今年2月に日本国籍を取得したジョシュ・ホーキンソンは、日本代表の一員として、その直後に行なわれたW杯アジア予選のイラン戦で素晴らしいプレーを見せた。8月25日に開幕するW杯に向け、八村塁が不参加となったチームにおいて、28歳のセンタープレーヤーは渡邊雄太、富永啓生らとともに中核を担うだろう。



 大学を卒業後、2017年にBリーグ2部(当時)のファイティングイーグルス名古屋に加入。2020年に信州ブレイブウォリアーズに移り、今年6月にはサンロッカーズ渋谷への移籍を発表し、さらなる飛躍が期待される。

 そんなホーキンソンに6月下旬、リモート取材でじっくりと話を聞いた。多才なスキルを持つ万能派ビッグマンには、日本での明るい未来がはっきりと見えているようだった。

バスケ版ヌートバー、ホーキンソンが誓うW杯での活躍「ホーバス...の画像はこちら >>

2月に日本国籍を取得し、日本代表での活躍が期待されるホーキンソン(c)B.LEAGUE

【日本国籍取得を決断した理由】

――渋谷に移籍して迎える新シ-ズンで、何を成し遂げたいと考えていますか?

ジョシュ・ホーキンソン(以下、JH): 運営会社のセガサミーホールディングスがこのチームにしっかり投資をして、プレーオフ進出という結果を出すことを望んでいる。ただプレーオフに出るだけではなく、優勝を狙いたい。リーグがBリーグという形になって以降、渋谷には優勝経験がないから、その期待が大きいのはわかっているよ。

そんな中で、僕たちが目標とするのは日々向上していくことだ。

――他にもオファーはあったと思いますが、最終的に渋谷を選択した理由は?

JH : 東京に本拠地を置いていることが大きかった。また、素晴らしい練習場があること、ルカ(・パビチェビッチ)のような優れたHCを招いたことにも惹かれた。あとは、ライアン・ケリー、ジェームズ・マイケル・マカドゥという2人の外国人選手は友人なんだ。信州でプレーするのは大好きだったから、本当に難しい決断だったよ。ただ、最終的にはプロとして、難しい選択をしなければいけなかった。

――日本国籍を取得することも難しい決断でしたか?

JH : その申請のために、日本に6年間以上在住、言葉のテストといった基準を満たさなければいけなかった。だから簡単に考えたわけではないんだ。日本国籍を取得することを考え始めたのは、名古屋での最後の年(2019-20シーズン)だったと思う。

 来日して2、3年くらい経ち、日本での生活が好きになっていた。まだ若かったし、「日本代表でプレーできる可能性がある」と考えるようになったんだ。この国の文化が好きになり、生活が快適に感じられたことで、日本国籍取得の決断もしやすくなったと思う。



――それを決めた際の、ご家族の反応は?

JH : 子供の頃から、両親は私が決めたことは何でもサポートしてくれた。父親はノルウェー、母親はデンマークでプロバスケットボール選手としてプレーした経験があったしね。2人は、僕もいずれ欧州でプレーすると考えていたようで、最初は「なぜ日本に行ったのか」が理解できないようだった。ただ、その後に両親も来日して、僕が心から日本を大好きになったのを見て、2人も日本を愛するようになった。8月のW杯も観にくる予定だよ。

――日本代表の一員として迎えるW杯で、どんな目標を掲げていますか?

JH : チームとしては、トム・ホーバスHCが話していた通りアジアNo.1チームになり、パリ五輪への出場権を得ること。
個人としては、2月に初めて日本代表としてプレーしたけど、W杯ではアメリカでプレーしている選手たちも参加するから、彼らといいプレーをすること。どんなチームになるかが楽しみだね。

――自身のプレーは、ホーバスHCのスタイルにフィットすると思いますか?

