チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝第2戦。パリ・サンジェルマン(PSG)に対して、アウェーの第1戦で2-3の勝利を収めていたバルセロナは、2018-19シーズン以来5シーズンぶりのベスト4入りに向け、視界良好な立場にいた。
もっとも第1戦の試合内容はたったくの互角だった。第2戦でどちらが先に点を取るか。戦前の焦点はそこに絞られていた。
前半12分、ウイングのラミン・ヤマル(スペイン代表)が右サイドを突破。最深部をえぐり近距離から折り返したボールをラフィーニャ(ブラジル代表)が合わせ先制点を決め、合計スコアを4-2とした瞬間、バルサは勝利を大きくたぐり寄せたかに見えた。
それにしても、ヤマルのウイングプレーはキレていた。だが、このワンプレーでメンデスの闘争心に火がついたようだ。前半29分、バルサのセンターバック(CB)ロナウド・アラウホ(ウルグアイ代表)がヤマルに出したフィードを、前方への渾身のダッシュでパスカットを決めたのだ。それは同時に、PSGの左ウイング、ブラッドリー・バルコラ(U-21フランス代表)への縦パスとなった。
バルコラと対峙する恰好になったのはアラウホ。
3分後、バルサのシャビ・エルナンデス監督は手を打った。アラウホ退場で穴になったCBにイニゴ・マルティネス(スペイン代表)を投入。代わりに下げたのは活躍したばかりのヤマルだった。
その数時間前、CB西尾隆矢が退場に処されたU-23日本代表対U-23中国代表戦と似た展開となった。日本とバルサの4-3-3から4-4-1への布陣変更も同じである。唯一の違いはベンチに下げた選手のポジションになる。日本の大岩剛監督が下げた選手がMFの山本理仁であったのに対し、シャビ監督は右ウイングのヤマルだった。
【守勢一方となったバルサ】
バルサはそれまで左ウイングを務めていたラフィーニャを右にコンバートし、左にはそれまでインサイドハーフを務めたペドリ(スペイン代表)を入れた。典型的な中盤選手に左サイドをカバーさせようとした。
ここが試合のターンニングポイントとなった。
PSGと言えば1トップを張るキリアン・エムバペ(フランス代表)に目を奪われがちだが、ルイス・エンリケ監督率いるこのチームは、先述のバルコラとウスマン・デンベレ(フランス代表)を左右に張らせるウイングプレーをフィーチャーしたスタイルが売りだ。リオネル・メッシ(インテル・マイアミ)、ネイマール(アル・ヒラル)が在籍した昨季までより、それは鮮明になっている。
10シーズン前(2014-15)、バルサをCL優勝に導いたルイス・エンリケの采配は、シャビよりバルサらしい。
バルサといえば、最近のファンならば中盤サッカーをイメージするだろう。シャビが選手として活躍した時代のバルサは、確かにともすると中盤重視のサッカーに見えた。アンドレス・イニエスタ、デコ、セスク・ファブレガスら小柄な中盤選手が活躍するサッカーである。ペドリもその流れをくむ選手になるが、伝統的なバルサの本質はウイング重視のサイドアタックにある。
その昔、4-3-3を敷くチームは世界的に見てもバルサに限られていた。他にはオランダのチームと、ズデネク・ゼーマン(イタリア・フォッジャなどの監督を歴任)が率いるチームぐらいに限られていた。
バルサの監督だったヨハン・クライフはサイド攻撃の重要性、とりわけ、マイナスの折り返しがどれだけ有効なプレーかを、インタビューした筆者にしきりに説いたものである。
10人になったバルサは守勢一方となった。特に左はサイド攻撃でPSGを慌てさせることがまったくできなくなっていく。PSGが合計スコアで2-4から3-4に詰め寄った前半41分のゴールには実際、両ウイングが直接的に絡んでいた。バルコラの左からの折り返しを逆サイドのデンベレが押し込むと、PSGの攻撃はいっそう活気づくことになった。
【サッカーの質が向上したPSG】
後半10分には合計スコアを4-4とするヴィティーニャの同点弾が生まれ、その直後にはバルサの左SBジョアン・カンセロ(ポルトガル代表)が対峙するデンベレを倒し、PKを献上。エムバペに決められあっさり逆転を許した。
シャビ監督は左サイドの弱点に目が行ったのか、ペドリを下げ、ウイングタイプのフェラン・トーレス(スペイン代表)を投入。攻撃力アップを図った。だが、時すでに遅し。後半44分にはエムバペにダメ押しゴールを許し、万事休した。バルサは通算スコア6-4でPSGに屈した。
バルサは"バルサ度"でPSGに劣った。そんな印象だ。今季も低迷から脱することができなかった。欧州クラブランクは現在12位まで低下している。1978年以来守ってきたトップ10圏内から46年ぶりに転落した状態にある。バルサが強くないと欧州サッカーは面白くないと言われたものだが、その役割をマンチェスター・シティなど、他のチームに奪われてしまった恰好だ。
逆にPSGはメッシ、ネイマールが去ってサッカーの質そのものはむしろ向上した。4強(マンチェスター・シティ、レアル・マドリード、バイエルン、アーセナル)が準々決勝で潰し合いを演じるなかで、スルスルと優勝をうかがえる位置まで上り詰めてきた。ルイス・エンリケは密かに自身2度目のCL制覇を狙っているはずだ。
この日行なわれた準々決勝のもうひとつのカードは、ドルトムントが合計スコア5-4でアトレティコ・マドリードに逆転勝利を収めた。
ドルトムント対PSG。準決勝を制して決勝進出を果たすのはどちらか、楽しみである。