きなどもまったくわからないし......。


 当然、周りはアメリカ人選手で、なかなか考え方が合わないこともありました。例えば日本人選手は、孤立した外国人レスラーがいると一緒にご飯を食べたりと気を遣いますが、アメリカ人選手は「人は人、自分は自分」。冷たいというわけではなく、それが当然なだけなんですが、慣れるまでは苦労もありました。

【WWEで得たものと、日本復帰の理由】

――その間、渡米している日本人選手たちとはやりとりがあったんですか?

Sareee:すごくお世話になりました。アメリカに行かなければ会うこともなく、話すこともなかっただろうスター選手たちが気にかけてくれて。

 特に中邑真輔選手には、奥さんやお子さんも含め、家族ぐるみで仲良くしていただきました。初めてお会いした時に「ひとりで寂しい時はいつでもおいで。

ご飯もあるから」と。そのうちに、中邑選手がいなくても、私が休みの日はお子さんたちと一緒に出かけたりするようになりました(笑)。

 他にはASUKA選手、イヨ・スカイ選手、戸澤陽選手やKUSHIDA選手もいましたね。私が所属するNXTでいうと、途中まで鈴木秀樹選手や黒潮イケメン二郎選手も一緒でした。その頃は日本人選手もけっこう多くて心強かったですね。

――WWEで活躍する中、今年3月9日に契約満了で退団し、日本に復帰。WWEとの再契約の話もあったと思いますが、日本に戻られた理由を教えてください。

Sareee:メインロースター(WWEの一軍といわれるRAWや、スマックダウンで活躍するレスラーのこと)として闘うことはなかったですけど、私の中で「WWEで十分に学ぶべきことができた」と思ったんです。2年間のうちに、私に足りなかったエンターテインメントの精神を吸収することができました。

 再契約のお話もいただきましたが、「自分の信じるプロレスをやりたい」と。27歳という年齢的にも一番体が動く時期だと思うので、「昔から抱いている、自分がやりたいプロレスを今やらないと後悔する」と考えたんです。

【「女子プロレス=アイドルみたい」を覆したい】

――並々ならぬ決意で日本に戻ってきたのですね。その復帰戦は5月16日新宿FACEで行なわれる自主興行ですが、そこで見せたい「自分が信じるプロレス」とは?

Sareee:今は日本で、女子プロレスの認知度が上がってきています。それは本当に素晴らしいことだと思うし、嬉しいことです。ただ、「今の女子プロレスって、アイドルみたいだね」と思っている人が多いとも感じているので、それを覆したい。もちろんカワイイやキレイも大事だけど、その前に「"闘い"を見せないといけない」と私は考えています。

――自主興行ということは、出場選手もSareee選手が選んだんですか?

Sareee:そうですね。こちらからオファーさせていただきました。私自身の相手は、橋本千紘選手。シングルマッチです。帰国を決めてから「闘うなら橋本千紘しかいない」と思っていました。

 橋本選手は誰がどう見ても「プロレスラー」。彼女はセンダイガールズプロレスリングという団体を引っ張る"柱"ですし、今の女子プロレス界で一番強いのは橋本選手だと思っています。私も「女子プロレス界の柱」になりたいし、なるべきだと思っているので橋本選手には負けられない。彼女とシングルで闘うのは約3年ぶりですが、リング上で"会話"をしたいと思います。

――さらに先の話になりますが、橋本選手以外で闘いたいレスラーはいますか?

Sareee:いっぱいいます。私が日本にいなかった2年間で、みんな成長して強くなっているはず。そんな中で、プロレスに対してしっかりとした思いを持っている選手と闘いたいです。

――最後に5.16新宿FACE大会に向けて、ファンの方々にひと言お願いします。

Sareee:WWEで私なりにいろんなものを吸収してきたつもりだし、誰に何と言われようがアメリカに行ったことを後悔はしていません。この2年間はすべてがプラスだったと思うので、みなさんにパワーアップした新しいSareeeを披露したいです。

 まさにアントニオ猪木さんの"闘魂"というか、魂を込めて闘っている姿が一番心に響くと思うし、嘘がないと思う。みなさんに本物のプロレスを感じてもらいたいです。そして、女子プロレスの未来が明るいことを見せていきたいですね。

【プロフィール】
■Sareee

1996年3月31日、東京都板橋区生まれ。158cm、60kg。中学卒業後の2011年4月17日、ワールド女子プロレス・ディアナ旗揚げ戦でプロレスデビュー。2014年4月20日、初タイトルJWP認定ジュニア王座&POP王座を戴冠。2018年7月22日、井上京子に勝利し第8代W.W.W.D世界シングル王者に。同年12月20日、アジャコングに敗れて王座から陥落するも、翌年5月12日に王座を奪還。同年6月8日にはW.W.W.D世界シングル選手権&センダイガールズワールドチャンピオンシップ2冠女王となる。2020年2月、世界最高峰の米プロレス団体「WWE入団」を発表。コロナ禍の影響で約1年遅れで渡米し、新リングネームSarray(サレイ)としてWWE・NXTでデビュー。2023年3月9日、WWEを契約満了で退団して日本での活動することが発表された。
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