Jリーグでは今後、逆風に挑む戦いを強いられるクラブが出てきそうだ。

 4月15日からカタールでAFC U23アジアカップが開催される。

今夏のパリ五輪予選も兼ねており、U-23日本代表も参戦する。当然、選ばれた選手たちにとっては飛躍の機会となるわけだが......。

 五輪代表には拘束権がない(国際Aマッチデーでもない)ため、シーズン中のJリーグの各クラブとの交渉で、最大3名まで戦力を貸してもらうルールになっている。それでも、日本ではまだ五輪サッカーの価値が高いため、U-23日本代表にも「日の丸」を御旗にJリーグ組を招集できているが、欧州組の招集は難しいのが現状だ。

 シーズン中の1カ月を離脱する――そこはどう取り繕っても、「大きなロス」だからである。

 J1第7節終了現在、首位を走るFC町田ゼルビアは、平河悠、藤尾翔太を送り出す。

また、混沌の上位争いに食いついているFC東京は荒木遼太郎、松木玖生、野澤大志ブランドンと3人の選手を供給した。ふたつのクラブは気鋭の若手不在をどう戦うのか――。

町田ゼルビア、FC東京...U-23日本代表に主力選手を招集...の画像はこちら >>
 町田に関しては、戦術構造的に、想定以上の影響を受けないかもしれない。

 なぜなら、黒田剛監督はそれぞれの選手のキャラクター、能力を引き出すことで、戦術そのものを運用する土台を作っているからだ。高さ、スピード、運動量、強度を役割で分担し、手段・目的を簡潔に遂行することによって、その効果を最大限に引き出す。革新性はないが、適応が早く、隙がない。

必ずしも能動的ではないが、攻守一体の原理が守られている。

 たとえば、攻撃中も守備をおざなりにしたポジショニングは許さないし、守っている間も必ず攻撃の選択肢を作る。プレスをかける位置、リトリートする高さ、チャレンジ&カバーなど、全体的なデザインに個人の強度や士気の高さを加えることで"黒田システム"が成立しているのだ。

「後半になって、自由にできたプレーができなくなった」

 第5節に対戦したサガン鳥栖の選手たちはそう漏らしていたが、「相手が嫌がる」ところを徹底できるチームと言えるだろう。

【ダメージを最小限にできる町田の戦略】

 代名詞となっているロングスローや、やや遠めからのFKも、そうした戦略のなかでの戦術と言える。欧州のアウェーゲームだったら、ブーイングに襲われるほど時間をかけたスローインも、待ち受ける選手にストレスを与えている。

ほとんどがセカンドボールを狙う攻撃だけに、もしヨーロッパのチームだったら局面よりはペナルティアークに人を置く対応をするのだろうが......。

 町田は戦略として、相手の弱点を抉るための原理原則が徹底されている。第7節の川崎フロンターレ戦も、左サイドを一発のパスで抜け出し、走力のまま折り返し、先制ゴールを決めていたが、対面する選手の裏をスピード勝負で制する目算があったのだろう。スピード、高さが各所に散りばめられ、そのインテンシティが高く、相手を裏返せる。ひとりひとりが役割を理解し、体現する点で練度が高く、迷いがない。

 その点で、平河、藤尾のふたりは、戦術的な役割を100%果たせる選手たちと言えるだろう。

どちらも戦闘精神旺盛で、プレー強度が高い。言わば黒田監督の申し子だ。

 特に平河は、今季第7節までの「リーグベストイレブン」に相当するような仕掛け、崩しを見せている。直近でも鳥栖戦では無双だったし、川崎が厳重な対策を講じてきたように、戦う前から相手に圧力を与えていた時点で"欠かせない武器"と言える。

 ただ、彼がいなくても町田のチームとしての戦術ベースは変わらない。局面での精度はやや落ちるだろうが、フォーメーションも変更できるはずで、ダメージを最小限にできる。

マイナーチェンジで、戦いの算段は立つだろう。

 一方、FC東京のほうは集団よりも個人の力で戦術を運用させていた印象が強い。荒木、松木のコンビがはまり出し、調子を上げていただけに、このふたりのロスは大きく響く可能性がある。

 特に荒木は、昨シーズンまでなぜ燻っていたのかわからないほど、異彩を放っている。ボールを持てるし、運べるし、アイデアを持って仕掛け、強度にも負けない。テンポのずれを生み出すような創造性は傑出しており、平河と同じく「序盤戦のベストイレブン」に値する活躍だろう。

1カ月という長いスパンの不在により、戦力ダウンを引き起こすのは避けられない。

 サイドを切り裂き、ゴールに迫る18歳の俵積田晃太のように、サイドアタッカーの人材はいるだけに、彼らが持ち味を出せる展開にまで持ち込めるか。その辺りがダメージを抑えるポイントになるだろう。

「残った選手たちで士気を高めて、モチベーションに変えられるように......」

 川崎戦後、町田の黒田監督は淡々と語っている。

「不安もあるかもしれないですが、そこで結束力を高めて戦えるか。昨シーズン、(エースの)エリキがいなくなった時もそうでした。誰が入っても、町田らしいプレーを再構築できるように。(送り出す選手には)日の丸を背負う責任があるし、国民全体の希望を感じ、それを体現して帰ってきてほしいです。親心で言えば、ケガのないように、ですが」

 今週末の13日、町田は昨季の王者ヴィッセル神戸と本拠地で激突し、同日、FC東京は東京ヴェルディとダービーを戦う。それぞれ簡単な試合ではない。しかし、今やJリーグは混戦の「下剋上状態」だけに、代わって入る選手にとってはチャンス到来だろう。