内田嶺衣奈×海老原優香 フィギュアスケート対談 中編(全3回)

 フィギュアスケート中継を担当するフジテレビの内田嶺衣奈アナウンサーと海老原優香アナウンサーのふたりが対談。

 中編では、今季華々しく復活を遂げた鍵山優真選手、個性的なスケーティングを見せる三浦佳生選手の魅力に迫る。

また、取材現場で感じたフィギュアスケートの魅力とは?

鍵山優真復活の舞台裏 内田嶺衣奈アナと海老原優香アナがフィギ...の画像はこちら >>

【鍵山優真の強さの秘密】

ーー鍵山優真選手はコンプリートなスケーターという印象です。昨シーズンはケガに苦しみましたが、全日本選手権と世界選手権で2位と鮮やかな復活劇でした。

海老原優香(以下、海老原) 鍵山選手はブランクもあったので、「1年間で自信と技術を取り戻すことができたのに、びっくりしています」とご自身も話していました。でも取材している私たちから見たら、あれだけの練習をしていてもびっくりするほどだったんだな、想定を超えていることをしたんだなって思いますね。

 プレッシャーやブランクもありながら、世界選手権で2位。それは、もともと持っていた土台の強さが出たんだと思います。鍵山選手は、細かいところまで滑らかな動作が美しいのが強みなのかなと感じています。

鍵山優真復活の舞台裏 内田嶺衣奈アナと海老原優香アナがフィギュアスケートを語らう

内田嶺衣奈(以下、内田) お父さんの(鍵山)正和コーチも、「ここまで結果を出せると思っていなかった」とおっしゃっていて、そばで練習を見ている方でさえ、そう思う今シーズンの躍進だったんだと感じました。

 あと、このタイミングでカロリーナ・コストナーさんがコーチに就いたことが、さらなる変化、ステップアップのきっかけだったと思います。表現面がより磨かれて、「繊細な表現がすごくよくなった」と言われているんですが、鍵山選手が技術面だけでなく「精神面をすごくサポートしてもらっている」とおっしゃっていて。

 コストナーコーチには「精神的に集中するのが大事。自分の泡をつくるんだよ。泡のなかに入っている、というイメージを描いて」と言われたそうです。

どうしても試合前に心がざわついてしまう時、泡のなかにひとりでいるイメージがあれば、周りの雑音に心を乱されないから、と。「自分にフォーカスして、どの試合も同じだと思って挑みなさい」って言ってもらえたのは大きかったようです。心を落ち着かせてくれるコストナーコーチの存在が、鍵山選手の強さにプラスされているんだと思います。

 それから、今シーズンの鍵山選手といえば、4回転フリップ。全日本で結果を出し、四大陸選手権も優勝しながら、シーズン集大成の世界選手権で初成功させました。GOE(出来ばえ点)も4.56点! あれだけクリーンなジャンプを成功させられたのは、未完成だけど挑戦して"あの舞台で降りたい!"という向上心と攻めの姿勢があるからこそ。

今後が楽しみです。

鍵山優真復活の舞台裏 内田嶺衣奈アナと海老原優香アナがフィギュアスケートを語らう

【フィギュアスケートの特殊性】

ーー三浦佳生選手はスピード感や闘争心などが際立ち、個性的なスケーティングでシーズンを戦い抜きました。

海老原 私も中継を担当した全日本で、三浦選手は体調が悪いなかでの出場でした。試合当日、朝の練習を(胃腸炎で)行なっていないほどでしたが、その苦しいなかでも全力投球というのがわかる、すさまじい気迫でした。

 本人は演技の出来そのものに納得できない部分もあったと思うんですが、お客さんがここまで来てくれたのに演技しないわけにはいかないという思いがこもっていて。そんな思いやりも三浦選手の強みのひとつだと感じました。

鍵山優真復活の舞台裏 内田嶺衣奈アナと海老原優香アナがフィギュアスケートを語らう

内田 三浦選手は、楽しみっていうひと言に尽きます。パッション系スケーター! いつも一生懸命で、練習からずっとそうで、とにかく応援したくなる選手です。今シーズン、フリーの『進撃の巨人』は三浦選手にしか演じられないプログラムだと思いますし、スピード感や勢い、気迫、独特のものがあると思います。

ーーフィギュアスケートはあらためて、たったひとりでリンクに立ち、すべての注目を浴びながら表現に臨むという独特な競技。でもだからこそ、そこに物語があって、驚きもあって、いろんな選手が出てきますね。

海老原 たくさんの観客がいるなか、勝ち負けだけでなく表現力も求められる採点競技で、たとえば野球とも水泳とも違って、独特なところもある競技だと思います。

そのなかでお客さんは、選手がミスして転んでも拍手をして、スケーターの一挙手一投足をすごく見ている。

 ファンの方々は選手のストーリー、過程を知ったうえで、その選手がどこに向かって行きたいのかを感じて応援しているんだなって、現場で取材していて感じました。

内田 どういう意図で起こっている拍手か、そこに伝わってくるものが繊細で、そこもフィギュアスケートの魅力と言えますよね。先日の世界選手権はカナダ・モントリオールでしたが、北米開催の大会はファンの熱量がすさまじいんです。ジャンプひとつ降りたら、「フー!」ってすごい歓声が降り注いで、リアクションのテンションがものすごく高い! 失敗した時も盛り上げて応援しようとする姿勢が伝わって、小さな子どもからシニア世代まで、ウインタースポーツが地域に根付いているんだなと感じました。

鍵山優真復活の舞台裏 内田嶺衣奈アナと海老原優香アナがフィギュアスケートを語らう

海老原 みんなで選手を鼓舞するみたいな?

内田 そう! スケーターにとって、自分の演技に歓声がすべて降って来るみたいな感覚は、たぶん怖さもあると思うんですが、背中を押してくれる心強い味方でもあり、それでさらにすばらしい演技になったり、そういうところにもドラマがありますよね。

海老原 フィギュアスケートを取材するようになって感じたのが、それぞれのスケーターが、ライバルを追いかけたい、越えたいという競争心を持っていると同時に、ひとりの選手としても人としてもお互いをリスペクトしているところ。みんな、心から拍手を送っているんですよ。そういう人たちの集まりだからこそ、どんどん向上できるんだろうなって思います。

後編<坂本花織は「オーラがある」「強さを感じる」 内田嶺衣奈アナと海老原優香アナがなりたいスケーターは?>を読む

前編<内田嶺衣奈アナと海老原優香アナ、フィギュアスケート担当のふたりが目撃した宇野昌磨の変化>を読む

【プロフィール】
内田嶺衣奈 うちだ・れいな 
1990年、東京都生まれ。上智大学卒業後、2013年フジテレビに入社。現在はフィギュアスケート中継のほか、『プライムオンラインTODAY』(BSフジ)メインキャスターなどを担当。趣味は料理と旅行、特技はフランス語。

海老原優香 えびはら・ゆか 
1994年、東京都生まれ。学習院大学卒業後、2017年フジテレビに入社。2023年からフィギュアスケート中継を担当。『Live News α』金曜メインキャスターなども務める。趣味はゴルフで、番組でついたあだ名は「ブンブン丸」。