JH : そう思うよ。ホーバスHCは分析を重視する指揮官で、3Pシュートとレイアップで得点するのを好み、効率の悪いミドルレンジのショットは制限する傾向がある。一方で、システム的には自由で流動的なスタイルを望んでいる。そんなシステムの中で、僕の多才さは生きると思うんだ。


 これまで彼に率いられたチームは、サイズがある選手の3Pシュートを生かすことで成功を収めてきた。それによって、ゴール周辺で力を発揮するフィジカルが強い相手のセンターをペリメーター(3Pラインの外側のエリア)までおびき出すことができる。その点、僕は身長208cmでシュート力、走力があり、近年はディフェンスも向上したから、さまざまな面で貢献できると思う。

【河村勇輝の「驚異的」な能力】

――先ほども話があったように、今回のW杯ではアメリカでプレーしてきた選手たちと一緒にプレーします。NBAでの経験を重ねてきた渡邊雄太選手にはどんな印象を持っていますか?

JH : 日本代表に参加する前、海外でプレーする選手たちの動画も見たけど、もちろん渡邊のプレーも見たよ。特にネッツ、ラプターズでの2シーズンのプレーは素晴らしかった。彼のサイズ(206cm)であれだけ身体能力に恵まれた日本人選手はなかなかいない。



 シュート力、機動力があって、優れたディフェンダーでもある。それらはホーバスHCが求めているものであり、重宝されるだろう。W杯ではNBAの選手を多く擁する国とも対戦するわけだから、彼の経験は力になるだろうね。

――NCAAのネブラスカ大に所属する、富永啓生選手のシュート力も日本代表の大きな武器になりそうですね。

JH : 2年ほど前に初めて彼のハイライトを見て、ネブラスカ大のゲームも何戦か見たけど、恐れを知らない選手だね。オープンの時は思い切りよくシュートを打つ。好シューターというのは、「どの場所からシュートを打つか」を必要以上に気にしないもの。「いつでも、どこからでもシュートを決められる」という揺るぎない自信を持っていて、実際に彼は決めてきた。あれだけレベルの高いNCAAのビッグ10カンファレンスで、平均13得点を挙げたのはすごいことだ。

――2月の日本代表戦では、横浜ビー・コルセアーズの河村勇輝選手との"ケミストリー"が話題になりましたね。

JH : 彼とは本当にすぐに気が合ったんだ。コート外でも多くの時間を一緒に過ごし、カードゲームで遊んだりして関係を深めたよ。彼はフロア上のジェネラル(将軍)だから、僕だけでなく、多くの選手たちと良好な関係を築くことが大事になる。それができていたから、お互いにやりたいことがわかっていたし、ケミストリーを生み出すのも難しくなかったよ。

――アメリカのカレッジでプレーしたあなたから見て、アメリカで成功する可能性があると感じる日本の若手選手はいますか?

JH : やはり河村だ。彼はサイズ以外のすべてを持っている。驚異的だと思うのは、彼は小柄なのに、相手チームの大柄な選手がポストアップしようとした時にも体でそれを受け止め、手を巧みに使ってスティールしてしまうこと。ディフェンスでも大きな選手に後れを取ることはない。ハートの強さ、意志の強さも感じるね。

【日本で感じる「相互のリスペクト」】

――あなたはカレッジ卒業後、なぜ日本でのプレーを選択したのでしょう?

JH : ワシントン州立大でいいプレーができて、卒業後、5、6つのNBAチームとワークアウトする機会があった。ただ、結局はドラフトにかからず、代理人から「日本も選択肢のひとつ」という話が出てきたんだ。

 日本のチームがスキルがあるビッグマンを求めているだけでなく、僕の性格を考えても「日本の国民性が合う」という話になった。思い返してみれば、日本行きはこれまで受け取った中で最高のアドバイス。LAでのワークアウトで、名古屋が僕のプレーを気に入ってくれて、オファーを受けた。両親とも相談し、「日本こそが最適な場所だ」と説明したんだ。

――日本への適応で難しかった部分は?

