ジュビロ磐田のFWで解説者の松原良香氏に、2024シーズンのJ1順位予想と各クラブの戦力分析をお願いした。南米や欧州でもプレー経験が豊富な松原氏の判断基準は「チームのセンターラインが強固であるか」「自分たちのサッカー(色)をどれだけ出せるのか」「チーム、フロント、サポーターの三位一体のクラブ力」だという。

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2024年J1順位予想&全クラブレビュー 松原良香の見解は「...の画像はこちら >>
<松原良香のJ1順位予想>

1位:ヴィッセル神戸
2位:浦和レッズ
3位:FC東京
4位:横浜F・マリノス
5位:サンフレッチェ広島
6位:川崎フロンターレ
7位:鹿島アントラーズ
8位:名古屋グランパス
9位:セレッソ大阪
10位:アビスパ福岡
11位:ジュビロ磐田
12位:京都サンガF.C.
13位:FC町田ゼルビア
14位:湘南ベルマーレ
15位:サガン鳥栖
16位:アルビレックス新潟
17位:北海道コンサドーレ札幌
18位:ガンバ大阪
19位:柏レイソル
20位:東京ヴェルディ

【ヴィッセル神戸が優勝候補の筆頭】

 私の基本的な考え方として、チームのセンターラインが強固であるか。やはり優勝するクラブにはいいストライカーがいて、しっかりと守れるGK、センターバック(CB)がいて、チームの心臓であるボランチにもいい選手が揃っているか。

 そういった意味で、昨季王者のヴィッセル神戸が今季も優勝候補である。エースのFW大迫勇也がいて、安定感のあった守備ラインがあり、中盤にはMF山口蛍がおり、MF井手口陽介も獲得した。その上で、吉田孝行監督も続投でプレーモデルもしっかりしていて、FW武藤嘉紀やDF酒井高徳など経験豊富なベテランや中堅も多く、有望な若手もいる。

 優勝するクラブはクラブとしてのマネジメントもしっかりしているものだが、神戸はそこも強固。強いて懸念を挙げるとすればCBがやや不安か。

いずれにしても今季の神戸も優勝候補の筆頭であることは間違いない。

 2位の浦和レッズは、FWチアゴ・サンタナやMFオラ・ソルバッケン、MF松尾佑介など、タレント揃いの最高の補強をした。点を取るというところは間違いなく強力で、既存の戦力と合わせると、優勝しなければいけないくらいの陣容が揃っている。

 新しく就任したペア・マティアス・ヘグモ監督はJリーグが初めてなので、彼を日本人のスタッフやフロントがどれだけサポートできるかが重要。監督に気持ちよく仕事をさせる環境を与えられれば、神戸と優勝を争うチームになるはずだ。

 3位のFC東京は主要のメンバーは大きくは変わらず、計算の立つ選手が多くベースもできている。

新加入の中で注目しているのはMF遠藤渓太だ。ピーター・クラモフスキー監督が横浜F・マリノスのヘッドコーチ時代に一緒にやっていて、彼のサッカーにもフィットするはず。

 ドイツでおそらく満足する結果が出なかったと思うので、非常にハングリーさを持っているだろう。FWディエゴ・オリベイラだけに依存するのではなく、遠藤やFW仲川輝人、新加入のFW小柏剛らがストライカーとなって点が取れれば、さらに上のチームになれると思っている。

【監督の手腕に注目】

 4位の横浜F・マリノスは前線の顔ぶれが変わらず、全体としても大きな変化はない。FW西村拓真がスイスへ移籍したが、韓国で結果を残したMF天野純を獲得したのは非常に大きい。懸念するところと言えば、GK一森純が抜けた穴をGKポープ・ウィリアムがどれだけ埋められるか。

横浜FMのスタイル的にGKは重要なポジションであるだけに、気になるところだ。

 監督がケビン・マスカットからハリー・キューウェルに代わった影響がどれだけあるか。アンジェ・ポステコグルー監督時代から続くレガシーを引き継げる人物ではあると思うが、監督経験は初めてなのでコーチングスタッフやフロントのサポートが重要だろう。

