7月26日にヤクルトの西浦直亨とDeNAの阪口皓亮のトレードが発表された。これで、5月の廣岡大志(巨人→オリックス)と鈴木康平(オリックス→巨人)のトレードを皮切りに、シーズン開幕後に5件のトレードが成立したことになる(7月26日時点。

以下同)。

 シーズン中のトレードについて、かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏はどう見ているのか。移籍した選手たちの新天地での起用法、活躍ぶりも併せて聞いた。

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トレード後に存在感を発揮している巨人の鈴木(元K-鈴木)とオリックスの廣岡

【廣岡と鈴木は「いいトレード」】

――まず、シーズン中のトレードについて高木さんはどう思われますか?

高木豊(以下:高木) チームに足りないところや、シーズンに入ってケガ人が出たりした時、そこを補うためにはトレードが一番いい。それと、シーズン中のトレードは、球団も選手も考える暇がありません。選手はポーンと新天地に"放り込まれる"ので、やるしかないんです。

 あと、新しいチームに馴染むためにもっとも必要なのは、会話したり、一緒に食事に行くことではなく、「貢献度合い」なんです。

なので、貢献できる場所を与えられて活躍すれば、すぐに仲間になれる。あれこれ考える暇がない分、余計なことを考えずに済むので、選手にとってはいいんじゃないですか。新しい本拠地周辺での家探しなど、大変なこともあると思いますが。

――今年のシーズン中のトレード1件目、廣岡選手と鈴木投手のトレードはいかがでしたか?

高木 当時の巨人は中継ぎがほしかった。「魔の8回」と言われるなどリリーフの台所事情が苦しく、8回を投げるピッチャーを探していました。巨人は、補わなきゃいけないところを早急に補う危機管理能力は高いですから、さすがでしたね。


 一方のオリックスは、以前から廣岡に魅力を感じていたみたいですね。ただ、廣岡を獲った後、紅林弘太郎の状態がよくなり、宜保翔もいい働きをし始めた。さらに、現在のパ・リーグ首位打者、頓宮裕真がファーストでどっしりと構えていますから、競争は激しいですね。

――確かに廣岡選手はオリックスで26試合に出場(打率.190)も、代打など限定的な起用が増えてきていますね。

高木 ただ、宗佑磨が故障したり調子が上がらない時、またはセンターに人材がいない時にも廣岡は使えます。バッティングはパンチ力があって思い切りがいいので、長いシーズンで必要な場面は必ず出てくると思いますよ。


―― 一方、巨人移籍後に19試合に登板し、防御率5.06、8ホールドの鈴木投手はどうですか?

高木 状況が変わって、今の巨人のリリーフは飽和状態になっています。中川皓太が帰ってきましたし、左ピッチャーは3枚いる。鈴木と同じ右腕も菊地大稀や、船迫大雅がいたり......。クローザーの大勢が離脱中ということもあり、数で補おうとしている部分もあると思いますけどね。そう考えれば、トレードもしてリリーフを補ったのはいいことだと思います。

【中日と日本ハムのトレードは「大成功」】

――交流戦終了直後には、山本拓実投手と郡司裕也選手(ともに中日→日本ハム)と齋藤綱記投手と宇佐見真吾選手(ともに日本ハム→中日)の2対2のトレードがありました。

高木 中日は信頼できるキャッチャーがずっとほしかったんですよ。

正捕手の木下拓哉がいますが、ケガなど何かあった時のために控えを獲っておかなければいけなかった。そんな中で、木下が交流戦で右手(右大菱形骨)を骨折して離脱してしまいましたから、なおさらです。加入した宇佐見はよく打っていますし(22試合出場、打率.390)、期待以上の活躍を見せていますよね。

 山本もいい働きをしていますね(7試合に登板、防御率1.17、1ホールド)。もともと中継ぎとして能力が高かったピッチャーで、日本ハムもずっとマークしていたようです。郡司も齋藤もチャンスをもらえていますし、結果も出ています(郡司:12試合出場、打率.275/齋藤:6試合に登板、防御率0.00、2ホールド)。
大成功のトレードだったなと思います。

――目覚ましい活躍といえば、7月4日に小沼健太投手(ロッテ→巨人)とのトレードで巨人に移籍した石川慎吾選手(巨人→ロッテ)は、打率522(23打数12安打)と早々に存在感を示しています。

高木 巨人で一軍に上げても、ある程度はやってくれる選手だったと思います。ただ、秋広優人を成長させなければいけない事情や、若手にチャンスを与えなければということで浅野翔吾も起用していますよね。石川に能力があるとわかっていても、先を見据えた時には石川ではなかったということ。だから、出してあげたんだと思います。


――現状、代打だけでなくスタメンでの起用もありますね。

高木 ただ、レギュラーとしてはなかなか難しい選手です。30歳という年齢を考えると、ロッテも優秀な若手の外野手が多いので、それを差し置いて石川を使い続けるとは考えにくい。やはり代打が中心で、時折スタメンで使うとか、そういう起用をすれば非常にいい選手です。

 あと、"きっぷ"がよくて真っ直ぐに強いですから、ストライクゾーンを真っ直ぐでバンバン攻めてくるピッチャーが多いパ・リーグに向いていると思います。今回のトレードがなければ、今年の現役ドラフトで大人気だったでしょうね。

―― 一方の巨人でまだ登板機会がない小沼投手はいかがですか?

高木 来年に出てくるんじゃないですかね。基本は8回などの中継ぎでの起用だと思いますが、ひょっとしたら先発もあるかもしれない。僕は小沼を、"(オリックスの)山下舜平大の小型版"と見ています。

 ロッテにとって小沼は、抑えの益田直也の後釜として考えていた候補のひとりだったと思うんです。その小沼を出すということは、よっぽど石川がほしかったのかな。そのあたりの思惑はわかりませんが、いずれにせよ小沼はポテンシャルのあるピッチャーですし、今後の成長も期待できます。

【今後トレードしたほうがよさそうな選手は?】

――オールスター期間中にも、髙松渡選手(中日→西武)と川越誠司選手(西武→中日)のトレードがありましたね。

高木 これもいいトレードだと思いますよ。西武は金子侑司や源田壮亮、若林楽人など走れる選手が多いので、足のある髙松にとってはいい勉強になると思います。一方で川越は、もともとピッチャーということもあって強肩の外野手。広いバンテリンドームではそれが生きると思いますし、バッティングも思い切りがいい。今の中日はチーム状態がいいので、どうフィットするか楽しみです。

――ちなみに、他にトレードしたほうが活躍のチャンスが広がりそうな選手を挙げるとすれば?

高木 巨人の松原聖弥です。能力はあるのに、今シーズンにここまで使ってもらえない(19試合出場、打率.000)となると、今後もなかなか出場機会を得るのは難しい。それならトレードしたほうがいいですし、松原とのトレードであれば、巨人もある程度いい選手を獲れるはずです。

――仮の話ですが、どこのチームがフィットしそうですか?

高木 西武でしょうか。西武は1番を打てるバッターが欲しいんです。現状はその候補すらいない状態ですし......。松原は3割を打つ可能性を秘めているバッターだと僕は見ているので、他のチームに行ったら活躍する可能性は十分にあると思います。

 最初に話しましたが、シーズン中のトレードは余計なことを考えずに済みますし、選手にとってはいいことだと思います。環境を変えて活躍する選手が多いことは実証されていますし、今後も注目していきたいですね。