JH : それまでと違う生活様式を受け入れること。最初は友人、家族に会えないのがつらく、時差もあるから、彼らと話すために遅くまで起きていた。当初は、新しい文化に溶け込むために日本語を話したり、日本食を試したりすることも積極的にはやらなかったんだ。それでホームシックになってしまって......。

 ただ、自分から新しいことを受け入れ始めたら、すべてが容易になった。崖の上に立った時、もっとも難しいのはジャンプすること。いざ飛び込んでしまえば、それほど問題はなかったね。その後は日本の生活、食事、コミュニケーションなどを楽しめるようになったよ。

――ちなみに、好きな日本食は?

JH : 名古屋に住んでいた頃はまぜそばが大好きだった。信州では、同じくらい美味しいまぜそばの店が見つけられなかったけど、焼き鳥が好きになった。今でも焼き鳥は大好きだね。

――日本の文化が好きになった理由は? 日本で好きなアクティビティはありますか?

JH : 日本人は常に周囲の人間に敬意を払い、助け合う。例えば、アメリカでコンビニに入ったら、「何が欲しいんだ? それは2ドル50セントだ」といった感じで冷たくあしらわれてしまう。しかし日本では、日本語が話せない外国人が何かを買いに来た時、一生懸命に助けてくれる。アメリカ人の間で薄れている相互のリスペクトが、日本にはあるように感じるよ。

 好きなアクティビティは、ゴルフと、温泉に行くこと。温泉には"魔法の癒し効果"があるね。

【侍ジャパンで活躍したヌートバーに似ている?】

――野球も好きとのことですが、6月にはイチロー氏と対面し、その写真をSNS上でアップしていましたね。その時はどんな交流をしたんですか?

JH : イチローに会えると聞いていたけど、「ハジメマシテ、ジョシュトモウシマス」と挨拶するくらいで終わりかと思っていたよ。実際には5、6分くらい話せたかな。彼が時間を作ってくれたことが嬉しかったし、感動した。しばらく日本語で話して、彼は「私の英語よりも、君の日本語のほうが上手だ」と言ってくれて。僕は「そうは思いません。あなたはアメリカに22年もいるけど、私はまだ日本で6年しか過ごしていないから」と返したんだ(笑)。

 あとは、シアトルでのプレーをずっと観ていたことも伝えることができた。僕の故郷が、イチローがアメリカで初めて所属したマリナーズの本拠地シアトルであること、僕が初めて日本でプレーしたのが彼の故郷である名古屋であることを「素晴らしい偶然だ」とも話したね。そして、「W杯を観るからベストを尽くしてくれ」と言ってくれたのもクールなことだったな。

――野球に関連した話では、日系アメリカ人のラーズ・ヌートバー選手が、今年3月のWBCでの活躍で日本でも大人気になりました。アメリカ生まれで、大会開幕の直前で代表に加わるという点が共通していると思いますが、あなたもW杯で"バスケ版のヌートバー"になることは可能と思いますか?

JH : すでに多くのファンから、私の状況がヌートバーと似ていると言われているよ。プレー時はとても真剣だけど、ゲームが終わればジョークを飛ばすのが好きな明るい性格という点も似ているのかもしれない。「顔も似ている」と言われることもあるけど、それはどうかな(笑)。

 僕たちは共にアメリカ出身の日本代表選手で、日本の成功のためにベストを尽くす。同じような状況にいるのは事実だし、代理人事務所も同じ「ワッサーマン」だ。いずれ対面できたら、という話もしていて、その時には彼に日本語を教えられたらと思うよ(笑)。

【プロフィール】
ジョシュ・ホーキンソン

1995年6月23日生まれ、米ワシントン州シアトル出身。身長208cm。ワシントン州立大を卒業後、2017年に当時Bリーグ2部のファイティングイーグルス名古屋でプロのキャリアをスタート。信州ブレイブウォリアーズに移り、今年6月にサンロッカーズ渋谷に移籍。今年2月に日本国籍を取得し、同23日のイラン戦で日本代表デビューを果たした。