アメリカ(FIFAランキング4位)、カナダ(同9位)、ブラジル(同10位)と日本(同7位)が参加した『SheBelieves Cup』で、日本はアメリカとの初戦に1-2で敗れ、3位決定戦でもブラジルに1-1からPK戦の末に敗戦。最下位で大会を終えた。

ここである程度の手応えを掴みたい日本だったが、収穫以上に勝負弱さが浮き彫りとなってしまった。

なでしこジャパン パリ五輪でメダルが望めない勝負弱さ 本番の...の画像はこちら >>

【左サイドの激しいメンバー争い】

 わずか18枠のオリンピックメンバーに現状で最も近いのは誰か――。

 パリ五輪に向けて、人材的に最も懸念されていたのが左サイドだ。アジア最終予選直前に、これまで左サイドバック(SB)を担っていた遠藤純(エンジェル・シティ)が左前十字靭帯を損傷し、パリ行きが絶望的となった。ワールドカップで覚醒し、さらなる向上が期待されていただけにこの穴は大きすぎる。

 昨夏のワールドカップで得点王となった宮澤ひなた(マンチェスター・ユナイテッド)は昨年12月のブラジル遠征で足首を骨折し、今大会で復帰を果たすも万全ではなく、左サイドの戦力が激薄状態に陥っている。

 初戦のアメリカ戦で左SBを託されたのは、本来は右SBの守屋都弥(INAC神戸レオネッサ)だった。

起用を知ったのは試合2日前。アメリカ戦では5、6年前のわずかな左サイド経験を思い出しながら戦い、ゴールライン上のボールをかき出すファインプレーを見せたが、攻撃面では高い位置でボールを持つ機会がほとんどなかった。

 彼女の左サイドでの起用を視野に入れるなら、ここから4カ月で感覚を掴まなければならない。「めっちゃ左からのクロスの練習をしてます(笑)」と、本人も自分に課せられた新たなテーマに全力で取り組んでいる。左右のサイドをこなせるようになれば、頼もしい存在になるはずだ。

 また、同じ左サイドで当確レベルの働きを見せたのが、北川ひかる(INAC神戸レオネッサ)だ。

アジア最終予選では遠藤の代わりに追加招集され、十分にその責を果たした。今大会前のWEリーグでの接触プレーの影響でアメリカ戦の出場は見合わせたが、3位決定戦ではブラジルを相手に何度も左サイドを突破し、幾度となくチャンスを作った。

 惜しくも得点にはならなかったが、藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)へのダイレクトパスは見事だった。「背後に抜け出したり、ワンタッチやダイレクトでパスが出せたり......自分のできることはやりました」(北川)と、本人も満足げだった。

 宮澤も今大会で復帰し、杉田妃和(ポートランド・ソーンズ)も含めて、左サイドの競争は激しさを増しそうだ。

【センターバックやボランチには安定感】

 センターバックは、熊谷紗希、南萌華(ともにローマ)を軸に、急成長を見せる古賀塔子(フェイエノールト)、ケガからの復帰が間に合いそうな髙橋はな、石川璃音(ともに三菱重工浦和レッズレディース)ら代表経験のある選手の争いとなりそう。右サイドを担う清水梨紗(ウェストハム)も柔軟な対応ができるため、人員は足りている。

 その清水が抜群の安定感を誇る右サイドは、選手層の薄さが否めない。パリ五輪本大会は移動を含む連戦となり、疲労を考えると清水を全試合に出場させることは避けたい。清水の不在は想像したくもないが、守屋は本来ここが定位置であり清水のバックアップになるはず。いずれにしても、左右両サイドをかけ持ちできる選手が複数人欲しいところだ。

 ボランチは昨年のワールドカップメンバーの長谷川唯(マンチェスター・シティ)、長野風花(リバプール)、林穂乃香(ウェストハム)に加えて、谷川萌々子(ローゼンゴード)が名乗りをあげた。アンカーもこなせ、的確なフィードに加えて、自らゴールを狙うこともできるホープ。

ワールドカップにサポートメンバーとして帯同した古賀とともにすでにチームに溶け込んでおり、伸びしろしか感じない。

 また、豊富な運動量でアップダウンするFWの田中美南(INAC)は、欠くことのできない存在になった。チームとして、藤野を中心にゲームを作ることも、コントロールもできているだけに、FWのフィニッシュの精度が上がれば起爆剤になり得る。植木理子(ウェストハム)、清家貴子(浦和)、浜野まいか(チェルシー)らがポジション争いに絡んできているが、とにかく欲しいのは決定力だ。

 今大会は決定機をスコアに結びつけられずに足元をすくわれた。しかも、3位決定戦では90分の試合中のPKとPK戦のトータル4本をすべて失敗。

球威のなさだけでなく、コースも甘かった。

 オリンピック上位進出に不可欠な「勝負強さ」は残念ながら見られなかった。結果をもぎ取るメンタルの持ち主であれば、シーズン終盤に入るWEリーグでの活躍次第で、代表に返り咲く選手や初招集される選手もいるかもしれない。

【隙のあるチームに勝ちきれない】

 今回、課題として突きつけられた勝負強さについて言及する、長谷川の姿が印象に残る。PK戦の最後のキッカーとなった長谷川は、失敗に終わったあと、珍しく悔し涙を滲ませていたが、それは自らのPK失敗だけが理由ではなかった。

「PKはもちろん自分の責任。

でも、そもそもPK戦にしてしまった時点で負けだった。後ろがしっかり守ってくれていて、(北川)ひかるがいいボールを何度もあげてくれて、それを得点にできなかったことに責任を感じます」(長谷川)

 今大会の4チームはすべてパリ五輪に出場する。しかもブラジルは日本と同じグループCに属しており、オリンピックの前哨戦としてこれ以上ない相手だった。アメリカ戦は勝てた試合、ブラジル戦は負けてはいけない試合だった。

「毎回、本大会じゃなくてよかったなっていう話をしていたら何も成長しない。今日(のブラジル戦)は勝たないと何も始まらないでしょっていう感覚を、自分のなかでは持ってます」(長谷川)

 パリ五輪の出場国は12チーム。アメリカ遠征を終えた同日に、ナイジェリア(FIFAランキング36位)がグループCに入ることが決定した。昨夏のワールドカップ出場国が32カ国であったことを考えると、いきなりベスト16からスタートするようなもの。容易く勝てる試合などひとつもないだろう。

 世界女王であり、FIFAランク1位のスペインがいるグループCを、日本はなんとしても上位通過し、決勝トーナメントに少しでもいい条件で進出する必要がある。その指標として今大会は大きな意味を持っていた。

 確かにアメリカ、ブラジルは強いが、それぞれの絶頂期ほどの怖さを感じることはなく、まだ仕上がってはいなかった。しかし、つけ入る隙のある相手に勝ちきれない現状の日本のままでは、メダル射程圏内と言うのは無理がある。

 パリ五輪まで4カ月を切った。残る実戦の機会は、5月下旬から予定されている海外遠征と、オリンピック直前に開催できるかいまだ不透明な強化試合。それを踏まえると、なんとももったいない今回の遠征になってしまった。ここから選手たちそれぞれのレベルアップに期待を寄せたい。