男子フィギュアスケートは「マリニン1強時代」 鍵山優真、宇野...の画像はこちら >>
 カナダ・モントリオールで開催されたフィギュアスケートの世界選手権。

 男子シングル(3月21日・23日/現地時間)では、グランプリ(GP)ファイナルを制したイリア・マリニン(アメリカ)の初優勝を、宇野昌磨(トヨタ自動車)と鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)がいかに阻止するかが注目されたが、マリニンの進化を見せつけられる結果になった。

【SPは宇野、鍵山が納得の演技】

 ショートプログラム(SP)では、宇野、鍵山のふたりが優位に立った。鍵山は、最初の4回転サルコウで加点を得て、スピード感あふれる滑りを最後まで続けて106.35点をマーク。

 鍵山は「緊張していましたが、名前をコールされて拍手と声援が聞こえた時に一気に楽しい気持ちのほうが大きくなり、そのままいい気持ちでパフォーマンスすることができました。四大陸選手権に比べると若干GOE(出来ばえ点)がとれてない部分もありましたが、全体的にみれば非常に満足のいく演技」と納得していた。

 宇野は、最初の4回転フリップでジャッジ全員が4~5点を並べる高い加点のジャンプ。次の4回転トーループ+3回転トーループの着氷は少しキレを欠いたものの、静かな曲調のなかで情感豊かにキレのある滑りをし、シーズンベストの107.72点を獲得した。

 宇野は「会場のたくさんのお客さんからの声援を肌で感じながら、気持ちよく滑ることができたのですごくうれしい」と話すが、淡々とした姿勢は崩さなかった。

「自分がベストだと思う練習を毎日してきているので、その結果がいいほうに向こうと悪いほうに向こうと、失敗しても受け入れようと思っています。だからもちろん、成功した今日はとてもうれしく思いますが、失敗していても納得していたかなと思います」

 対してマリニンは、4回転ルッツを封印して105.97点。動きには若干の硬さもあって彼らしい躍動感は少し影を潜めた。「ここ数週間はケガやスケート靴などのたくさんの問題を抱えていた」とマリニンは話し、最も安定性があるジャンプとして4回転トーループと4回転ルッツを選択していたのだ。

【マリニンが高難度フリーで圧勝】

 フリーは宇野、鍵山、マリニンの滑走順。日本勢ふたりにとってはマリニンの得点を見ないで演技できる利点はあったが、「完璧な滑りをしなければいけない」というプレッシャーも大きかった。

 宇野は、最初の4回転ループで転倒。

その影響もあったか、次の4回転フリップはステップアウトになって片手をつき、大きく減点される。4回転トーループ+3回転トーループも4回転+2回転になり、次の3連続ジャンプの予定だったトリプルアクセルも前につんのめる着氷になって単発に。ミスが続いた。

 それでもステップシークエンスから立て直してきれいに4回転トーループにつなげたが、3連続をリカバリーしたトリプルアクセルからのジャンプは、最後の3回転フリップで手をつく。

 結果は、タイムオーバーの減点もあって173.13点にとどまり、合計は280.85点。SP19位から巻き返したアダム・シャオ イム ファ(フランス)にも届かない結果に終わった。

 続く鍵山は、最初の4回転サルコウをきれいに決めると、前戦の四大陸選手権から入れた4回転フリップは4.56点の加点をもらう。

 後半に入ってすぐのトリプルアクセルは着氷をしたあとに転倒してしまったが、彼らしいスピード感と躍動感のある滑りを最後まで続け、シーズンベストの203.30点を獲得。合計は309.65点にしてマリニンにプレッシャーをかけた。

 そして、事前の構成プランでは4回転ジャンプ4本にしていたマリニンは、攻めの滑りを見せた。

 冒頭の4回転アクセルをきれいに決めると、4回転ルッツの次のループも4回転とし、そのあとの4回転ジャンプも着実に決めた。その滑りはこれまでのように勢いを前面に出すより、丁寧なものだった。

 気持ちを少し抑えたことで、ジャンプは確実に回りきって着氷する安定感が見えた。4回転6本で連続ジャンプを後半に集中させる高難度な構成をノーミスで滑りきり、歴代世界最高の227.79点を出すと、合計を333.76点にして圧勝した。

【「マリニン1強」を許さない戦い】

 自身の演技終了直後には苦笑いを浮かべていた宇野はこう話した。

「本当に僕らしいなと思いました。この大舞台ですばらしい演技をしたい思いはあったけど、そううまくいかないというのが過去の自分を振り返ってみても多かった。でも本当に、今日まですごく頑張ってこられてよかったです。

今は、清々しい気持ちで一杯です」

 鍵山も前を向いていた。

「ショート、フリーとも全力で最後まで滑りきることができたかなと思いますし、点数自体も納得がいくものでした。結果について満足している部分はあるけど、それでもやっぱり、すごく悔しいという思いのほうが今は強い。

 今回はどう頑張っても金メダルには届かなかったと思うけど、ここから来シーズン、そして(2026年)ミラノ(・コルティナダンペッツォ)五輪までどう戦っていけばいいか、しっかりと計画を立てながら、頑張りたいなと思いました」

 ネイサン・チェン(アメリカ)の世界最高得点に1.54点まで迫るマリニンの得点は衝撃だった。

 しかも彼は4回転フリップを入れた4回転7本構成の可能性も持っていて、現在のルールなら絶対的な強さを誇りそうだ。だが、構成が高難度になればなるほど、体調や環境に左右されるリスクは高まる。

とはいえ、追いかける日本勢としては、常に完璧な演技が求められる。

 次の戦いに向けて鍵山は「互いが100%出した時に勝てるというのはまず無理なので、地道な努力と練習が必要になってくる。まずは自分のできる技術をもっともっと増やし、スケーティングをもっともっと磨き、GOEをもっともっと稼いでいけるようなプログラムをつくり、来シーズンは1点でも2点でも追いつくことが目標かと思います」と話す。

 鍵山は以前、「自分はGOEを稼いでなんぼ」と話していたように、今回のフリーの4回転フリップでは基礎点が0.50点高いマリニンの4回転ルッツより0.12点高いGOE加点をもらっていた。

 他の要素も同じように質を高めていけば得点は伸ばせる。すでに跳べている4回転ループを入れた4回転5本構成への挑戦も必要だが、そのうえで羽生結弦が目指していたような、「ジャンプも表現のなかに含めたトータルパッケージ」としての完成度を高めていくことが課題になってくる。

 試合後は「納得している」と話し、今後の方向性については明らかにしなかった宇野も、再び追いかける立場として競技を続けるならば、鍵山と同じように4回転サルコウを入れた4回転5本構成は必須だろう。加えて、これまでも目指してきた表現面を含めた宇野らしいフィギュアスケートを完成させなくてはいけない。

「マリニン1強」を許さない戦いが、今後の男子フィギュアスケートでは必要不可欠になってくる。