 5位のサンフレッチェ広島は、2年連続3位と強固なチームを作り上げたミヒャエル・スキッベ監督の手腕は間違いない。リーグ全体でも決して大きなバジェットではないなかで、これだけ安定した成績は見事だ。

 昨季は得点力のところで物足りなさがあったが、湘南からFW大橋祐紀を獲得した。

現有戦力のなかで、彼がどれだけ能力を発揮し、チームとしての得点力を押し上げられるかが今季のポイントになるだろう。

 6位の川崎フロンターレはFUJIFILMスーパーカップを制したが、ACLはラウンド16でまさかの敗退を喫した。個人的に新加入のFWエリソンが非常に楽しみな存在だ。元ブラジル代表のフッキのように力強いプレーができる選手で、そのダイナミックなプレーだけでお客さんを呼ぶことができる。

 FWレアンドロ・ダミアンやDF山根視来、DF登里享平ら長くチームを支えた選手が去ったなかで、若手の選手たちがどれだけ台頭し、新しく入ったブラジル人がどれだけフィットできるか。川崎はブラジル人がうまく融合してこそのチームだと思うので、彼らの活躍に注目したい。

【陣容が変わったクラブの見どころ】

 7位の鹿島アントラーズは昔からの遺産があるので、順位を落としたとしても10位より上にいるのではと予想する。ただ、このクラブの目指す方向がどこなのか。そこがはっきりと見えない。

 クラブの定まらない姿勢は間違いなく現場にも影響を及ぼす。新加入選手の数も少なく、選手層においても不安が残る。今季もFW鈴木優磨の活躍が結果を大きく左右しそうだ。

 8位の名古屋グランパス長谷川健太監督3年目となり、チームとしてのベースはできている。

また、FWキャスパー・ユンカーの完全移籍やFW山岸祐也、FWパトリック、MF椎橋慧也ら積極的な補強にも成功していた。

 懸念はやはり守備ライン。DF中谷進之介やDF藤井陽也、DF丸山祐市ら中心選手が一気に抜けた。DFハ・チャンレやDF井上詩音、DF三國ケネディエブスら新しく加わった選手で、長谷川監督が守備ラインをどうまとめあげるか。

 9位のセレッソ大阪も昨季とメンバーは変わらない。そのなかでDF田中駿汰やDF登里享平など、足りないポジションをピンポイントで補強した。前線の外国人選手たちをMF香川真司、MF清武弘嗣らが躍動させられるかにかかっているだろう。また、DF毎熊晟矢には点が取れるサイドバックとしての活躍にも期待している。

 10位のアビスパ福岡は昨季ルヴァンカップで優勝し、リーグでもクラブ史上最高の7位。着実に成長を遂げている。長谷部茂利監督の信頼も非常に厚く、今季も強固なチームを作り上げるだろう。ただ、点を取るというところでFW山岸祐也が抜けた穴は大きく、チームとしてどう補っていくかは懸念材料だ。

 11位のジュビロ磐田はキャンプでの試合を見たが、新加入のブラジル人4選手がJ1のクオリティであるかはやや疑問に感じた。また、GK川島永嗣の試合感も不安はある。既存の選手たちは計算が立つが、彼らがどれだけフィットし、活躍できるか。そこにかかっているだろう。

 12位の京都サンガF.C.は曹貴裁監督も4年目で、チームのスタイル、ベースはできている。DF井上黎生人が引き抜かれたところにDF鈴木義宜、教え子のMF鈴木冬一も獲得できたのは非常に大きい。

 パリ五輪を控え、勝負の年であるMF川﨑颯太の活躍に期待している。課題である得点のところではFW原大智、新加入のFWマルコ・トゥーリオがどれだけ活躍できるか。

【J1で生き残るポイントは?】

13位のFC町田ゼルビアは積極的な補強をして、総勢39人と分厚い選手層となった。サッカースタイルは非常にシンプルで、選手の強みを生かして相手を押し込むサッカーはJ1でも席巻する可能性を大いに秘めていると感じる。

