メルボルン空港に着くと同時に目に飛び込んできたのは、自身の姿がセンターにフィーチャーされた、全豪オープンの看板だった。その前を大坂なおみは、恥ずかしさを覚えながら、足早に通りすぎたという。

 大会会場のロッカールームを訪れると、与えられたロッカーは数年前に使っていたものと同じだった。

 練習のため、久々に足を踏み入れたアリーナで出迎えてくれたのは、かつてのライバルたちの懐かしい顔。とりわけ開幕2日前にボールを打ち合ったオンス・ジャバー(チュニジア)は、大坂が最も長く知る親しい選手である。

大坂なおみ「言っちゃっていいのかな?」全豪OP前に自身の弱点...の画像はこちら >>
 8年前の18歳の日、大坂はジャバーとともにシンガポールで開催された「WTAライジングスター」に出場していた。

 この大会は"次代のスター選手"プロモートのために行なわれる、招待型のエキシビションイベント。ゆえに公式記録としては残らないが、それでもこの時の記憶がいまだ鮮やかなのは、大坂にとってこれが初めて優勝トロフィーを手にした大会だからだ。

 ジャバーとコート上で談笑を交わし、ベンチに座り空を見ながら、大坂は「お互いに、ずいぶんと遠くまで来たな......」とのノスタルジーに胸を満たしていたという。

 昨年7月に女子を出産し、約1年半コートから離れていた大坂にとって、1月14日に開幕する全豪オープンは、復帰後初めて挑むグランドスラムである。

 復帰戦となる2週間前のブリスベン国際で大坂は、初戦で世界83位のタマラ・コルパチュ(ドイツ)に快勝。2回戦では、元1位で現37位のカロリナ・プリスコバ(チェコ)とフルセットの熱戦を演じた。

「自分のプレーはよかったと思う」との自己評価は、他者の目からも同様だろう。特に大坂が自信を深めたのは「サーブ」。

 同時に「これは言っちゃっていいのかな?」と自問するも、「誰に目にも明らかだもんね」と苦笑しながら明かした改善すべき点は「リターン」だ。

【全豪オープン初戦の相手は世界20位のガルシア】

「プリスコバとの試合では、自分のサーブは十分にいいと実感できた。でも同時に、あと10%でもリターンがよければなって......。あの試合では、たくさんのブレークポイントがあった。そのうち3ポイントでも取っていれば、試合展開はぜんぜん違ったものになっていたと思う」

 実戦から持ち帰ったその課題を踏まえ、ここ最近の練習では、リターンにフォーカスしてきたという。

 そしてもう一点、大坂が改善を目指しているのが「バックハンド」。

 おそらくは、大坂がここ数日で練習してきた選手のラインナップにも、彼女の狙いが反映されている。

その相手とは、プリスコバ、ジャバー、そしてアマンダ・アニシモバ(アメリカ)。いずれもフラットにボールを打ちぬく選手であり、特にプリスコバとアニシモバは、低い軌道の鋭いスピードショットを武器とする。

 そのアニシモバとのバックハンドの強打交換を「とても楽しかった」と、大坂は笑顔で振り返った。ツアーのスピードに身体と目を慣らしつつ、クリーンにボールを打ちぬく感覚を、まずは取り戻そうとしているのだろう。

 そのような大坂の取り組みは、奇しくも今大会の初戦の相手にも生きそうだ。

 木曜日に決まったドローの結果、大坂が1回戦で当たるのはカロリン・ガルシア(フランス)。

現在世界20位、最高位は4位の、まごうことなきトップ選手。大坂も「トップ5選手に求められる、あらゆるショットを持っている」と評するオールラウンダーでもある。

 ただ、ガルシアの端正なテニスは、大坂にしてみればやりやすい側面もあるだろう。特にまだ試合勘に不安がある大坂にとっては、未知数の若手よりも、よく知る経験豊富なトップ選手のほうがプレーの予測が立てやすい。

 現に大坂も、ドローを知った時は「タフな試合になる」と覚悟すると同時に、こうも思ったという。

「やるべきことを、やれるという自信がある。

試合を通じて、自分のプレーができるのではと感じている」......と。

【前回の対戦は3年前の全豪。大坂がガルシアに快勝】

 対するガルシアは、自身がドローを見るより先に、多くの人から「誰と初戦で当たるか知っている?」と問うテキストメッセージをもらったという。

「これはたぶんいい選手と当たるんだろうなと思い、ダブルスパートナーに『私が誰と初戦で当たるか知っている?』と問うと『知っている』と言う。なので『有名な選手?』と聞くと『そうだ』と言うので、それで誰が相手かわかったの」

 一連の顛末を、笑みをこらえてガルシアが明かす。なお、公式記録上での両者の対戦は、3年前の全豪オープンでの一度のみ。

その時は大坂が6-2、6-3で快勝した。

 ただ、実は両者は、冒頭で触れた8年前の「ライジングスター」でも対戦している。その時は、ラウンドロビンでガルシアが勝利。その数日後にふたりは決勝で再戦し、その時は大坂が勝利した。

 今大会でのガルシアとの顔合わせを知った時、大坂は「初戦でシードに当たってよかった」とも打ち明けている。

「もしそこを突破できれば、次の試合が多少は楽になるのだから」というのが、その理由だ。

 過去2度、トロフィーを掲げた全豪オープンの会場を訪れた時、大坂は「シンガポールからここまで、長い道を歩んできた」と感じたと言った。

 同時に彼女の柔らかな視線は、ここから続く道のりも、しっかりと捉えている。