F1熱の高まるアメリカでの今季初レース。F1サーカスはバクーでのレースを終えてそのままフロリダ州マイアミへと移動し、ハードロック・スタジアムの敷地内に敷設されたアメリカらしいスケール感抜群の特設サーキットでの1戦に臨む。

 今年はパドックがスタジアム内に設置され、NFLマイアミ・ドルフィンズの選手たちも訪れてF1ドライバーたちとの交流も図られた。

角田裕毅「F1のシートを失ってしまうかもしれない…」今季2戦...の画像はこちら >>

NFLの選手たちと交流を図る角田裕毅

 第4戦アゼルバイジャンGPで好走を見せて今季2度目の入賞を果たした角田裕毅のもとには大勢の報道陣が詰めかけ、明らかに昨年までとは違った彼の成長ぶりについて質問が飛び交った。

「今年はフィジカル面を少し変えたので、それがレース全体を通して100%のパフォーマンスを発揮することの助けになっていると思います。そしてもうひとつの好調な理由は、マインドセットの変化です。レースキャリアのどんな時よりも、今はレースを楽しむようにしています。

 自分にとってレース、F1というものがどれだけ大きな意味を持っているのか、2年前はそれがきちんとわかっていませんでした。

もちろんレースには集中していましたが、今思えば100%の集中、100%の努力はできていませんでした。それが今年のもうひとつの違いだと思います」

 去年は「もっとやれたはずだ」というレースが多かったと言う。もし3年目の今年もそんなレースが続くようなら、F1のシートを失ってしまうかもしれない......いや、そうなる可能性が高い──。

 このオフにそう気づけたことが、角田のマインドセットを変えたのだという。

「いろんなドキュメンタリー作品を見たりして、人生に後悔を残すようなことはしたくないと思ったんです。F1でやれるだけのこと、やるべきことをやれていない自分を見詰め直しました。

プロフェッショナルとして、すべてを変えなければいけない時だと感じました」

【契約獲得に走ってしまった...】

 昨年はシーズン途中から契約更新のことがチラつき始め、なかなか翌年のことが決まらない状況に焦りを感じ、口では「気にしていない」と言いつつも、その焦りがドライビングにも影響を及ぼしてしまっていた。外から見ていても、夏休み前後の粗いドライビングは明らかだった。

「去年は契約が決まらないなかで、それに大きく気を取られてしまった時期がアゼルバイジャンGPから日本GPまでかなり長くありました。その間はF1を楽しむことを忘れてしまっていたんです。

 状況がどうなっているのかわからなくて、ほとんど毎日しっかり眠ることもできていませんでした。そういうストレスや疲れがレースに悪影響を及ぼしていましたし、契約やチームのためにドライブするという意識が強くなりすぎていたと思います。

 あとになって振り返ってみれば、いい走りができていたシーズン序盤戦は『楽しむ』ということができていました。

『自分はベストドライバーのひとりだ』という自信があり、それを証明するために走る必要があるのに、契約獲得のために走ってしまっていたんです」

 だからこそ、今年は周辺環境の体制を見直し、F1界に幅広い人脈を持つ宮川マリオ氏にマネージメントを依頼。気心の知れた友人たちに身の回りのことを任せて、自分はレースのことだけに集中できる環境を整えた。経験豊富な宮川氏からのアドバイスや、イタリア系ならではのアルファタウリとの連携など、F1ドライバーとしての仕事に対するスタンスも大きく改善した。

 今年の角田は、開幕前から「すべてのレースで自分の全力を出しきること」を口癖のように目標として言い続けてきた。

 マシンの競争力は、ライバルとの相対的なもの。自分たちが最高のマシンを作り上げたと思ったとしても、ライバルのほうがさらにいい仕事をすれば負けることもある。

それは、ドライバーである角田にはどうすることもできない。

 角田にできるのは、自分の力を100%出しきり、自分の力で変えられることすべてを最大限にプラスに変えていくことだけだ。

【重要なのは順位ではない】

 トレーニングもそう。チームへのフィードバックやコミュニケーションもそう。シミュレーター作業もそう。マーケティング活動やメディア対応もそう。

レースを楽しみ、最大限の結果を出すために、自分にやれるかぎりすべてのことをやっている。

 すべてやり尽くしているからこそ、自信がある──。それが2023年の角田裕毅だ。

 バクーからそのままマイアミに移動した角田は、遊びにも出歩かずトレーニングと時差調整に専念してきた。昨年は体調が絶不調のなかでのレースだったが、今年はもうそんな心配もないだろう。

 バクーではこれまで懸念だった最高速の弱点が改善されて、中団最上位をマクラーレン勢と争った。

だが、サーキット特性の異なるマイアミでは装着する前後ウイングが異なるため、最高速の不利は再び背負うことになる。

「今回は中速コーナーも高速コーナーもあるのでダウンフォースが必要になってきますから、ただストレートだけに集中するわけにもいきません。どれだけストレートスピードを削らずにダウンフォースレベルを上げられるかが重要となってくるので、バクーとはまた別の話になってくると思います。

 コーナーが速くてもストレートがすごく遅いようなら問題はありますけど、コーナーが速くてストレートが周りよりちょっと遅いくらいなら問題なく戦えると思います。ただそのぶん、コーナーが速くなくちゃいけないですけどね」

 現状ではトップ4チームの牙城は崩れず、彼らが自滅しなければ中団勢は9位・10位のわずか2席の入賞圏を争うことしかできない。

 開幕から4戦続けてその当落線上で争い続けてきた角田だが、9位にしかなれないからモチベーションが感じられないというようなことはない。重要なのは何位なのかという結果ではなく、自分の力を100%発揮することができたかどうかだからだ。

 今週末のマイアミGPでも、それは変わらない。

「今回もいつもと同じで自分のパフォーマンスを100%引き出して、Q3に進んでポイントを獲ることですね」

 チームリーダー角田裕毅は、当たり前のようにそう言いきってマイアミGPに挑む。