 ただ、これだけの大所帯になると選手のマネジメントは非常に困難になりそうなものだが、黒田剛監督がどうまとめあげるかは見ものである。

 14位の湘南ベルマーレは、昨季は降格枠が1というレギュレーションに助けられた。苦しい時期が長く、降格も危ぶまれたところを耐え抜いた。その経験は今季生かされるはず。予算がないなかでFWルキアンやMF鈴木雄斗といい補強ができたのは大きい。

 15位のサガン鳥栖はやろうとしているスタイルはすごくわかりやすく面白い。しかし、毎年のように主力を引き抜かれるのが気の毒だと思う。今オフもFW小野裕二やFW岩崎悠人ら昨季の中核を成した選手が離れた。それを上回る補強ができたかと言えば物足りなさを感じる。

 16位のアルビレックス新潟もJ1ではかなり予算的に厳しいクラブだろう。それでも松橋力蔵監督のもと、明確な攻撃的スタイルを打ち出して昨季は面白く、見事なプレーを披露していた。ただ、最後の決めるところが難しく、新加入のFW小野裕二、MF長谷川元希らに期待したい。

 17位の北海道コンサドーレ札幌はミハイロ・ペトロヴィッチ監督が7年目でクラブからの厚い信頼を感じる。FW小柏剛ら主力を抜かれるなか、FW鈴木武蔵の活躍が今季の札幌の結果を左右するだろう。

 18位のガンバ大阪はタレント豊富で陣容としては十分に揃っている。スタジアムもすばらしく、クラブの歴史もあり、環境は揃っていながら昨季16位に終わったのは残念でならない。クラブの方向性に迷いがあるように感じる。現場、フロント、サポーターという三位一体がしっかりとすればこんな順位にいるクラブではない。

 19位は柏レイソル。昨季は苦しんだが、その原因はやはり点が取れないところ。ただ、FW細谷真大は日本代表にも呼ばれているし、彼がもうひと皮剥けることでこのチームは変わるはず。

 20位は東京ヴェルディ。昨季は城福浩監督がいい仕事をして、本当によく昇格を手にしたと思う。その主力のほとんどが残ったのは大きい。大きな補強ができないので若手主体でいかざるを得ないため、連敗が重なるとキツくなるだろう。ただ、コーチングスタッフやフロントの経験ある人たちがJ1を舞台に選手たちをどう引き上げていくのかが重要になる。

【上に行くクラブと下に行くクラブがはっきりと分かれる】

 今季は優勝争いや上位に行くクラブは混戦になり、上に行くクラブと下に行くクラブがはっきりと分かれるシーズンになると予想する。

 上に行くクラブは、冒頭でも述べたチームの軸となるセンターラインが整っている。さらにクラブの方向性という軸もしっかりとしている。クラブの資金力も重要なファクターだ。それらを備えているのが、上位に挙げたクラブだ。そこには町田も含まれると思っているが、J1初挑戦ということで13位とした。

 下位に挙げたクラブは現場、フロント、サポーターの三位一体という話もしたが、クラブ力でどこか劣ってしまっていると思う。

 今季は降格が3枠で、1枠だった昨季とはプレッシャーの大きさは比べものならない。ただ、このプレッシャーの大きさは日本のサッカーのレベルを高めるはず。そんな過酷な今季、どんな戦いを見せてくれるのか楽しみだ。

松原良香 
まつばら・よしか/1974年8月19日生まれ。静岡県浜松市出身。現役時代は、ウルグアイのペニャロール、Jリーグのジュビロ磐田など、日本、ウルグアイ、クロアチア、スイスなどの12クラブでプレー。1996年アトランタ五輪のU-23日本代表でも活躍した。引退後はサッカースクール・クラブの指導、経営の一方、SC相模原、いわてグルージャ盛岡の監督も務めた。現在はサッカー解説者として活躍中。