4月15日、カタールでAFC U23アジアカップが幕を開ける。今夏のパリ五輪に向けた予選を兼ねており、U-23日本代表は8大会連続の本大会出場を目指す。

アジアの3.5枠(上位3チーム、4位はギニアとのプレーオフに回る)を懸けた熾烈な争いだ。

 しかし、欧州でプレー実績を積む鈴木彩艶(シント・トロイデン)、鈴木唯人(ブレンビー)、斉藤光毅、三戸舜介(ともにスパルタ)、小田裕太郎(ハーツ)、福井太智(ポルティモネンセ)など、多くの選手がメンバー外になっている。当然だが、A代表の主力である久保建英(レアル・ソシエダ)もいない。IW(インターナショナル・ウインドー/各国協会が代表選手を招集できる期間)ではなく、海外のクラブに所属選手を出す義務はないからだ。

 一方で、かつて中心選手になると目されながら、名前が挙がらなかった選手もいる。

 世界に冠たるレアル・マドリードの下部組織で育ち、昨シーズンはセカンドチームであるカスティージャでもデビューを飾ったMF中井卓大(20歳、ラージョ・マハダオンダ)である。

レアルも認めた中井卓大は何に苦しんでいるのか かつての五輪代...の画像はこちら >>
 2022年4月、中井は「将来を背負う逸材」として、世界のサッカーメディアで注目を浴びていた。スペインユース国王杯決勝の延長で決勝点を記録。もともと攻撃的な才能の豊かさは認められていたが、「常勝」を重んじるクラブでは勝負を決められる力量が何よりも評価されるのだ。

「カスティージャのラウル(・ゴンサレス)監督は中井の理解者。ユースを率いていた時代もポテンシャルを確信し、引き上げている。2020年ユースリーグ決勝大会には、当時、2歳下の中井を飛び級で招集した。

特に攻撃センスの高さに期待し、目をかけている」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』はそう報道し、2022-23シーズン、ユースからプロ契約した中井の飛躍を信じて疑わないようだった。

 しかし、中井は期待を裏切ることになる。シーズンを通し、たった2試合の出場に終わり、出場時間は合計5分。2020年には当時トップチームを率いていたジネディーヌ・ジダン監督も関心を示し、2022年にはカルロ・アンチェロッティ現監督も視察に訪れるなど、ユース年代ではプレーセンスが図抜けていたが......。

【かつての柴崎岳に近いジレンマ】

 プロ入り以降、中井は苦しみ続けている。

 2年目の今シーズンも、カスティージャと同じ3部リーグのラージョ・マハダオンダに、1年間のレンタル移籍で新天地を求めたが、(4月12日現在)最下位に沈むチームで、定位置をつかめていない。

14試合出場も、先発は4試合のみ。成績不振により昨年最後の試合で監督が交代するなど、チーム事情に情状酌量の余地もあるが......。

 なぜ、レアル・マドリードも認めた日本人MFは伸び悩んでいるのか?

「テクニックレベルは高い。しかしコンディションを含めて、フィジカル的にまだプロでは準備が不十分。プレーに波が出るだろう」

 去年の9月、スペインで現地取材をしていた時点で、マハダオンダ関係者から不安な声が漏れ聞こえていた。その証言を裏づけるように、リーグ序盤は終盤での起用が続き、その後は控えに回り、昨年12月ころにはスタメンを勝ち取ったかに見えたが、再びベンチを温めるようになった。

 ラウル、ジダン、アンチェロッティと、お歴々にスキルやビジョンは認められていただけに、そのセンスは間違いない。ただ、その技巧を高い強度で出せるか。プロではそこが問われる。今や久保が軽々とその試練をクリアしているだけに簡単に思えるが、過去には多くの日本人選手がその壁に阻まれてきたのだ。

 中井が直面しているジレンマは、かつて柴崎岳が挑み続けた壁に近い。

 ふたりとも、前を向いてボールを持てばファンタジスタと言える。

しかしトップ下では接触強度が上がってしまい、持ち味を出せない。また、プレーメーカーではチームを動かす展開力を発揮するが、単純な守備で弱さが出る。そこで「サイドで起点に」となるが、サイドアタッカーには崩しのスピードが求められ、他の選択肢が上回る。結局、適切なポジションを探して彷徨うことになるのだ。

 現状、レアル・マドリードとは2025年6月まで契約が残るが、このままだと復帰は難しいだろう。

「レアル・マドリードで育った選手は王者の血を引く。

たとえトップに定着できなくても、どのチームでも戦えるタフさがある」

 そんな定評があって、カスティージャ出身はひとつのブランドになっているのだが、中井は現時点でそんな"不屈さ"を見せられていない。

 カスティージャ出身では、中井にとってMFの先輩、23歳のアントニオ・ブランコはアラベス、22歳のセルヒオ・アリーバスはアルメリアと、それぞれ1部でレギュラーの座をつかんでいる。

 ほかにも、アルバロ・モラタ、マルコス・ジョレンテ(ともにアトレティコ・マドリード)、マルコス・アロンソ(バルセロナ)、ダニ・パレホ(ビジャレアル)、ボルハ・マジョラル(ヘタフェ)、ミゲル・グティエレス(ジローナ)、パブロ・サラビア(ウルバーハンプトン)、セルヒオ・レギロン(ブレントフォード)、ディエゴ・ジョレンテ(ローマ)など、市場価値の高い代表レベルが枚挙にいとまがない。

 逆説すれば、レアル・マドリードと9歳の時に契約してカテゴリーを駆け上がってきた中井も、同じDNA を持っているということだろう。

 カタールでU23アジアカップを戦わずとも、中井はすでにマーケットのなかにいる。リーグ終盤、マハダオンダでポジションを得て、チームを勝利に導くプレーができたら、運命は急転する。久保がレアル・ソシエダというクラブでフィットしたように、クラブのプレーコンセプトや状況次第で、大化けする可能性もある。

 中井の戦場はカタールではなく、スペインだ。